御挨拶

Author: zoomaster

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動物園ライター・森由民(もり・ゆうみん)です。

写真は福岡市動物園での取材中です(2016/04/12)。

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 わたしは、株式会社エイチ・アイ・エスの「旅の達人ブログ」のひとつとして、2012/4の京都市動物園から、動物園紹介ブログ「勝手に行くZOO」(※)を連載してまいりましたが、2014/12をもって、ひとまず終了ということになりました。この間にお受けしましたエイチ・アイ・エスの皆様の御厚意には、心より御礼申し上げます。

※諸般の事情で、このブログは既にネット上から削除されています。

一方で、わたしのブログ自体は、動物園ファンの皆様を中心に、日々のヒット数などで、一定の御好評を頂いてきたと認識しております。

つきましては、このたび、公益施設ほかのサイト構築等を業務とする株式会社エスアンドの支援を受け、新たな動物園紹介ブログ「勝手に来たZOO」を立ち上げることといたしました。従来のH.I.S.ブログとは公式のつながりは一切ありませんが、わたしという書き手の中では、H.I.S.ブログの取材・執筆の中で培わせていただいたものを、さらに磨き、少しでも多く、動物園の魅力を伝えていきたいと思っております。皆様には、引き続きの御愛顧を賜れば、幸甚です。差し支えなければ、何卒宜しくお願いいたします。

シャボテン121010 003s

ハシビロコウのビル。オス。日本最高齢(1971年、成鳥として来日~1981/4/28、伊豆シャボテン公園来園・2012/10/10撮影)。

理系廃業宣言

Author: 森由民

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なお、拙・Facebookはネット検索可能ですので、御高見等はそちらにお寄せいただければ光栄です。

1.
2021年を迎えた現在、相変わらずもっぱら理系的な仕事が主ではありますし、それはそれで手応えもあれば、何よりありがたいことではありますが、自分の仕事のレベルの自己判定は何ほどのものか、そこで自分自身が理科系という観念とどう向き合っているのか、そして、動物園を論じるとは理系の仕事なのか、そういったことを少しばかり丁寧に考えてみようというわけです(※1)。

※1.現在、わたしは日本語の肩書を「動物園ライター」、英語表記を”Zoo Critic”としています。この英語を和訳すると「動物園評論家」になってしまい、その語感・既成の含意は、わたしが考える批評(criticism)とは程遠いものと思われるので、ひとまず日本語では動物園ライターで行きます。
しかし、なすべきことは動物園批評であり、この「批評」をどんな営みとして実現するかが「おまえは何者だ」という問いへの応答にもなるかと考えています。いずれは「動物園批評宣言」を書かなければならないのでしょう。

まず、これは動物園ライターと名乗りはじめた時から言っていることですが、わたしの探究対象は動物園であって動物ではないので、動物の専門家的に扱われるのは御遠慮するしかないということです。また、動物園についてもあくまでも外部のまなざしを保持したいと思っています。この十年あまりの実感として、マスメディアにおいては、わたしのような者はすぐに動物園人や動物学者の代用品としてフィーチャーされてしまいますが、出来る限り、そういうあり方からは遠ざかりたいと思っています。
まがりなりにも理学部生物学科卒業なので、自分に科学的素養がないとは言えません。科学的に誤ったことを吹聴するなら、相応に重い責任を問われなければならないでしょう。しかし、だからこそ単に学歴というだけでなく、自分の見識が所詮は実質的にも学部どまりというのも自覚せざるを得ません。動物園のなかや周辺でその程度のレベルの者が専門家然と得々と語るのは倫理的に間違っていると考えます。
ここで「倫理」というのは単に現状において社会的・文化的に認められているかではありません。つまり、現状の動物園でわたしの知識が通用するかどうかは判定基準にはなりません。倫理との対比で言えば、そういう判別は「道徳」と呼ばれるに過ぎず、倫理とはもっと普遍的かつ内在的な規準です。平たく言えば、自分自身を他者のように論評してみた時、矛盾なく自分を許せるか、という問いになるでしょう。

2.
何やら大仰に振りかぶった話になりましたが、動物について勉強不足だというならば学べばよいではないかという当然の問いに対して、自分が感じている限界のポジティヴな面をお話ししておきましょう。
限界にポジティヴさなどあるのかと、さらに疑問ではありましょうが、手先の不器用さ(大学時代の恩師の折り紙付き)を含めてのネガティヴな限界を痛感する一方、それなら何をするのだ、何が出来るのだ、何をするべきなのだと考える時、エネルギーを注ぐべきなのはどんな方向なのか、ということです。
何につけ、専門研究に在野独自の貢献が期待できる時代とは言い難くなっています。特に理系を中心とした実証科学に顕著と思われますが、動物の話に限るとしても、確かに在野でも一定の学びは出来るし、自分のフィールドをもって観察することも出来る。しかし、その知見を学問の中に位置づけるにはやはりアカデミックな世界と連携していなければなりません。
重箱の隅をつつく学者をよそに、自由な知性をはばたかせる無冠の野人というのは、ただのロマンでしょう。たとえば、自分がフィールドとする森、対象にする動物について、つぶさな観察とかけがえのない体験を持つとしても、その人はそこまでの範囲では研究者とは呼べず、優れたインフォーマントと見なされるべきです。
だいぶ前に、南方熊楠を研究する方とお話ししたことがあります。
「熊楠は当時の欧米の学者たちから、どのように評価されていたのでしょうか」
「インフォーマントでしょうね。和文・漢籍を自由に読みこなせ、それを英語の論文にまとめることが出来るひととして」
身も蓋もないけれど、孤高の天才・不遇な在野の巨人という物語に酔うばかりでは、見失われるものがあるのも事実です。
ニーチェの『悲劇の誕生』は発表当時、文献学の論著として実証性の不足を批判されたと言います。それは彼の著作を哲学なり思想なりとして読む時の価値とは別の話です。

論点を整理しながら、さらにいささか展開してみます。
現代において在野で実証科学を行うことには限界があります。ひとつの具体例として、在野で動物学者等々を標榜することには多くの場合に危うさが伴います。そのような振る舞いは、本来の動物学の普及を妨げこそすれ、推し進めはしないでしょう。
さらに危惧するところとして、世の中は明らかに、在野の知・現場一筋の人の経験知といったものを神話化していますし、そこまでいかないまでも、単純化された知をもっともらしく呈示することは数多のメディアの常套手段です。そこでは学問の慎重さ・歯切れの悪さ・論理の多重性といったものは小難しいと敬遠され、逆に個人的な体験の類いは、その偏狭さの吟味よりも、実感すなわち真実であるかのような話の運びがあるように見受けられます。後でも論じるように、これは物語であり、このような物語と踵を接しつつ、根柢で異なるべきなのが批評の営みであると考えています。
これは、動物園が自らの提示する動物イメージを一般の人々の欲求への迎合として組織してはならない、来園者の常識を揺さぶることでひとまずの反発を買うことを恐れてはならない、ということとも重なるでしょう。しかし一方で自由な学びの提供として、単に権威的な地位に甘んじてもならないというのが、動物園が担う困難な課題となるのですが。

3.
現在、職業上の名乗りを「動物園ライター・Zoo Critic」としているというのは既に御紹介しましたが、動物園ライターという名称自体が、ほぼ自作です(※1)。最初に「動物園ライター」という名刺をつくったのは、2007/12/2に東京農工大学での動物観研究会に初めて参加した際です。
この段階ではそこまでの見通しはありませんでしたが、この会には継続的に加わらせていただいており、同会誌にいくつかの文化批評・文芸批評的なものを発表しています(※2)。
動物園作家という肩書もちらりと考えたのですが、作家という日本語はなんとなく小説を書かなければならない感じですし、しかし、物語めいたものは書く気がしなかったでやめました。いま現在、自分はライターというよりは「作家」だとも思いますが、それはいわば文学的な意味です。ここで「文学」というのは物語を語るに落ちてしまうことに対する抵抗の実践だと考えていますので、いわゆるフィクションを書かず(※3)、取材事実(ノンフィクション)についてもある種の語り方を避けていることと、作家という自覚は一体となっています。

※1.厳密には、宮島康彦『日本カバ物語』(1991年)のなかに、提灯記事書きのようなものではない動物園ライターが生まれるべきだとの記述があります。

※2.昨年発表の最新論文(後述)以外は、こちらからPDFのかたちで御覧いただけます。

※3.いまのわたしには物語を超えた小説を書く能力はありませんし、かといって物語を綴ることはわたしの中の批評家が許しません。
そんなわたしには実作できませんが、既存の範囲で、物語を超える試みとしての小説とはどんなものかについては、※2の批評のいくつかで紹介し論じています。

以下、いくつかの旧作を挙げて、具体的なお話をしてみます。

デビュー作というべきマンガ『ASAHIYAMA 旭山動物園物語』(拙原作、本庄敬・画)は「物語」と題されていますが、もっぱら本庄敬の絵の繊細さによって、単なるストーリーを超えた描写性を獲得しているのではないかと思っています。
わたしとしても、少しでも鮮やかなプロットをつくることを試みました。ここでプロットとは物語ることの整然とした仕掛けではありません。物語は、ある種の経済性を求めます。そして、描写は時にそれに抗う冗長性(redundancy)を孕み得ます。振り返れば本庄の画力に大いに頼っていましたが、ストーリーのところどころ折々で読者に映画のワンショットのようなきらりとした感興を齎し、濃やかな持続性を醸し出せないかと考えてシナリオを書いていたのです。
また、ストーリー自体も、全三冊のうち後半二冊はもっぱら連作短篇的なのですが、都度々々、何か先への不確定な広がりを感じさせる、あくまでもとりあえずの結末に出来ないかと趣向を凝らしたつもりです。
不躾な自画自賛めきますが(繰り返しながら、絵は描いていませんが)、ストーリーやテーマに還元できない魅力や品格においては、いままで動物園をモチーフに書かれたマンガの中でも指折りと自負しています。

二つの児童向けノンフィクション『ひめちゃんとふたりのおかあさん』『約束しよう、キリンのリンリン』についても描写するとはどういうことかと考え続けました。
また、マニュアル的ということではありませんが、飼育作業等の事実性(取捨選択ひいては脚色は行なっていますが)が孕む、単に叙情だけではないロジカルさといったものが読み取れるようにしなければと念じていました。実際問題としても「愛だけじゃ飼えない、愛がなければ飼う資格はない」だと思いますし。
なかなか思うには任せませんでしたが、ストーリーに要約できるという意味での物語性には抗いたかったし、登場する動物や、フィクティヴなものを交えながらも描かせていただいた人物の方々には心からの敬愛の念を表しますが、感動物語やヒーロー・ストーリーに終わっては動物園を描いたことにはならないと考えていました。その考えはいまも変わっていません。
さらに、わたしの本が流通することで動物園に関する既存の図式が強化されるだけなら、何のために書いているのかわからないと、これもずっと思っていることです。これは、既に記した“Critic”が「評論家」と訳されることへの危惧とつながります。日本において、評論家とは人びとの期待の水準に合わせた物語の供給者であることがほとんどなのではないでしょうか。だからこそ、テレビのバラエティなどでも、お手頃なコメンテーターになれるんじゃないか。こういうことはあまり軽薄に言い散らすべきではないので、ここまでにしますが。

4.
>すべてが、なんて退屈だろう。しかし、なぜ、こんなに、なつかしいのだろう。<(坂口安吾「青鬼の褌を洗う女」)  以下では、一番決定的に理系ならざる動物園ライターでありたいと思う部分について記します。いままでの、批評云々のお話からはいささか逸脱することにもなりますが。  わたしの仕事は動物園・水族館を取材して記事を書くこと、趣味は動物園や水族館でぼぉとすること。そんなふうに自己紹介していますが、本当にやりたいのはただただぼぉとすることなのです。勤勉なひとならば、そんな過ごし方には次の活動に向けてのレクリエーション(recreation)以外の価値を認めないでしょうし、しばらくの休憩はともあれ、そんなことを続けていたらいずれ退屈してしまうだろうと言うのではないかと思います。  しかし、まさに没価値に深い退屈に浸ること、それがわたしの求めるものです。  ハイデガーは退屈に三つの形式を認めています。 >ハイデガーの言う[退屈の]第一段階とは「或るものによって退屈させられる」ということであり、その典型は何かを待っているときに生じる。田舎の駅で列車を待っているとき、駅舎や風景全てが私を退屈させる。[……]ハイデガーはここから、役に立たない事物によって「空虚に放置される」ことと、滞る中間的時間経過によって「引き留められる」ことを、退屈の本質的な構成要素として取り出す。そしてさらに、この二つの構造契機の関係をより掘り下げるため、「何かに際して退屈する」という第二の形式が問題にされる。夕食会への招待を例にとると、そこでは食事も会話も音楽も良い趣味で、一同はくつろいだ一時を過ごして別れるのだが、しかし家に帰ってやりかけの仕事に目を通したとき、ふと気付いてしまう、自分は今晩の集まりに際してやはり退屈していたのではないか、と。
第二の形式においては一見、退屈させるものも退屈しのぎも見当たらないが、それもそのはずである。何しろ、この夕食会そのものが退屈しのぎであり、退屈させるのは私たちが時間を待っているというそのことに他ならないのだから。[……]それではしかし、このような一時がいつどこでどれだけ続くのか特定できなくなり、誰が何のためにそれを用意したのかもわからなくなるとすれば、いったいどうなるのか。ハイデガーによると、「なんとなく退屈だ」という第三の「深い」退屈が生じるのは、まさにこのような時なのである。<(串田純一(2017)『ハイデガーと生き物の問題』,法政大学出版局:79-80)  そして、ハイデガーはこう記します。 >[……]深い退屈において自らを顕わにする「全体における」のこの広がり、これを私たちは世界と名付ける。[……]< (ハイデガー「形而上学の根本概念」=串田前掲書:82※1)

 

※1.以下、ハイデガーの引用はすべて同様です。

 

しかし、ハイデガー自身、ここで何かを解き明かしているわけではないようです。

>[……]ハイデガーが[深い退屈の説明として]使っている「瞬間」や「繋縛」、「世界」といった諸概念は、それによって私たちが何かを理解できるようなものではなく、逆に、深い退屈のただ中でその気分を言語的に解釈した結果として初めて理解可能になる言葉にほかならない[……]ハイデガーは、哲学・形而上学の根本概念においてはこうした事態が常に起こっていると言い、だからこそそうした諸概念に関する理解を直接与えることはできず「形式的告示[formale Anzeige]」をするに留まらざるを得ないと述べている。<(串田前掲書:84)

>深い退屈を呼び覚ますことができないという事態は、哲学者の能力や方法の不全によるのではなく、気分というものの存在論的性格に由来している。この「根本気分を現に生起させることができない」という点こそ、後にハイデガーが振り返ったように言語の――少なくとも概念的なそれの――本質的な限界の一つなのである。<(同上:87-88)

つまり、わたしたちは言語によって世界を認識しているが、そのこと自体によって世界から隔てられているということです。ハイデガーは存在者と世界の関係について、これもまた三つのあり方を挙げています。 >人間は、単に世界の一部であるだけでなく、世界を「持つ」という仕方において、世界の主人であり下僕である。人間は世界を持つ。では人間以外の存在者、人間と同じようにやはり世界の一部であるもの、動物・植物および例えば石のような物質的な物においてはどうなっているのだろうか。[…]ここには、未だ粗雑にではあるが、いくつかの区別が見られる。この区別を私たちは三つのテーゼによって定式化する。一、石(物質的なもの)は世界を持たない[weltlos]。二、動物は世界が貧しい[weltarm]。三、人間は世界を形成している[weltbildend]。<(ハイデガー=同上:22-23※1)

 

※1. このハイデガーの「動物世界論」とでも言うべきものは、以下の拙論でも江國香織の一冊の長篇小説を批評するにあたっての軸となっています。 森由民(2020)「隙間の世界 江國香織『ヤモリ、カエル、シジミチョウ』をめぐって」, 『動物観研究』No.25:31-40

 

ここには、ハイデガーの人間以外の動物に関する有名なテーゼ(世界の貧しさ)が含まれています。ともすると単純に人間至上主義で他の動物を貶めているように映りますし、実際、根本においてはそうなのではないかとジャック・デリダは批判していますが、少なくとも表面的な印象だけでハイデガーのことばを分かった気になってはいけません。ここでの「動物の世界の貧しさ」とは、一方において、ことばを持つ人間が失っている豊かさとしても読めるのです。

>[……]トカゲが岩の上に横たわっている、と私たちが言うとき、私たちは「岩」という語を抹消するべきであろう、トカゲがその上に横たわっているその物は、確かに何らかの仕方でトカゲに与えられてはいるが、しかし岩として認知されているわけではない、ということを示唆するために。この抹消が意味するのは、単に何か違った物が、何か違った物として出会われているということではなくて、そもそも存在者として接近できていない、ということなのである。<(ハイデガー=同上:142-143)

>ハイデガーは「岩」という語を「抹消すべきであろう」と言うが、実際には抹消していないし、それは全く不可能なことである。なぜなら、人間はそもそも「岩」というような動物自身には開示されていない存在者の概念を通じてしか、動物について理解も言明もすることはできないからである。そしてその際には、「諸衝迫の脱抑止の環」が持つ固有の開放性と全体性が必ず何かしら制限され、不十分な把握しか可能にはならない。<(同上:143)

ここでの、人間以外の動物がその開放性・全体性の中にあるとされる「諸衝迫の脱抑止の環」について少し補いましょう。たとえば、蜜を吸うミツバチです。

>ハイデガーはまず、ミツバチは自分自身を含めたあらゆる存在者が現実に存在している(眼前存在している)ということを理解することはないし、それが問題になることもない、と主張する。しかし、通常のミツバチは現に一定の蜜を吸えばそれを止めて飛び立つ。つまり、ミツバチはやはり蜜と或る種の交渉を持つのである。しかしそこでは、何らかの液体が消化器を満たすことによって吸うという行動が抑止されるのであって、「個体としてのミツバチ」と「餌としての蜜(あるいは在りかとしての花)」の間の関係は存在していない。<(串田前掲書:114)

人間は言語を使って認識を行い、それが人間にとっての世界を構成します。しかし、そのようなやり方では常に世界は部分的にしか立ち現われません。ここで、他の動物が言語を持つかが問題の焦点なのではなく、人間がその存在の根本においてどのようなものであるのか、その在り方がどんな可能性を決定的に欠いているかが要となっています。  ここであらためて、深い退屈という根本気分に立ち戻るなら、退屈の根柢において、ある語り得ない深さが立ち現われるということ、そこにこそ、わたしたちがあらかじめ失っている世界の全体性の気配がかろうじて漂っているのだと言えるのではないでしょうか。

 

5.

ロラン・バルトは、こう書いています。 >快楽[plaisir]のテクスト。それは、満足させ、心をみたし、幸福感をあたえるもの。文化から生まれて、文化と縁を切ることなく、読書の「快適な」実践にむすびついているもの。悦楽[jouissance]のテクスト。それは、喪失の状態にするもの。不安定にするもの(おそらくはある程度うんざりするまで)。読者の歴史的、文化的、心理的基盤を動揺させ、読者の好みや価値観や記憶をゆるがすもの。言語との関係を危機におちいらせるもの。<(ロラン・バルト「テクストの快楽」=石川美子(2015)『ロラン・バルト』,中央公論新社:116)

ここでは悦楽的なテクスト体験が、わたしたちの日常の言語を揺らがすものであるとされています(※1)。そうであるなら、快楽のテクストはその先にある、語り得ざる何かを示唆するものと言えるでしょう。

 

※1.この意味での「悦楽」は、”Sense of Wonder”としての科学体験によく当てはまるように思われます。正確には、科学体験は悦楽の一種であり、その意味で動物園は悦楽的であり得る、あるいは科学的な場としての動物園の楽しみは悦楽的であるべきだ、ということになるでしょう。

 

バルトの語る快楽を、ハイデガーが示した深い退屈をそのまま享受している状態とすることも、あながちこじつけではないように思われます。ハイデガーの論旨に従う限り、それはバルトの、ひいては言語に囚われた人間存在の見果てぬ夢であり続けるわけですが。

ちなみに、フランス語の”récréation”には「娯楽」というをあてることが出来るようです。
あるいは、さらにいま一度「娯楽」を英訳するなら、そこには”recreation”と併せて”amusement”という含意が登場します。
これらの意味で娯楽ということばを使うなら、あらためてレクリエーションとは何かを問い返すことが出来るでしょう。
動物園や水族館の持つ楽しさをレクリエーションとすることは、それらの園館をアミューズメントとしての娯楽施設と性格づける流れを孕んでいます。また、再創造(re-creation)されるのは何かと問うなら、それは当たり前化された日常にほかならないでしょう。しかし、来園者が素朴に楽しみ、自分たちが持ち合わせる動物観、動物へのイメージを温存・強化することは手放しで肯定できるでしょうか(※1)。

 

※1.現在、日本動物園水族館協会は、以下のような発信を行っています。
>楽しく過ごしながら、「命の大切さ」や「生きることの美しさ」を感じ取ってもらえるレクリエーション<
これはレクリエーションを娯楽性とはちがったかたちで意味づけようとする苦心と捉えられますが、レクリエーションということば自体が社会的用法として持つ意味の重力圏や、日動水のこの言表自体が科学や学びとの関連付けの明示を避けている点など、発信としての実効性が問われるのではないかとも思われます。

 

たとえばナショナルジオグラフィックのドキュメンタリー『都会に生きるゴリラ(The Urban Gorilla)』を見るとき、かつて人間がゴリラを、その本来の生態を度外視してイメージ化してきた流れでは、時にゴリラは凶暴なものとして攻撃され(むしろ、そこでの人間こそがゴリラに対して凶暴だったのですが)、あるいは飼育下でもまっとうな群れや、その群れ生活が可能な施設も与えられないままであったのがわかります。つまり、人間の抱く動物観は、時に当の動物たちの生死や存亡にまで関わるほどの暴力性を孕んでいるのです。
1980年代後半からのアメリカにおけるランドスケープ・イマージョンと環境エンリッチメントの展開には、そのような不適切な状況の変革という意図もありました。その動きをリアルタイムで描いたのが前述のドキュメンタリーであると捉えることが出来るでしょう。
あるいはいま現在にあっても、わたしたち日本人がコツメカワウソを愛玩することが、飼育下でのかれらの消費的利用につながり、さらには密猟・密売によって野生のコツメカワウソに絶滅圧がかかっているという現状を顧みるなら、ここで述べたことは日本人にとっても無縁ではない、というよりも、日本人こそが徹底して自己批判するべき課題と考えられるのです。動物園・水族館は、そういう動きの中核部で責任ある態度を問われているわけです。

けれども、動物園や水族館がただ一方的に動物たちの代弁者のように危機を叫ぶことが適切かは疑問です。ただ深刻に語るのみでは独りよがりなのではないか。結果として、園館のそのような実践の一番の支持基盤であるはずの心ある人たちをこそ、ある種の「エコフォビア」(デイヴィッド・ソベル)に追い込むなら、むしろ逆効果で自滅的なのではないか。
ここから、既にいささか注記したように、動物園・水族館が悦楽的な展示・発信・教育普及活動を行っていく必要性が明確になります。楽しませればよい(娯楽第一主義)というのは無責任で犯罪的ですが(※1)、科学に根差した楽しさで、人びとの足もとから地球規模までの意識の向上を図る、それが園館の使命でもあるのです。

 

※1.娯楽においてはゲスト(来園者)は接待されるべき対象となりますから、娯楽第一主義は集客観光最優先主義となります。このような意味論的結託がある以上、「とりあえずお客さんに来てもらわなきゃ」とか「園館レベルでは動物に興味を持ってくれればいい。後はそれぞれに学んでくれれば」という類いのことを口走るひとは、永遠にそこにとどまると確信しています。

 

ここまでを整理すると、娯楽の手立ては動物園・水族館にとって理念を問わないテクノロジー・エンジニアリングにすぎません。そこでの目的は、いわば来園者相手に「うまくやる」こととなり、ポピュリズムへの流れ、あるいはポピュリズムの精神そのものです。
それに対して、サイエンスは一定の事実認識を行いますが、それは必ずしも「うまくやる」ためではありません。むしろ、そういう即物性を保留して、より普遍的な認識に至ろうとする営みと言えるでしょう。その時、サイエンティスト自身もそれまでの先入観を揺らがされる可能性に直面しますが、むしろそれを望んで楽しんでしまうところにこそ、サイエンティストの悦楽があります。
結果として科学的認識に対してはあらためて、それを基に何をどのように行っていくか、という問いが立てられることになります。サイエンスはそれ自体では倫理を含みませんが、一方で社会科学というものがあり得るように、時代や社会に規定された道徳に対してもサイエンスは再検討の余地を認めます。こうして、あれこれの思案が要請され、より主体的・理念的な目的意識が生じる可能性が膨らみます。そうやって構成される目的意識を、一般社会がすんなりと受け入れるとは限らない以上、サイエンティストは説得の営みを要求されます。相手の常識を揺さぶりつつ、しかも論理的な納得と知的な悦びをもって受け入れられることを望む。こうして、この実践は、相手の悦楽を目指すものと言えるでしょう。

 

そして、最後に快楽の領域が検討対象となります。

まず、倫理について考えてみます。先程も少し述べたように、娯楽や悦楽にまつわるテクノロジー・エンジニアリング・サイエンスは、それ自体としては倫理を含みません。前二者は社会に迎合する傾向を持つので、とりあえず、その社会の道徳に沿えばよいでしょうが、サイエンスの段階から、その物差しも揺らぎはじめます。かと言って、何でもありというわけにはいかない以上、あらためて「世の中、そういうものだから」というのとはちがう行動規範が求められ、ここに初めて、道徳(moral)の社会性・時代性を超えた倫理的(ethical)な思考が要求されることになります。これは哲学ないしは文学的な領域と言わざるを得ないでしょう。ここに至るのにハイデガーやバルトが参照されたのも故あることなのです(※1)。言語を含む社会や文化を自明としない、それゆえに解答があるのかも不確定ですし、ひいてはそもそも思考可能なことなのか、といった疑問も抱えながら、それでも行わなければならないのが、この領域です。

 

※1.もうひとつ、宗教ないしは信仰という領域が考えられますが、わたし個人に関しては、サイエンスの審級を超えて(文化批判・社会批判に堪えて)、自分の根拠となる宗教や信仰はいまだ見出されていません。
ひとまず、神と死は哲学上の重要問題だが、自分はあえて、それを扱わないと明言した大森荘蔵に倣うことといたします(『音を視る、時を聴く』、坂本龍一と相対しての講義、朝日出版社・1982年)。

 

あまりに抽象的で拡散したお話になっているで、ことを動物と人の関係に絞り込みつつ、ここで「生殺与奪」ということばを思い起こしてみましょう。
動物を殺すことが暴力なのはわかりやすいですが、生かすことについても、それが人間の側で一方的に決められる限りでは、動物への一種の暴力と捉えられるのではないかと考えられます。これは答えがあるかも定かでない際どい問いですが、それと向き合うことが倫理的な態度と考えられます。福祉水準の向上といったことでは片付かない、根源的な関係性の批判と克服が提起されていると言えます(※1)。
そして、そういう営みを支える力、あるいは「希望を語るな、希望を育てよ」(※2)といったことばが孕む力、それらが啓示・黙示として指し示す彼方こそが快楽の世界と言ってよいのではないでしょうか。

 

※1.動物と人の関係を思想的に検討する論者の中には、現状を動物と人の「戦争」と規定する者もいます(ワディウェル,D.J.『現代思想からの動物論: 戦争・主権・生政治』)。そういう強い概念を用いてみなければならないほどの、根深い問題があるのだと言えるでしょう。
人の動物に対する関係における生殺与奪の問題については、以下の拙論でも扱いました。
森由民(2018)「血塗られた手から立ちつくすひとへ:佐藤泰志「移動動物園」と動物たちの多数多様性」, 『動物観研究』No.23: 33-42

 

※2.これは今村仁司が『現代思想のキーワード』(講談社・1985)の末尾に記した「希望を失うな、希望を育てよ――これが現代思想の最後の言葉である」という一節をパラフレーズしたものです。終生、人類社会が根柢に孕む暴力性を社会哲学的に論じることに力を注いだ今村の仕事に鑑みるなら「希望を語るな」とすることの方が、より適切なのではないかとも考えます。

 

わたしの、ぼぉとするために励むという、我ながら倒錯した想いと営みは、この快楽へと無限の彼方でつながり吊り支えられているように思います。そして、少なくともわたしにとって、そこに向かっていく唯一の手段はことばを紡ぐことであると思っています。それは美しさへの憬れでもあります。
いっそ、余計な領域にまで考えや発言を広げない方が、ぼぉとする時間は増えるんじゃないかとも思いますが、それでは「ぼぉ」は快楽ならぬ娯楽、レクリエーションにとどまってしまいます。
>戦争に反対する唯一の手段は、各自の生活を美しくして、それに執着することである。<
吉田健一は「長崎」と題した短文にそう記しています。耳障りのよいことばのようでもあり、あるいは上流の生まれの人の気楽な発言とも受け取れるかと思います。しかも、この文章で吉田は長崎の原爆の悲劇がいつか忘れられるべきだと主張しています。普通に考えれば、道義的批判を受けても仕方のないもの言いでしょう。
しかし、わたしは吉田がこの忘却を時間経過による自然消滅といったかたちで想い描いているのではないと受け止めています。むしろ、彼自身が現状においては、そして、その延長線としての未来においては、そんな忘却が許されないことを深く認識しているのではないでしょうか。そして、忘却が不可能であることを含めての全体を、彼我もろともの現代の桎梏と捉えており、だからこそ不可能な忘却とそこに向けられてこそ良しとされるはずの美しさの命題を掲げているのだと考えるのです。ここにも現状肯定的で妥協的な希望を語らず、根底からの乗り越えを目指し続けて希望を育もうとする意志の力、文学の志を感じるのです。

※本稿は2016/7/10~11の取材を基にしています。

※※ときわ動物園での定期・不定期のイベントについては、こちらを御覧ください(有料のものもあります)。

宮下実園長による動物園ガイドや動物講座も行なわれています。

また、各種園内ガイドについては、こちらを御覧ください。

 

前回に引き続き、ときわ動物園の「生息環境展示」を歩いていきましょう。

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木立ちと草原、そんな取り合わせの中で暮らすのは……

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アフリカ原産のパタスモンキーです。アフリカ大陸の赤道より北、サハラ砂漠と熱帯雨林の間の乾燥地帯が生息地です。かれらは走ることを得意とし、最高時速50km程度を記録するとともに、アフリカの草原をどこまでも走り続ける持久力にも恵まれています。ときわ動物園の特色のひとつである展示動物の「近さ」を感じながら、軽やかな足並みを観察してみましょう。

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パタスモンキーにも今年(2016年)6/24に赤ちゃんが生まれました。実際に訪れた際にはこの写真(2016/7/10撮影)からの成長を実感できることでしょう。

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パタスモンキーの展示を回り込むと、かれらの存在を背景に一転、乾いた土地の眺めが広がります。その中で暮らすのはミーアキャットです。

 

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ミーアキャットはパタスモンキーと分布の重なりを持ち、御覧の通り、せっせと巣穴を掘り、張りめぐらして暮らします。ひとつがいの両親、特に母親を中心とした群れをつくりますが、順番に見張りに立つのは、巣穴の外での活動中に外敵を警戒するためです(※)。最大の脅威は空からの猛禽類の来襲なので、しばしば空を見上げる姿に出逢えるでしょう。

かれらとわたしたちの間はガラスで仕切られています。ここでの写真はカメラをガラスに近づけて、照り返しなどが写り込むのを防いでいますが、実際の展示でもガラスは厚さ2mmのアルミの枠で留められており、ミーアキャットに見入るわたしたちは障壁の存在をほとんど意識することはないでしょう。これは世界各地のミーアキャット展示を参照しての、初の試みとのことです(※※)。

 

※この取材の後に、ミーアキャットは繁殖に成功したとのことです(2016/7/29)。赤ちゃんたちの展示場デビューが楽しみです。詳しくはこちらを御覧ください。

 

 

※※大阪芸術大学・若生謙二氏私信。若生さんは「動物園デザイナー」として当園のリニューアルの設計・設計指導を務めました。詳しくは前回の記事を御覧ください。

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少し先には森の世界。ブラッザグエノンはアフリカ中部の湿潤な森の川辺で暮らしています。

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木の間隠れに潜めば、見つけることすら難しい時もあります。

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そんなかれらを間近に観察するのにも、前回御紹介した「緑餌(りょくじ)」のひとときは最適でしょう(※)。

 

※野草も含む新鮮な生草。当園では、牧草を栽培し、野草は周囲のときわ公園内から採集しています。

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以上の「アフリカの丘陵」と呼ばれる一帯を過ぎれば、そこはマダガスカルです。飼育員の給餌を受け、いかにも一人前を気取って食事をしていますが、明らかに幼い一個体。2016/4/23生まれのワオキツネザル・ナツメ(オス)です。

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この頃(2016/7/11撮影)はまだ母親のライチに背負われていることも多かったナツメですが、今頃はどのくらい育っているでしょうか。

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ワオキツネザルの展示はマダガスカル島南東部のベレンティ自然保護区をモデルとしています。かれらは比較的乾いた土地に住み、地上での活動も盛んにおこなうことで知られています。

キツネザル類は童謡で有名なアイアイとともにマダガスカルだけに暮らす原猿類です(※)。マダガスカル島はアフリカ大陸の南東に浮かぶ世界第4位の大きな島ですが、約1億6000万年前には現在のインドなどとひとかたまりにアフリカ大陸と分離しました(※※)。その後にインドは現在の位置に移動し、アジア大陸との衝突でヒマラヤの造山運動を引き起こしますが、そんなわけでマダガスカルはアフリカとは独自の時間を過ごし、そこに暮らす原猿類も他の地域とはまったく異なるユニークな姿を見せています(※※※)。

ワオキツネザルについては、毎月第1・3・5日曜日に展示エリアにウォークインできるイベント「イントゥ・ザ・ワオ(into the Wao)」が行なわれています(※※※※)。スタッフのガイドを聴きながら、マダガスカルという「タイムカプセル」の魅力を堪能できることでしょう。

 

※原始的な特徴を遺す霊長類。マダガスカル産の霊長類のほか、アフリカ大陸のガラゴ類・アジアのロリス類を含みます。

 

※※地殻の活動により長い時間をかけて大陸が移動するというのはお聞きになったことがあるかと思います。マダガスカル島の歴史もその一部です。ここで挙げられている名は「アフリカ大陸」を含め、現在のそれで、語られている地質的時代には位置・かたちとも一致しません。

 

※※※マダガスカル島がインド等と分離したのは約8500万年前で、いまだ恐竜時代であり、キツネザル類を含むマダガスカルの哺乳類の祖先たちはその後に移入したと考えられます。漂流物等に乗ってアフリカ大陸からやってきたのではないかなどと考えられていますが、解明の途上です(小山直樹[2009]『マダガスカル島』東海大学出版会)。

 

※※※※詳しくは冒頭で御紹介したイベントのリンクを御覧ください。

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ワオキツネザルと隣接する、もうひとつのマダガスカル展示はこちらです。ぐっと緑豊かなありさまは、マダガスカル島東部のアンダシベの国立公園をモデルにしています。

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ここで出逢えるのは熱帯降雨林の住人であるエリマキキツネザルです。果実を好む大型のキツネザルです。同じキツネザル類でもワオキツネザルとは対照的なところも多く、当園の展示はこうしたニッチ(※)の対比も意識しています。

 

※ニッチとは、それぞれの動物種が占める生態的な場や役割を意味します。近縁種は互いに異なるニッチに適応することで別種として分化してきたと考えられます(固有のニッチを持つことこそが独立した種としての要件のひとつであるとも言えます)。エリマキキツネザルとワオキツネザル、ひいてはマダガスカル内外での原猿類の進化史のちがいといったものは、すべてニッチという視点から捉えていくことが出来ます。

 

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ときわ動物園では現在、メス1頭・オス2頭のエリマキキツネザルが展示されています。リニューアル前はオス2頭だけでしたが、2015/12/19に新しくメスのアマント(2012/6/2生)がやってきました。エリマキキツネザルはメス優位の群れをつくりますが(※)、繁殖期にはペアが形成されます。そんなこともあってか、アマントとオスたちの関係にも個体差が見られます。アマントと関係良好なのはリッキー(2010/5/1生)、一方、もう一頭のオス・マッキー(2006/5/4)はかれらといささか距離を取る傾向でした。

 

※かれらは複数のオスとメスが寄り集まった群れで繁殖します。

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雨宿りとなれば、みんな一緒になりもするのですが(※)。

 

※前出のミーアキャットの繁殖に関するリンク記事にも紹介されていたように、エリマキキツネザルも取材後の2016/7/18に待望の赤ちゃんが誕生しました。母親はアマント、父親はリッキーです。

 

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そして、わたしたちは「山口宇部の自然ゾーン」に辿り着きます。まずはオシドリとクロヅルです。どちらも日本人にとっては古くから親しまれてきた鳥ですが、それだけに近代化の中でいつの間にか疎遠になってきたとも言えるでしょう。そんなかれらとあらためて間近で向かいあうことが出来るのが、この展示です。

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クロヅルのくちばしに注目です。どうやらカブトムシを捕食したようです。野生動物としての「すごさ」が垣間見えた一瞬でした。

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動物園のニホンザル展示といえば、岩山風のサル山が伝統的でした。その中でもさまざまな展開はなされてきましたが、野生のニホンザルによりふさわしい景観が森であるのは言うまでもありません。ときわ動物園のニホンザル展示では植栽の樹冠部分をネットの外に突き出させてサルたちによるダメージを防ぐなどの工夫を凝らし、木々の葉繁るニホンザルの森を再現しようと試みています。変化に乏しいコンクリートや擬岩の中での活動・「壺」の底にいるかれらを見下ろすような観覧のまなざしなどと比べて、より自然で魅力あるニホンザルの暮らしを感じ取らせてくれます。

 

※当園のニホンザル展示は、設計指導者である若生謙二さんが熊本市動植物園で手がけた展示の発展形としての性格も持っています。熊本市動植物園のニホンザル展示については、若生さん自身の報告を御覧ください(PDFファイルが開きます)。

 

なお、熊本市動植物園は2016/4/14以来の震災の影響で、現在長期休園中です。現地で日々苦心なさっている皆様に敬意を表し、復興の進展をお祈りいたします。

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メスのアイに抱かれているのは2016/5/23生まれの赤ちゃんです。群れの仲間(オス)を傍らに、我が子をかばうようなアイのしぐさに注目してください。元々、アイはバックヤードの飼育スペースで出産しました。その時にはなかなかうまく赤ん坊が抱けず、このままでは飼育員が赤ん坊を取り上げる人工保育の道を選ぶ以外にないのかとも思われましたが、母子を群れの中に入れたところ、仲間たちが珍しがって赤ん坊をさわりに来るのに反応して、アイは大切に赤ちゃんを抱くようになりました。群れ生活のほどよい刺激が、アイに母ザル本来の感情や行動を呼び起こしたのでしょう。

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そんなドラマを経ながらの日々を紡ぐニホンザルたち。その姿を「通景」とする一角、木のうろの中に何かがいます。

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タヌキもまた、山口県宇部の地元産動物であり、日本人なら誰もが親しみを持つ動物でしょう。しかし、「タヌキを描いてください」と言われて、そらで顔がどんな模様だったか、尾はどんなだったかと思い描くのは難しいかもしれません。タヌキは東アジアを中心にロシアにかけてのごく限られた地域に固有の野生動物です。時にはそんなかれらをゆっくりと観察しながら、かれらとわたしたち日本人が同じ場で歴史を重ねてきたことを思い返してみてもよいのではないでしょうか。

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フクロウについても、わたしたちは「よく知っている」と思い込みながら、実際に向かい合うことは少ないかもしれません。フクロウの足は指(趾)を二本ずつ向き合わせることが出来ます。枝にとまる時などはこうしてしっかりと掴めるようになっています。

 

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二回に亘って歩いてきた、ときわ動物園も再び、前回にショートカットした「自然の遊び場」に辿り着きました。ここで飛んだり跳ねたり登ったり滑ったりする子どもたちは、他の動物たち同様、自分たちの身体能力や感覚を心のままに開放して楽しんでいるのでしょう。そうやって、人は動物と自分たちの共通性や動物たちの能力のすごさといったものを体感できるのではないかと思います。

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前回に御紹介したアジアの森林ゾーンの最後には、こんな解説プレートが設けられています。霊長類それぞれの「群れ」のありようとわたしたちヒトの基本単位かと思われる「家族」を互いに照らし合わせることを促す内容は、「近くて遠いサル(霊長類)たち」への認識を深めつつ、わたしたち自身を振り返るきっかけを与えてくれるように思います。

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再び、「山口宇部の自然ゾーン」です。展示の中で、わたしたちと変わらぬ母子の愛情深さを知らせてくれるニホンザルたちですが、人間社会の変化はかれらとの新たな軋轢を生み出しています。かれらの群れのありようにしても、実はわたしたちとは別の論理を持っています。

動物たち本来の生息地でのかれらとの一体感を伝えてくれる、ときわ動物園を歩くことで、わたしたちは、わたしたちとは異質で、なおかつ魅力に満ちたかれらの姿に目を開かれることでしょう。そのまなざしで、もう一度、人と動物の関係を吟味していけるなら、それこそが動物園ひいてはわたしたち人間の可能性と言えるのではないでしょうか。そんな想いを新たにするためにも、わたしはまた、ときわ動物園を訪れさせていただきたいと思います。

 

 

ときわ動物園

生きた動物を通して、楽しく学べる環境教育の拠点を目指す動物園。

公式サイト

〒755-0003 山口県宇部市則貞三丁目4-1

電話 0836(21)3541 (宇部市常盤動物園協会)

飼育動物 32種 約250点

開館時間 9:30~17:00 ※春休、夏休、冬休、ゴールデンウィーク期間中の土曜、日曜、祝日は 9:00~17:00

休園日 毎週火曜日(火曜日が休日または祝日のときはその翌日)  ※イベント時変更あり

アクセス

JR新山口駅より路線バス特急便30分。

同駅よりJR宇部線35分のJR常盤駅下車・徒歩15分。

その他詳しくはこちらを御覧ください。

 

※本稿は2016/7/10~11の取材を基にしています。

※※ときわ動物園での定期・不定期のイベントについては、こちらを御覧ください(有料のものもあります)。

 

宮下実園長による動物園ガイドや動物講座も行なわれています。

 

また、各種園内ガイドについては、こちらを御覧ください。

 

 

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テナガザルが空をとぶ!?

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枝を駆ける。

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シロテテナガザルは東南アジアの樹上で暮らしています。テナガザル類は小型ながら尾を持たず、わたしたちヒトと同じ類人猿です。その名の通りの長い腕を活かし、枝から枝へと巧みに飛び回ります(この行動をブラキエーションと呼びます)。また、優れたバランス感覚と小柄な体格から、枝の上を駆けるように移動するのも得意です。

各地の動物園でもロープ・擬木(人工的に作った樹木の模造物)・鉄塔など、さまざまな装置を工夫してテナガザルの特性を引き出そうとしていますが、ここ、ときわ動物園では動物園を取り囲む「ときわ公園」の豊富な植栽からテナガザルの活動に相応しい枝ぶり等のものを厳選し、それを移植した展示場で、御覧のような光景を創り出すことに成功しています。

結果として、わたしたち来園者は、まるで自分たちがテナガザルの棲む森に踏み入ったような感覚に浸り込むことになります。このような展示手法を「生息環境展示」といい(※)、ときわ動物園はこの生息環境展示の理念と技法を駆使し、従来からの霊長類コレクションの数々を基盤として、目覚ましいリニューアルを遂げました(※※)。

今回から二回に亘って、そんな「生息環境展示」の魅力を中心としながら、今年(2016年)3/19にグランド・オープンしたばかりのときわ動物園を、実際に巡り歩く感覚で御紹介します。今回は園路の前半、「アジアの森林ゾーン」と「中南米の水辺ゾーン」です。

 

※当園の「生息環境展示」については、ときわ動物園のリニューアルで設計・設計指導を務めた大阪芸術大学教授・若生謙二さんの解説を御覧ください(PDFファイルが開きます)。

 

※※当園の前身で山口県内初の動物園であった「宮大路動物園」から数えれば61年目の再スタートとなります。

 

 

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まずはあらためて園のゲートを潜ります。早速に大きくうねる道。行き先の見えない構成は、わたしたちの期待を高め、また実際以上に空間の広がりや深みを感じさせてくれます。ときわ動物園の敷地は約2haとむしろコンパクトといってもよい規模ですが、曲折を繰り返す園路の全長は1km近くに及び、訪れる人の多くは思いがけない「広々とした感覚」に驚かされているようです(※)。

 

年間パスポートを購入し、身近で気軽なウォーキングエリアとして活用している方もいらっしゃるようです。

 

 

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まず出逢うのはこの展示。インド神話の神の名にちなんで名づけられたハヌマンラングールです。本来の生息地周辺(インド北東部からバングラディシュ)では、このサル自体を「神の使い」と見なす信仰もあるとのことです。熱帯アジアの森に踏み入るのみならず、わたしたちは一気にその樹上を覗き見ることになります。この写真では木の葉を食べていますが、ときわ動物園ではこういった枝葉や「緑餌(りょくじ)」(※)を与えることを重視しています。せっかくの「生息環境展示」の外観を重んじて、たとえばニンジン・イモやペレット(固形飼料)などの摂取を無自覚に見せたくないということもありますが、同時に人間用に改良された作物等で動物たちが栄養過多にならないようにという配慮もあります。こういった「(野生)動物にはそれにふさわしい食生活」を、という実践は、ときわ動物園を含め、最近、各地の園館で積極的に取り組まれるようになっています。

展示効果とともに「飼育的配慮」を大切にし、結果として「本当に健やかでその動物らしい姿」を実現していくこと、それは動物園の追求するべき理想と言えるでしょう。ときわ動物園の「生息環境展示」も、そんな意識をもって観賞すれば、さらに深みのある姿を見せてくれるでしょう。

 

※野草も含む新鮮な生草。当園では、牧草を栽培し、野草は周囲のときわ公園内から採集しています。わたしたちから見ると意外なサルたちの人気品目はドクダミだということです。

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さて、ハヌマンラングールの樹上風景から歩みを進めれば、そこがシロテテナガザルの島です。まさに一衣帯水。テナガザルたちが水に入りたがらないことを利用して、人と動物が水面を隔ててすぐそこに向かいあうありようを実現しています。テナガザルはペアとその子どもというまとまりで暮らしますが、飼育下の安心もあってか、こんな楽しげな姿も見せてくれます。これは、かれらの「社会性」がどんなものかを教えてくれる展示とも言えるでしょう。

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草むらの虫でも探しているのでしょうか(テナガザルは動物園でもセミやトンボを捉えて食べたりすることがあります)。

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テナガザルが自分たちの縄張りを知らせるときに行なう「テリトリーソング」と呼ばれる鳴き声を発しているところです。しばしばペアの掛け合い(デュエット)で行なわれます。ときわ動物園のシロテテナガザル展示はひとつの池に二つの島が創られています。それぞれの島には別々の群れが暮らしているので、特に午前中は、それぞれの島から互いに自分たちの存在や縄張りを告げあう鳴き声が交わされているのに出逢えることもあります。

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これはシロテテナガザルたちの寝室で、かれらは夜にはこの中に収容されます。しかし、外観は展示の雰囲気を損ねず、気分を高めるようにインドネシアの農家を模したものとなっています。

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農家から吊り橋を渡るコース。吊り橋の右前方の繁みを見てください。シロテテナガザルの母子が来園者を観察していました。

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さて、シロテテナガザルの島池を抜けると、道はいつしか緩やかに下っており、立ち現れるのは先ほどのハヌマンラングールたちの森の、いわば林床です。ここではより近くで彼女たち(ソフィーとリンダの2頭の姉妹です)と向き合うことが出来、タイミングによってはこんな手渡しの給餌も見学できます。ソフィーの方が5歳年上ですが、食事などの場面では妹のリンダの方が押しが強く、積極的に前に出てきます。そんな性格のちがいを、彼女たちの日常を一番よく知る飼育担当者の話を聞きながら確かめるのも、動物園ならではの楽しみでしょう。

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こちらはリンダの娘で2015/7/7生まれのサトです。1歳上の姉タラともども、母親のリンダがうまく子育て出来なかったために人工哺育となりました(※)。しかし、飼育員の努力もあり、少しずつ母親のリンダや伯母のソフィーと同居する訓練を進めています。動物のいのちを守るための手立てを講じながらも、少しでもそれぞれの動物種本来の姿に近づけるように努める。それが動物園飼育の要です。

 

※父親個体のサミーは日本国内のハヌマンラングールの系譜をつなぐべく、日本モンキーセンター(愛知県犬山市)に「婿」に行っています(サミーは現在、国内で唯一のハヌマンラングールのオスです)。

 

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こちらはシシオザル。かれらの生息地にも生るジャックフルーツに手を差し入れ……実はこれはジャックフルーツのかたちを模したフィーダー(給餌器)です。中にはシシオザル向きに調合されたスムージーが入っています。動物園の暮らしは野生に比べれば空間的にも限られ、単調になりがちです。また、飼育員が用意した餌を食べるため、野生の生活のように食べものを求めてあちこち移動するといったこともありません。安楽なようにも思えますが、実のところ、そんな暮らしが原因となっての「退屈」が飼育動物に悪影響を与えていると考えられる例は数多くあります。フィーダーなどの飼育的工夫を導入することで、動物たちは「食物を探す」「工夫・苦心によって食物を得る」といったリズムのある食生活を取り戻すことが出来ます。写真のフィーダーなどはシシオザルの器用さや賢さも引き出していると言えるでしょう。ジャックフルーツを模すことで見た目に「生息環境としての景観」を損じることなく、動物たちのための配慮を組み込むことが出来ているのです。

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こちらはトクモンキー。インドの沖合のスリランカ(セイロン島)に分布し、頭の毛の独特の生えかたをトルコ帽が原型とも言われる「トク」という帽子を被った様子に見立てられています。当園の群れは小規模ながら子どもも生まれています(※)。

 

※前出のシシオザルも繁殖がありました。交代制ですが、時間帯によっては母子の展示も見られます。

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飼育員が投げる鶏肉を追って見事なダイビングと水中キャッチを見せるのは、東南アジア~南アジアに棲むコツメカワウソです。カワウソはイタチ科で、もっぱら水中の狩りに適応した肉食動物です。コツメカワウソはカワウソの中でも特に前足が器用で、この給餌でもそんなかれらの能力が引き出されて、展示効果につながっています。

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こちらは穴を空けた筒にペレット(固形飼料)を入れたフィーダーです。野生の食事法とは異なりますが、こうやって動物たちの特徴的な行動や能力を切り出してみせることも、動物園ならではの細やかな観察や理解を促してくれるでしょう。

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さきほどのカワウソへの鶏肉給餌の際に、飼育員の傍らにサルがいたのにお気づきでしょうか。こちらはボンネットモンキーです。インド南部に分布し、さきほどのトクモンキーと比較的近縁とされますが、かれらの名の「ボンネット」も、頭頂の毛の生えかたを帽子の種類に見立てたものです。

野生のボンネットモンキーの分布はコツメカワウソと重なりを持ちますが、コツメカワウソは水陸両方で活動しますし、ボンネットモンキーも水に親しむ傾向があるため、この複合展示ではあちこちでサルとカワウソの交錯を目撃することが出来ます。

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原則日替わりで展示されているボンネットモンキーの2つの群れは、どちらも赤ちゃんが生まれています。

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アジアの森から中南米の水辺へ。それは地球をまたぐ思いきりの移動ですが、地球の異なるエリアにある熱帯の森とそこで暮らすサルたちの姿を比べ合わせる散策でもあります。

まずは緑豊かな島と、ロープを手繰ってそこへ渡っていく一団。

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第2・4日曜日に行なわれる「リスザルアドベンチャーラフティング」です(※)。南アメリカ北部に分布するコモンリスザルの、普段は渡れない島池展示に行って餌やりをすることが出来ます。同じ餌を受け取るにしても、おなかの空き具合・リスザルの個体ごとのちがいなどで異なった反応が見られます。

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こんなアクロバティックな恰好が出来ることからも、野生のリスザルたちがどんな環境に適応して進化してきたかが感じ取れるでしょう。

 

※申込制先着順・定員あり、有料。詳しくは園内や園のサイトにて御確認ください。第1・3・5日曜日には、ワオキツネザルの展示場内を見学する「イントゥザワオ」が行なわれます。

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リスザルの島のほとり、アマゾン川流域の人々の水上家屋を模した展示施設です。ガラス面の怪しい手型……?

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コモンリスザルの屋内展示です。かれらもわたしたち同様、親指が他の指と向かいあう霊長類特有の手を持ちますが、指のつきかたのバランスや指のかたちなど、ヒトとはちがうところも見て取れます。それはヒトもリスザルもそれぞれの進化の道を歩んできた証なのです。

 

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リスザルの屋内展示の向かいはフサオマキザルです。かれらにも新鮮な枝葉。

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フサオマキザルは小柄ながら「南米のチンパンジー」と呼ばれることもある高い知能を持っています。この個体は、齧っている木を止まり木などにこつこつ叩きつけていますが、フサオマキザルは時に石などを使って堅い実を割って食べるといった「道具使用」をすることが知られています。当園でも同様の行動が観察されているとのことです(※)。

 

※訓練や仕向けられた行動ではないので、常時見られるわけではありません。

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フサオマキザルにも5/31に赤ちゃんが生まれています。昨年生まれのメス・イチハもいますので、賑やかな群れの暮らしが観察できるでしょう。

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こちらも南アメリカ大陸特有のミナミコアリクイ。木登りが得意で、樹上にあるシロアリの巣などを前足の頑丈な爪で壊しては、高栄養なシロアリやアリをねばねばの舌で舐め取って食べます。動物園では特別に調製した流動食を与えています。

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おなかいっぱい、ひと休み?

 

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さらにフタユビナマケモノ。木の葉を好んで食べます(※)。木の葉は消化に時間がかかるため、普段のかれらは安全な樹上でじっとしてエネルギーを節約していますが、食事となれば巧みな樹上移動を見せてくれます。この日のメニューはアカメガシワでした(2016/7/11撮影)。

 

※決まった種類の木の葉のみを主食とするミツユビナマケモノに比べると、フタユビナマケモノは果実など、さまざまな食物をも摂取し、その分、活動量も多いことが知られています。

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そしてまた別の島。こちらの樹上にいるのはジェフロイクモザルです。リスザルなどに比べると樹冠部を中心に活動します。御覧のように尾がしっかりと巻きついて体を支えるとともに肩の関節も柔軟で(※)、自由自在な動きを可能にしています。色が薄いのがメスのアカネ、黒いのがオスのハルです。

 

※わたしたちのような類人猿やクモザルなどを除くと、ほとんどの霊長類は限られた範囲しか肩を動かせません。

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同じ島の地上部にはカピバラがいます。前出のボンネットモンキーとコツメカワウソ同様、同一地域・同一環境の動物種の複合展示です。ここでも緑餌。成熟したオスのしるしである鼻づらの盛り上がり(モリージョ)を見せながら食事するのはオスのスダチ。ここでの緑餌はソルゴー(早刈りのトウモロコシ)です(※)。

 

※緑餌には季節の移ろいも反映されます。冬~春には園内のそこここで牧草であるイタリアンライグラスや燕麦を楽しむ動物たちの姿が見られるでしょう。

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一方、メスのエイコはこの日、食事よりも水浴がお好みの様子でした。ちょうどホテイアオイも美しく咲き、エイコにとっては「ダンゴ(餌)より花」というところでしょうか。ウォーターヒヤシンスとも呼ばれるホテイアオイは南アメリカ原産。そこで泳ぐカピバラはアマゾン川の野生の暮らしを彷彿とさせます。

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本来は樹上と地上で棲み分けているクモザルとカピバラですが、飼育下の安心感やクモザルの好奇心、それにカピバラの無頓着ぶりもあいまって、こんな眺めもしばしばです。

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ここでもサルが飛びます。カピバラのスミ(メス)はスダチの娘ですがまだ子どもで、この場所に馴染みつつある最中です。そのせいか、おとなのカピバラたちほど緑餌への取り付きも積極的ではないようです。

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時には、このプールでスミが泳ぐ姿も観察できます。

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ここで一気に園路を飛び上がり(※)、園の出口近くの「身近な動物」のコーナーを訪れてみましょう。こちらは家畜のコーナーで、人間が自分たちの生活に引き込み改良してきた動物たちに接しふれあいながら(「エサやり体験」もあります)、ここまでの野生動物たちのことも振り返るという主旨ですが、飼われているのは南アメリカの高地の家畜アルパカです。今回はアマゾンの水辺から高地へ、という意味も込めて御紹介します。まずは2歳になるメス・ジェーン。あまり人見知りせず、目新しい餌などにもすぐに馴染むとのことです。顔に着いた干し草もおしゃれですね。

 

※実際にショートカットの道筋も設けられています。

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かたや、わがまま・人見知り・内弁慶などとも言われる3歳のオス・タック。マイペースということでもあるのでしょうね。

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なにか、それぞれの個性を感じさせるジェーンとタックのツーショットも、ときわ動物園ならではのお楽しみでしょう(※)。

 

※タックの無我夢中ぶりを伝える(?)左後ろ足にも御注目ください。なお、アルパカたちは時にハミングと呼ばれる独特の声を出します。空腹のときなどによく鳴くので夕刻(主に15~16時以降)に聴けることが多いとのことです。

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「身近な動物」のコーナーの少し手前には、さまざまなアスレチックを配した「自然の遊び場」もあります。

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そして、ホットニュースです。こちらの写真、一見2種類の鳥に見えますが、実はモモイロペリカンとその幼鳥です。ときわ動物園では2羽のモモイロペリカンの人工育雛に取り組んできました。しかし、ただ育てるのではなく「出来る限り、その動物らしく」というのが動物園の本義です。ペリカンたちは群れで暮らす鳥ですから、人の手で育てられた雛もペリカンとして生きていけるよう、まずは一羽のおとなペリカンと同居させてきました。写真の白い個体が、その「教育係のおばさん(メス)」ヤナです。ヤナと幼鳥たちはバックヤードで過ごしていましたが、おかげさまで先日7/16にめでたく来園者の前にデビューすることが出来ました(※)。ひとまず、アルパカと隣接するエリアに展示されています。まだまだ人馴れの練習中なので、温かい目で優しく見守ってください。

 

※くわしくはこちらを御覧ください。

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一方、こちらは動物園エリアの外、ときわ公園の一角にあるペリカン島です。モモイロペリカンたちが群れて暮らし、個体によっては迫力のある飛翔も見せてくれます。

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夕刻、「ペリカンのぱくぱくタイム」(※)。飼育員からペリカンをめぐるあれこれや給餌の工夫などの話を聞きながら、投じられた魚を「狩る」ペリカンたちの姿を目の当たりにすることが出来ます。

 

※詳しくはこちらを御覧ください。

 

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ペリカン島には現在、全部で14羽のペリカンが暮らしています(※)。その中にはハイイロペリカンも混じっています。ハイイロペリカンは日本国内では、ときわ公園と埼玉県こども動物自然公園にしか飼育されていません。貴重な比較展示としてもお楽しみください。

 

※前出の「教育係」として出向中のヤナを除きます。やがてはヤナも復帰し、成長した幼鳥たちも群れに合流できることが目指されています。

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最後にもう一度、動物園へ。今回の取材中、週末に迫った夏休みの始まりを期して、特別企画展の準備が進められていました(2016/7/11撮影)。

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動物園からの出口に隣接する体験学習館モンスタ(※)では、この夏、特別企画展「珍しいアマゾンの生き物たち」が開催されています(7/16・土~8/31・水)。デンキウナギやヘラクレスオオカブトを含む興味深い動植物が観察できるほか、アマゾン川流域の環境や人々の暮らしも紹介されています。動物園という身近な存在から地球の裏側まで、すべてはつながっています。

 

※モンスタについては、こちらを御覧ください。

 

※※詳しくはこちらを御覧ください。

 

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モンスタの向かい側は「ZOOベニア館」です。ときわ動物園のオリジナルグッズなどをお買い求めになれます(※)。

 

※モンスタ・ZOOベニア館とも動物園外の、ときわ公園・無料エリア内にあります。

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動物園の出口ゲートからすぐ、お見送りのように配されているのは地元の方が作成し(※)、同じく地元ゆかりの企業が寄贈したチェーンソーアートです。このシロテテナガザルを見て、あらためてゆったりと散策してきた園内を思い返してみてください。

ときわ動物園を訪れる方たちの口から、よく聴かれることばは「すごい」「近い」「かわいい」だそうです。わたしたちの方から野生動物の世界に踏み入った感覚を抱かせてくれる、ときわ動物園の「生息環境展示」、そこには動物たち自身が健やかに暮らし、その特性を発揮できる工夫も込められていて、まずは動物たちの「すごさ」を実感できます。一方で、柵などが少ない展示構造(ネットなども目立たないようになっています)は動物たちとの「近さ」を実現してくれます。数々のイベントやガイドもその助けとなります。そして、赤ちゃんばかりでなく、近さが伝えてくれる動物たちの息づかいは愛しさ・「かわいさ」にもつながるのでしょう。ここでの「かわいい」は、単なる行きずりの感覚や一段上からのまなざしではなく、同じ地球の上でそれぞれにちがうかたちで進化し、いまを分け合っている生きものたちへの共感の目覚めではないかと思います。それは再び「すごい」という敬意へもループしていきます。

 

次回は園路の後半、アフリカ・マダガスカル、そして日本(地元・山口県宇部市)の展示をめぐりながら、さらに「すごい・近い・かわいい」を満喫したいと思います。

 

※山口市内にお住まいの世界的なチェーンソーアーティスト・林隆雄さん。

 

 

ときわ動物園

生きた動物を通して、楽しく学べる環境教育の拠点を目指す動物園。

公式サイト

〒755-0003 山口県宇部市則貞三丁目4-1

電話 0836(21)3541 (宇部市常盤動物園協会)

飼育動物 26種 約160点

開館時間 9:30~17:00 ※春休、夏休、冬休、ゴールデンウィーク期間中の土曜、日曜、祝日は 9:00~17:00

休園日 毎週火曜日(火曜日が休日または祝日のときはその翌日)  ※イベント時変更あり

アクセス

JR新山口駅より路線バス特急便30分。

同駅よりJR宇部線35分のJR常盤駅下車・徒歩15分。

その他詳しくはこちらを御覧ください。

 

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ペンギンは海中を「飛ぶように泳ぐ」ことに特化した鳥類として南半球に広く分布します。種ごとに生息環境や習性などが異なっています。

フンボルトペンギンは、南アメリカのペルー・チリの沿岸などに分布します。かれらは日本の気候にもよく馴染むので屋外プールで飼育されています。公開給餌である「ぱっくんタイム」(※)の際には、投げ与えられたアジを我先に食べます。満足した個体から再び気ままに泳ぐようになり、やがて「ひとときの宴」は落ち着いていきます。この時間を含め、全33羽に1日当たり18kgのアジを与えているとのことです(2016/3/3~4取材)。

 

※園内各所・各種動物への「ぱっくんタイム」ほか定例イベントの実施状況については、こちらを御覧ください。

 

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一方こちらは南極を取り囲むように分布するジェンツーペンギンです。かれらは特別に温度調整された屋内で飼育されており、わたしたちはガラスを通して観察することが出来ます。ジェンツーペンギンたちへの「ぱっくんタイム」はスケソウダラが与えられ、上陸してきたかれらへの飼育員からの手差しのかたちになっています。

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動物種ごとの習性などに配慮し、工夫しながら食事が出来るようにしてやることは、かれらが自分たちの能力を発揮する機会を与えることになり、採食時間の延長によって動物たちが飼育空間の中で退屈してしまうことを防ぐ効果もあります。

オーストラリアやニューギニアなどの森林に住むフタニクダレヒクイドリには「ケバブ」と称されることもある、このような数珠つなぎの餌が工夫されています(※)。この仕掛けは他の動物園でも実施されているようですが、野生でも果実や虫などをくちばしで採るかれらの生活が垣間見られるように思われます。

 

※ハートがついているのはバレンタイン企画に使われた名残です。

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思わずとりこぼすことも多いのですが、地面から食物を拾う行動も野生の反映と言えるでしょう。

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食べていくにつれて、上にあった餌がずり落ちてくるのも「ケバブ」が巧みにつくられている証しです。ひと連なりの中で、下の方(最初の方)の餌を取りにくくするようにしているとのことです。また「ケバブ」を吊るす場所も普段あまり行かないところを選んで動物の行動域の拡大を狙っています。

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ヒクイドリの隣のダチョウのオス。わたしを相手に盛んに「求愛ダンス」を踊ってくれました(2016/3/4撮影)。「異文化コミュニケーション」というところでしょうか……?

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そして、ダチョウとは逆隣、ヒクイドリに見下ろされていくのはメスのカピバラ・コトネです。本来は別の場所で群れ飼育されていましたが、コトネから新入りのオスへの攻撃が目立ったため、一時的に離されています。

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こちらが本来のカピバラの群れです(小動物ゾーン)。現在、新しいオスを迎え入れての群れの再編が試みられています。

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カピバラたちの展示場には、こんなハンズオン(体験的にさわれる展示物)も。カピバラは体も大きく(体熱が奪われにくい)、本来は南アメリカのアマゾン川流域を中心とした温暖な水辺に生息するためか、体には粗い毛だけが生えていて、柔らかい下毛はありません。箒をさわることで、そんなカピバラの「撫で具合」が疑似体験できます。

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こちらがカピバラたちの展示場の全景です。奥の高いところに巣穴があるのがわかりますか?

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巣穴の住人はこちら。オスのオニオオハシ・トコです。取材時(2016/3/3~4)は防寒対策でカピバラ舎に隣接する屋内展示に移されていましたが、温かい季節には同じ南アメリカの森の仲間であるカピバラと同居します。

樹上・空中と地上・水中、同じ地域に住みながらも動物たちはそれぞれに分化した生息環境で暮らし、それにふさわしい姿や能力を持っています。「小動物ゾーン」では各地域でのそんな対比を示す展示が行なわれています。

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オニオオハシの隣には、2羽のコバタン(※)。かれらも本格的な春の訪れを待っています。インドネシア東部のスラウェシ島・フロレス諸島に分布するかれら。オニオオハシにとってのカピバラに当たるのは……

 

※手前が大柄なオスのトト、奥がメスのシロ。トトはカメラに反応してか、冠羽を逆立てています。申し訳ありませんが、ちょっと興奮させてしまったかもしれません。

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マレー半島・ボルネオ・スマトラなどに分布するマレーヤマアラシです。これもまた仲睦まじい様子のペア(小柄なオスはバイオ・のんびり屋のメスはモミジ)。

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マレーヤマアラシ舎の内外はちがった草が生えています。中にはイネ科のオーチャードグラス、外には御馴染みのクローバーです。オーチャードグラスはよく知られた牧草ですが、マレーヤマアラシはこれを食べません(カピバラには好まれます)。結果として、展示場内にはほどよい繁みが広がっています。一方でクローバーはマレーヤマアラシの好物です。折々にケージの隙間から前足を突き出し、クローバーを採食する姿も見られるとのことです。

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南アメリカ・東南アジアと来て、今度はアフリカです。

しかし、こちらの眺めはいままでとはちがいますね。美しいボタンインコたちのすぐ間近まで枝を登ってきている奇妙な動物。ボタンインコを狙っているのでしょうか?

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アフリカからアジア西部にかけて分布するケープハイラックスです。かれらは「岩狸」とも呼ばれ、恵まれた跳躍力で岩山や枝の上でも自在に動くことが出来ます。しかし、草食性(他に果実・花など)なので御覧のようにボタンインコとの共存も出来るのです(※)。

福山市立動物園ではケープハイラックスの繁殖にも成功しており、現在、6頭を飼育展示しています(1頭は2015/8/2生まれでまだ子どもです)。身軽な「忍者」ともいうべきかれら、地上から展示場の鉄骨の上までどこにいるかはその時次第です。是非、目を凝らして全個体が見つかるか探してみてください。

 

※前出のマレーヤマアラシ舎の外のクローバーは、もっぱらハイラックスの餌とされます。同様に舎内のオーチャードグラスもハイラックスの好物です。

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ハイラックスの足です。小さいながら蹄があるのがわかりますか。よく跳ね、草を食べ、実は上顎の切歯(前歯)が伸び続けるかれら。齧歯類やウサギの仲間だろうか、とも思われますが、現存の動物の中ではゾウや海牛類(ジュゴン・マナティー)が一番近縁であると考えられています(ゾウの牙も、伸び続ける上顎の切歯です)。遠い昔に展開した進化の痕跡を、愛らしくも不思議なかれらのありさまに偲んでみましょう。

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混合展示の最後はオーストラリアです。ここでの鳥はワライカワセミ。

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日本のカワセミは魚食ですが、ワライカワセミはもっぱら地上で狩りをします。その獲物も大柄な体に見合って、昆虫類からネズミ・ヘビなどに及びます。動物園でもマウスを与えていますが、御覧の通りの丸呑みも出来るのです(※)。

 

※他に、バックヤードの水槽で増やしているドジョウやジャンボミルワーム(甲虫の一種の幼虫)なども与えています。

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福山市立動物園のワライカワセミのペアには繁殖も期待されています。取材時(2016/3/3~4)にもメスが巣箱に入っている様子が観察できました。このような行動の組み合わせ・積み重なりの中から、やがては……動物園の試みは続きます(※)。

 

※メス個体は昨年末(2015年)にやってきましたが、オス個体の方は繁殖経験があります。

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ワライカワセミの展示場前には、あの独特の鳴き声を再生する装置も置かれています。

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ワライカワセミの相方はパルマヤブワラビーです。広い意味でのカンガルー類は、体の大きい順に連続的に(はっきりした区分けではなく)カンガルー・ワラルー・ワラビーと呼び分けられます。パルマヤブワラビーは森林生の小型カンガルー類ということになります。

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「繁殖」というキーワードを携え、「は虫類館」に踏み入ってみます。

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幾何学的な甲羅の模様が印象的なインドホシガメ。現在時でも大小さまざまな多くの個体が飼育されていますが、福山市立動物園はこのカメについて2001年に日本動物園水族館協会から繁殖賞を受賞しています(※)。

 

※日本の主だった動物園・水族館のネットワークである日本動物園水族館協会が、同協会に所属する園館の中で、それぞれの動物についての国内初の繁殖成功の申告を受けて与える賞。動物園・水族館での繁殖技術の向上は、希少動物の「種の保存」への貢献にもつながります。

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こちらはアフリカ大陸中央部から西部にかけて分布するレインボーアガマです。「は虫類館」にとっては昨年(2015年)5月のニューフェイスです。

 

「は虫類館」では土日・祝日には、普段触れないヘビやトカゲとの「ふれあいイベント」も行なわれています。

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最後に日当たりのよい高台に設けられた「サルゾーン」を訪ねてみましょう。わたしたちを含む霊長類もまた、仲間としての大きなまとまりとともに種ごとの多様性を展開しています。

エリマキキツネザルはマダガスカルに生息する原猿類(原始的な特徴を遺す霊長類)のひとつです。キツネザルとしては大型ですが、こんなふうにぶら下がったりすることもしばしばです(写真の個体・オスのキキは特にこんな恰好を好むとのことです)。驚いた時などに群れ全体で競うように発する大きな鳴き声でも知られています。

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こちらは中南米に住む「新世界ザル」のひとつでコモンリスザルです。果実などのほか虫も好んで食べます。公開給餌の「ぱっくんタイム」では、カプセルの中に入れたミルワーム(甲虫の一種の幼虫)を小さな穴から器用に取り出して食べます。手先の器用さ・親指が他の指と向き合ってついていることなどから(※)、小柄なかれらも、独自の進化を遂げた霊長類であることがわかります。

 

※ケージを掴んでいる様子に注目してください。

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中に一個体、特に小柄で体毛の薄いものがいます。当年17歳のメスでいわば「おばあちゃん」ですが、外観はともあれ、若い仲間たちに負けない力強さで食事に励んでいます。

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「おばあちゃん」といえば、是非こちらに注目を。シロテテナガザルのマリは既に50歳以上になるメスですが、1993/1/9に29番目の子どもを出産し、それをもってギネスブックに登録されました。その後、33番目まで子どもをもうけ、現在はのんびりと老後を送っています。

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こちらが33番目、マリの末っ子のアンソニー(オス)です。現在、ペアリングが試みられています(※)。

 

※若いメス・キャンディーも、この日(2016/3/3~4)にはマリと並んで屋内通路から観察することが出来ました。

 

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こちらはマントヒヒの群れ。オス1・メス2の組み合わせは1頭のオスが複数のメスとつくるヒヒの群れの基本単位をミニマムに再現していると言えます。

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マンドリルもペアで暮らしていますが、かれらのケージの中の丸太を見ると、その歯や顎の頑丈さがよくわかります(※)。

 

※齧り木が、ある種の動物たちにとっては日常を豊かにする飼育的配慮になり得ることは前回にも御紹介しました。

 

また、福山市立動物園のゲートを出てすぐ横の事務所ロビーには「サルの骨格標本コーナー」が設けられており、園のスタッフの手づくりによるマンドリルの骨格も展示されています。歯・顎などをしっかり観察するのに頭骨は貴重なもので、動物園の生きた個体の展示を補完するものとなっています。

 

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「サルゾーン」を背にした斜面の上には、動物たちのための「供養碑」があります。いまを生きる個体とともに、かつてここで過ごした個体、すべての動物たちの記憶と現在が福山市立動物園の歴史を刻み続けています。園内を歩き、目の前に広がる動物たちのそれぞれに異なる魅力に接するとともに、それが過去から未来へと連なるいのちのひとコマであることを想っていただければと思います。

 

 

福山市立動物園

四季折々の自然に囲まれ、家族ぐるみのレクリエーションの場として、動物たちとふれあい、生き生きとした姿を間近にできる動物園。

公式サイト

〒720-1264 福山市芦田町福田276-1

電話 084(958)3200

飼育動物 64種357点(2016年2月末現在)

開館時間 9:00~16:30 (入園は16:00までにお願いします)

休館日 毎週火曜日(火曜日が祝日の場合、その翌日)

※3月〜5月、9月〜11月は、休園日なしで毎日開園します。

アクセス

車・・・JR福山駅より30分。山陽自動車道福山東I.C.、福山西I.C.よりそれぞれ約30分。

その他詳しくはこちらを御覧ください。

 

 

※この記事は2016/3/3~4の取材に基づいています。その後、福山市立動物園は飼育しているボルネオゾウ「ふくちゃん」の体調をめぐって3/11~18に一時休園しましたが、これについては当座、論じる立場にありませんので機会があれば別途記したいと思います。詳しくは同園のサイトを御覧ください。

 

動物園の飼育環境は、そこで暮らす野生動物にとって本来の生息地よりは単純化された人工的な条件になっています。では、何を優先して再現すればよいのでしょうか。動物たちの「ミニマム(必要最小限)」を見極めることは飼育管理の上でとても大切なこととなります。

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「正解」を探るさまざまな試み。ひとつにはそれぞれの動物の特徴的な習性に注目し、それを発揮しやすくしてやる方向があります。

アミメキリンはアフリカのサバンナを歩きまわりながら、長い舌で木の葉を巻き取るように食べています。福山市立動物園では地元の方の御厚意で提供される枝葉を活かし設置場所を工夫することで、キリン本来の食生活を尊重しながら来園者にも間近な観察が可能となるようにしています。

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落ち着いた暮らしの中、オスのフクリン(奥左)とメスのカリン(同右)には2015/6/24にメスの子ども「あんず」が生まれました。園としても9年ぶりのことです。

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サバンナゾーンの観察台には誕生時のあんずの体の大きさを示す、こんな展示も設けられています。

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天候や動物たちの状態によって、キリンたちは屋内展示となる場合もあります(観覧路が設けられています)。それならそれで、こんなショットも。

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ここでも枝葉がつけられています。

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こちらはオスのフクリンと、ハートマンシマウマのオス「えいた」です。フクリンがあまりちょっかいを出し過ぎると……

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ケンカというほどのものではなく、すぐに収まるのですが。

 

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こちらはメスの「おりーぶ」。シマウマの種類は主に腰から尻の模様で見分けられますが、ハートマンヤマシマウマの特徴のひとつは腰から尾にかけてのはしご状の縞です。

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小動物ゾーンのニホンリス。大げさな仕掛けでなくとも生息環境の再現は出来ます。ケージのオーバーハングはリスたちには森の枝の広がりと同じ構造や機能を持っています。

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こちらも樹上性を引き出すミニマムな仕組み。アカハナグマは南アメリカの森に住み、木登りが得意なアライグマのなかまです(地上でも盛んに活動します)。

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アカハナグマはメスが群れをつくり、普通、オスは単独で暮らします。この展示場では父親個体を除く3頭の母娘が暮らしていますが、これもまた本来の生態の再現です。しばしば、こんな寛ぎも。

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アフリカの乾いた土地に住むミーアキャットは母親を中心とした家族で群れをつくり、巣穴を張り巡らして暮らします。ここでも「団子」になっての休息が観察できます。

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約1.15kg。交替で小高い場所に見張りに立つかれらの習性を活かすことで、こんな展示もつくれます。

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曇り模様で寒かったのか(2016/3/4撮影)、見張り個体も「団子」に参加。動物園の安心感がなせるわざでしょうか。

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美しい姿で群れるチリーフラミンゴ。しかし、1羽、黒っぽい色の個体がいるのがわかりますね。昨年(2015年)8月に5年ぶりで繁殖した2羽の幼鳥の片方です。

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野生のフラミンゴは1対1のペアが数多く集まり、湖の浅瀬に土を盛り上げた巣をつくって産卵します。動物園でもこのような巣づくりは見られます。福山市立動物園ではフラミンゴたちが自分でつくったものや、繁殖行動への刺激として飼育員が土台をつくってやったものなどがいくつも見られます。さきほどの写真でも台の上に座り込んでいる個体がいますね(産卵はしていません)。

以前、当園では繁殖が始まる春先を見計らって岸辺の土を耕し水を撒いてフラミンゴたちにきっかけをつくってやっていました。しかし、このやり方ではすぐに土が乾いてしまって落ち着かないためか、5年前を境に繁殖が途絶えていました。

そこで昨年、新しい担当者は、もっと持続的にぬかるんだ状態がつくれないかと頭をひねりました。彼が選んだのは地面に防水シートを引き込んで、その上に水を撒くというやり方でした。写真にもそのシートが写り込んでいます。このやり方はフラミンゴによい刺激を与えたらしく、複数のペアによる全部で6個の産卵が見られ、孵化したうちの2羽が無事に成長を続けているのです。

今年もそろそろ「泥池づくり」が検討されています。その頃には展示場の奥に見えるケージ部分に目隠しをして(隣には他の水鳥たちがいます)、フラミンゴたちが落ち着けるようにするとのことです。

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こちらがさきほどとは別の幼鳥です。比べてみるとこちらの個体の方が少し色づきがよいですね。成長の個体差ということでしょう。

フラミンゴは自分で羽の色素を造り出すことは出来ません。そこで食べものの色素を使って体を色づけます。動物園でも色素を配合した餌が与えられています。

孵化したひなは生後2年間ほどでようやく親と同じ色合いにまで至ります。

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手前の繁みに色づきかけた幼鳥。そして、奥に真っ白な個体が見えます。これは昨年繁殖したペアの父親の方です(30歳を超えるベテラン・オスです)。生まれたばかりのひなは自分で餌を食べられません。そこで親鳥は消化管の一部からタンパク質や脂肪に富んだ分泌物を出し、それを口移しでひなに与えて育てます。オスメスともにつくれますが「フラミンゴミルク」と呼ばれます。フラミンゴミルクには体を色づける色素も含まれています。結果として、親は子に色素を分け与えた分だけ、羽色が抜けてしまうことになるのです。

昨年生まれの幼鳥たちは既にフラミンゴミルクを必要としなくなっています。育児疲れ(?)の父親もやがて元の美しい姿に戻っていくことでしょう。

創り込まれた美術作品のような華やかさが目立つフラミンゴの群れですが、かれらもまた生きた動物としての暮らしを営み続けているのです。

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こちらは水鳥たちが自由に飛び回れるように設計されたフライングケージで、来園者が鳥たちの世界に歩み入れるようになっています(先ほどのフラミンゴ舎と隣接しています)。

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すっくと立つヘラサギ。胸元の白いリングが特徴のシジュウカラガン。その奥にはツクシガモの姿もあります。

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こちらは個性的な顔立ちのトモエガモ。

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オシドリはもっぱら木のうろに巣をつくります。飼育下でも巣箱をつけることでかれらの便宜を図っています。

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さらに高みには中央アメリカ~南アメリカに住むショウジョウトキ。かれらの鮮やかな羽色もフラミンゴ同様、食物に由来しています。

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ネコ科の肉食獣を集めた「ハンターの城」。ここでも高みに臨む者たちが。

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アムールヒョウのメス・ピンです。2014/3に2頭のメスの仔・カランとコロンを生みましたが、カランは東武動物公園・コロンはいしかわ動物園(石川県)に移動しました。

また、繁殖の相方であったオスのアニュイもイギリスから来た貴重な血統の個体ということで2015/12/15に広島市安佐動物公園に移動して、新たなペアリングが試みられています(※)。

ヒョウは元々、おとな個体が1頭ずつで暮らす単独生活者なので、このような分散にも適応して新たな展開が期待されています。

 

※詳しくは、こちらを御覧ください。

 

 

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宙に懸かる丸太も平然と渡ります。

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足裏まで間近で観察できるスポットも。

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アフリカのサバンナに適応し、ネコ科では唯一群れをつくるライオン。なかよく日向ぼっこを見せてくれることも多い、オスのブワナとメスのラヴィですが……

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岩山に君臨(?)するラヴィ。ライオンは木に登ることも出来ます。

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その頃、ブワナは……。ハンターの城ではネコたちのダイナミックな身体能力を引き出すことと、来園者が間近でかれらと向き合えることの両方を意識した施設づくりがなされています。ケージ越しなら、かれらの放つにおいまでも体感できます。

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丸太などの爪とぎ用具も動物たちの習性に基づく需要を満たすとともに、その配置によって来園者との距離を詰める効果を持ちます。

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こちらは秋田市大森山動物園からやってきたアムールトラのメス・ミルル。カプセル状の観覧窓から覗けば、こんなビューも体験できるかもしれません。

トラも単独生活者なのでオスのアビとは日替わりで展示されていますが、2頭のペアリングのためにバックヤード(休園日には運動場でも)「お見合い」の試みが進められています。アムールトラの繁殖は当園にとっては、はじめてのプロジェクトです。

 

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負けじと(?)迫力の大接近は、ピューマのマロンです。

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かと思えば、こんなところにいることも。潜んでいても炯炯とした眼光です。

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こちらは比較的小型なカラカル。メスのカーラです。オスのカールと日替わり展示です。

 

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当園ではカラカルも貴重な繁殖に成功しています。みかん箱に収まった姿が話題ともなったメス・クルン(2014/5/31生まれ)は現在、姫路市立動物園に移動しています(2014/9/2撮影)。

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もうひとつの小型種サーバルも、ジャンプで鳥を狩ることもあるという身軽さをいかんなく発揮しています(写真はオスのディーン)。

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観覧窓近くに置かれたトロ舟に入りつつもこまめに自己主張(?)。

 

わたしたちは動物園で世界中の動物と出逢うことが出来ます。動物園は動物たちの本来のありように配慮しながら、かれらを健やかに飼育し、わたしたち来園者にその姿を展示しています。そこから多くの楽しみを得つつ、わたしたちは動物たちの向こうに広がる世界(環境)を考えるきっかけを得ることが出来ます。わたしたちと動物たちが、共にしあわせに健やかに生きていくためのミニマムは何でしょうか。そんな問いをしっかりと受け止めてみたいと思います。

次回もさらに、福山市立動物園で暮らす動物たちと、かれらへの動物園の飼育的配慮や展示の工夫を見つめていきたいと思います。

 

 

福山市立動物園

四季折々の自然に囲まれ、家族ぐるみのレクリエーションの場として、動物たちとふれあい、生き生きとした姿を間近にできる動物園。

公式サイト

〒720-1264 福山市芦田町福田276-1

電話 084(958)3200

飼育動物 64種357点(2016年2月末現在)

開館時間 9:00~16:30 (入園は16:00までにお願いします)

休館日 毎週火曜日(火曜日が祝日の場合、その翌日)

※3月〜5月、9月〜11月は、休園日なしで毎日開園します。

アクセス

車・・・JR福山駅より30分。山陽自動車道福山東I.C.、福山西I.C.よりそれぞれ約30分。

その他詳しくはこちらを御覧ください。

 

 

※本稿は2016/1/15~16の取材を中心に、それ以前の見聞を交えて構成されています。

※※登場するイベント等には有料のものもあります。こちらのサイトや現地で個別に御確認ください。

 

杜の都・仙台、広がる三陸の海。仙台うみの杜水族館はその名通りに自らの地盤を意識した水族館です。

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入館早々から見上げれば、そこは「マボヤのもり」。

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こんな豆知識の掲示も「海の幸」に親しんできた生活を映し出すものと言えるでしょう。

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タカアシガニとともに展示されているのは東日本大震災の年に放流され、2014年に帰ってきたシロザケです。川で生まれては海に下り、再び産卵のために回帰・遡上してくるサケ類の暮らしもまた、川や海とともに暮らしてきた人々にとっては、繰り返される季節と刻まれる時の証しなのでしょう。

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三陸の人々はカキの養殖にも取り組んできました。仙台うみの杜水族館では、それらの営みの実際を再現・展示するとともにカキ殻キャンドルづくりも楽しめます。

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「なりきり漁師体験」、気分だけでも「海に生きる暮らし」を体験してみました。

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「お絵かきアマモリウム」は自分で描いた絵の魚がスクリーンの中のアマモ場を泳ぐ姿を通して、さまざまな海の生きものたちの餌場・隠れ場・産卵場等となるアマモ場の豊かな生態系のありようを実感できる場となっています(※)。

 

※来館者の御了承を得て掲載しています。

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アマモ場とともに生きるいのち、たとえばギンポ。

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「うみの杜ラボ」は水族館が宮城県内の稀少な淡水魚類・両生類などの飼育・繁殖に取り組む姿を見せ、その意義を発信しています。

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たとえば、トウホクサンショウウオ。日本では北海道から九州まで各地に地域ごとの小型サンショウウオ類が生息しています。かれらはそれぞれの土地の気候風土を身をもって映し出していると言えるでしょう。

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「井土メダカ」はミナミメダカの地域個体群です。ミナミメダカは本州太平洋岸・四国・九州・南西諸島に分布しますが、地域による遺伝子の差が大きい動物です。仙台市井土地区のメダカは2011年の津波で姿を見られなくなってしまいましたが、宮城教育大学がその一部を飼育しており、現在、仙台うみの杜水族館・仙台市八木山動物公園を含む3施設が協働して、このメダカたちの「種の保存」に努めています。

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こちらはタガメ。魚や両生類まで襲って体液を吸う大型昆虫ですが、同時に農薬などに極端に弱いことも知られています。食物連鎖の上位に組み込まれたかれらは、その場の環境すべてが整っていなければ生き続けられないのです。

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「タガメの標本にさわってみませんか?ゲンジボタルの幼虫も観察できますよ」

「うみの杜ラボガイド」は、このコーナーの主旨に基づき、来館者と飼育員のコミュニケーションをはかるひとときです。

 

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こんな「秘密兵器」を御持参の来館者も。ライトが内蔵された携帯顕微鏡です(※)。

 

※来館者の御了承を得て掲載しています。

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飼育スタッフまでがこの顕微鏡を借りて、タガメの観察に夢中になっていました。

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これはまた別の日のガイドの様子。飼育員が手にしているのは二枚貝の標本です。

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タナゴのなかまは二枚貝の中に産卵します。かれらのライフサイクルは二枚貝なしでは回らないのです。このため、貝類が住みにくくなる環境変化はすぐさまタナゴ類の存続をも脅かすことになります。アカヒレタビラも宮城県産のタナゴ類のひとつです。

仙台うみの杜水族館では、ここで記したようなアカヒレタビラと二枚貝の関係全体の大切さを伝えるとともに、アカヒレタビラから卵を採取し、二枚貝の助けなしでの人工的な孵化・育成をすることも試みています。このような技術を磨くことで稀少種を飼育下でも、より確実に保全していき、その実践を通して、さらに詳しくアカヒレタビラの生活を探究していこうとしているのです。

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再び、海へ。冒頭でも御紹介したマボヤですが、こちらの展示では非常に珍しい白いマボヤも観察することが出来ます。

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白いのはホヤだけではありません。白いマナマコ。

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窮屈なんじゃないかと思うほどに群集する習性を持つマタナゴも白い個体が混じっています(他にまだら模様の個体もいます。実際の展示でじっくり観察してみてください)。

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海水・淡水にまたがる地元の水の世界を潜り抜けると、これもまた仙台の代名詞のひとつである広瀬川の上流から下流までをコンパクトにまとめた屋外展示です。

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屋外なので時にはこんな光景も。

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ニホンリスは観覧路の上を跨ぐ網状の通路を行き来し、食事の様子も披露してくれます。

 

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さて、こちらもリス同様に齧歯類の展示です。ただし、北アメリカ原産。

「海獣ひろば」の一角で飼育展示されているアメリカビーバーは、その寝姿も注目を集めています。なかよく身を寄せ合うのはナギとマルの兄妹2頭。

もっぱら夜行性のかれらですが、右の写真のようにプールに漂っていた枝木が朝には巣の中に取り込まれていることもあり、かれらのひそやかな活動が偲ばれます。

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夕刻。ビーバーにも食事の時間がやってきました。飼育員によるガイドトーク付です。

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受け取ってくれたのは兄のナギ。

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ナギの方がマルよりも積極的な性格のようです。野生では枝木を取り集めてダムや巣を組み上げるビーバーたち。器用にイモを持つナギの姿にも、そんな能力の片鱗が見て取れます。

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ひたすら眠るマルもキュートなのですが。

 

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ビーバー・プールの汚れの除去。限られた空間でも快適な生活を。飼育員は動物たちのためにさまざまな工夫や世話を続けています。

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観覧路の後半では「世界のうみ」のさまざまな姿も楽しめます。オセアニアの澄んだ海と色とりどりの魚たち。

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ウィーディーシードラゴンは海藻に擬態して捕食者から身を隠す大型のタツノオトシゴのなかまです。

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イエローヘッドジョーフィッシュはカリブ海原産です。奥の個体の行動に注目。

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水族館の飼育下でも、こうしてせっせと砂を掘って巣穴をつくる行動が見られます。

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クシイモリはヨーロッパだけに生息し、ヨーロッパにおける最大種です。

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同じ水槽にはマダライモリもいます。緑鮮やかな容姿ゆえに周囲に紛れるカムフラージュ。

 

宮城の水系・三陸の海から世界へ。わたしたちが日々親しむ風土は、そのまま世界とつながり開かれています。それらひとつひとつを大切にし、みんなが共に支え合うことでこそ、すべてが未来へと守られていくのではないか。仙台うみの杜水族館でのひとときは、そんな想いを育む学びと楽しみの旅なのです。

 

 

仙台うみの杜水族館

海と人、水と人との新しいつながりを「うみだす」いのちきらめく水族館。

公式サイト
〒983-0013 宮城県仙台市宮城野区中野4丁目6番地

電話 022(355)2222

飼育動物 約300種50000点

開館時間

通常期    9:00~18:30(入館は18:00まで)

冬期(1/4~3/18) 9:00~17:30(入館は17:00まで)

休館日 年中無休

詳しくはこちらを御覧ください。

アクセス

仙台駅から電車でJR仙石線中野栄駅下車(所要時間約18分)、徒歩約15分。

その他、こちらを御覧ください。

 

※本稿は2016/1/15~16の取材を中心に、それ以前の見聞を交えて構成されています。

※※登場するイベント等には有料のものもあります。こちらのサイトや現地で個別に御確認ください。

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トレーナーの合図に従い、さまざまに展開される正確でダイナミックなジャンプ。イルカのパフォーマンスは水族館の大きな華です。

現在、水族館ではイルカのパフォーマンスをかれらの知能(学習能力)と海に特化した哺乳類としての身体能力を伝える「展示」として位置づけていると言えるでしょう。

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頭の上の呼吸孔から吹き出す息で帽子もひとっ跳び。かれらがわたしたち同様の空気呼吸の動物であることも分かります。

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こちらはカリフォルニアアシカとバンドウイルカの息の合ったコラボレーション。どちらも学習能力が高いからこそ、それぞれの特徴を活かした連携も可能です。

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フィナーレ。野生でも群れをつくるイルカたちにはこんなパフォーマンスも可能です(最後は尾びれを振って「さよなら」をやっています)。

さて、これらの行動の数々ですが、イルカたちの本来の能力に基づいているとは言っても、しっかりした流れを構成するためには適切なトレーニングが必要です。

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これは釣竿を利用した「特製ターゲット棒」です。イルカのトレーニングでは、このようなターゲット棒が多用されます。先端に着いた丸いターゲットを目印に、そこにイルカが吻の先を着けたら成功として報酬(魚)を与えたり、また他にもさまざまな行動の方向づけなどを行ないます。

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これはオーソドックスな長さのターゲット棒。合図によって体の一部に触られるなどの状況に馴れてもらうことも重要です。トレーニングの大きな目的のひとつは完成度の高いパフォーマンスを構成することですが、それだけでなく必要に応じて体温測定・採血などの検査・診察を行なったり治療を施したりということも(つまり、そのような人との接触をイルカが受け入れてくれることも)、日常のトレーニングで飼育者・治療者(獣医師など)とイルカの間に「約束事」が固められていてこそ安全・正確に行なうことが出来ます。トレーニングはイルカたち自身の健康を守る意義もあるのです。

そして、能力の展示としてのパフォーマンスも、飼育下のイルカたちの生活にリズムや変化を与える効果があると考えられています。

動物福祉の観点から飼育下の動物の環境を改善し、より豊かにしようとする営みを「環境エンリッチメント」と言います。動物たち本来の能力に基づくパフォーマンスはそれ自体としても環境エンリッチメントの効果が期待されますし、パフォーマンスの構築のためを含めてのトレーニングは、イルカたちの生活環境を整えるためにも活用できるのです。

 

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ステージではアシカたちのパフォーマンス。アシカの脚は泳ぐことに適応した鰭ですが、頑丈な鰭は体をしっかりと支えられるので、アシカの仲間は地上でもそれなりに立ったり歩いたりが出来ます(アザラシと比較してみてください)。

そして、手前のプールに注目です。イルカがボールをくわえていますね。これはパフォーマンスではありません。好奇心が旺盛なイルカは時々アシカにちょっかいを出したり、いたずらめいてパフォーマンスを邪魔したりしてしまうことがあります。そこで順番待ちの間、自由に遊べるようにボールを与えているのです。

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これもイルカたちに与えられた遊具のひとつです(2015/9/19撮影)。仙台うみの杜水族館では、こうしてイルカに自由な時間や空間を与え、そこでも生活を充実させるという方向で環境エンリッチメントに取り組んでいます。

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いまイルカが飛び越えているのは、本来は飼育スタッフの通路です。しかし、あえてかれら自身がサブプールとメインプールを気ままに行き来するのを妨げることはしていません。それもイルカたちの楽しみや生活の幅となります。それならば、人間の側が安全等に留意して見守りサポートしていこう、そんな基本姿勢が定められています。

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イルカやアシカがパフォーマンスを繰り広げる「うみの杜スタジアム」のバックヤードにある遊具の数々。穴の空いた浮きは中に魚などを仕込み、イルカが工夫しながら取り出すことで退屈を防ぎ、意欲的な活動を引き出そうというものです。

 

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左の写真の遊具は、イルカが先端を呑み込んでも大丈夫なようにしてあります。また、漁具も遊具の基にするのには便利です。

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リサイクルの消防ホースで複数の咥え先をつくってあります。こうして次から次へと新しい工夫が行なわれています。

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既におわかりのように、トレーニングやエンリッチメントのための機材の多くは飼育スタッフによる手づくりです。先ほどとは別のバックヤードはこんなふうに一見「工房」のようです。

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今回は取材ということで特別に御案内いただき写真等も撮影しましたが、うみの杜スタジアムでは一般の方にアシカの寝部屋などをガイドするバックヤードツアーも行なわれています。

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そんなガイドツアーではアシカと握手しての記念撮影も。これもトレーニングの成果ですね。

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屋内2階「世界のうみ」のアメリカゾーン。ここでもスタッフによるガイドが始まろうとしています。

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白黒のツートーンがくっきりしたかれらはイロワケイルカです。ここでは水面上にいる飼育スタッフが行なうトレーニングを、いわばプールの中から見上げながら、先ほどのフロアースタッフの解説を聴くことになります。イルカたちが水面から顔を突き出しているのは、そこにトレーナーがいるからです。イルカたちは水面に向けてさまざまな姿勢を取ります。そのひとつひとつが背中の状態確認・体温測定等々と意味を持つのだと解き明かされていきます。

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投げ込まれた輪に首を通すといったパフォーマンス的なものの練習も見られます。

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こちらはバックヤードツアーに参加した時の水族館の屋上です(2015/9/19撮影)。先ほど御紹介したイロワケイルカのプールは、上から(トレーナーの視点)見るとこんなふうになっているのです。

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イロワケイルカも知的で好奇心旺盛です。こんなちょっとした遊具でも(自由に使えるように投げ込まれています)、たとえばこんなふう。トレーニングやそれに伴う報酬という場面だけではなく、イルカたち自身が自分の能力を発揮しながら自分たちなりの日々を楽しんでいる、そんなことが実感できます。

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こちらは、仙台うみの杜水族館の名物「イルカのおっぱい」(館内ショップでも販売しています)。練乳入りの手頃な大きさの大福です。イルカは哺乳類、わたしたちと同じです。

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水族館の動物たちの多くはイルカたちと同じように、健康管理やイベント等のためにトレーニングを受けています。大型のアシカ類のオタリアとゴマフアザラシ。タイミングによってはトレーニング風景を垣間見られ、トレーナーのコントロールでこんな姿を見せてくれるかもしれません。先ほども少し書いたアシカとアザラシのちがいを観察するにもよい機会でしょう。

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イロワケイルカのプールのようにゴマフアザラシやオタリアもプール内の目線で観察できるスポットがあります。フードコートの「wakuwaku ocean」です。地元・三陸の海ほか新鮮な食材のメニューが豊富に揃っています。

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オタリアには直接触れ合える「フレンドリータイム」も設けられています。

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さて、こちらは翌日からの週末を控えた2016/1/15(金)です。飼育スタッフが先導してよちよち歩くのはジェンツーペンギン。ペンギン独特の歩き方というだけではなく、なにやらまだ戸惑いがある様子です。そして、ペンギンを飼育スペースに戻してからも襟を正すようなミーティングがなされていました。

実は翌日から新たに始まるイベント「ペンギンスノーパレード」の開始間際でのトレーニングや打ち合わせだったのです。

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1/16(土)11時、いよいよ最初の本番です。飼育員に誘導されて飼育施設内のブリッジを渡り、さらに外へ。来園者が見守る中、特別仕立てで区分けられた路上をペンギンたちが行進していきます。

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ゴールはスタッフ心づくしの「雪原」。短時間の移動・滞在ながらガイドトークもあります。

 

 

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無事帰還、ホーム・スウィート・ホーム。

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ペンギンスノーパレードは3/6まで1日2回の開催です。こちらは午後の回。

「もうすぐペンギンがやってきます。手を出したりはしないでくださいね」

いくつかの約束事の告知。人がルールを守ることで、動物たちとの距離が近づきます。

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この日はペンギンに関するもうひとつの特別展も始まりました。「空想飼育講座 ペンギン編」です。

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「ペンギンを我が家に迎える」ための準備や心構えの数々をパネルや模型で解説。

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ペンギンは生の魚を食べます。かれらと暮らすには排泄物を含めて、かなりの臭気を覚悟しなければなりません。「ペンギンにまつわる臭い」は、初級者向けと上級者向けを御用意しました。

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海中を軽快に「飛ぶ」ことが出来る頑丈なフリッパー。そのパワーも体感できます、かなり痛いので自己責任で。

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ペンギンだけでなく、動物は愛だけじゃ飼えない、愛がなければ飼う資格はない。この特別展は必要経費の計算書なども添えてリアルに語っています。屋内にある、このコーナーで暖まりながら学んだ後、生きたペンギンたちの暮らす「海獣ひろば」はすぐそこです。水族館の展示の向こうにある飼育の営みにも想いを馳せてみてください。

 

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ところ変わってマイワシの群れをフィーチャーした「いのちきらめく うみ」。地元・三陸の海は寒流・暖流が出逢い、多種多様な生きものを育んでいます。「世界三大漁場」にも数えられる所以です。

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2階からの観覧はこちら。この水槽では毎日数回「Sparkling of Life」と呼ばれるマイワシたちの群舞が見られます。かれらはこのような群れ行動をすることで肉食の魚などの敵を攪乱します。水族館でのこの動きは水槽内に計算された手順で給餌を行なうことで誘導しています。ここでも人間の配慮や技術が動物たちの「自然な姿」を引き出しています。

 

トレーニング・環境エンリッチメント・飼育の営み。いわば「人が関わることで生み出される野生」に注目しながら、仙台うみの杜水族館を歩いてきました。

次回の記事では水槽展示を中心に、その名の通りの地元密着水族館・仙台うみの杜水族館の姿も御紹介してまいります。

 

 

仙台うみの杜水族館

海と人、水と人との新しいつながりを「うみだす」いのちきらめく水族館。

公式サイト
〒983-0013 宮城県仙台市宮城野区中野4丁目6番地

電話 022(355)2222

飼育動物 約300種50000点

開館時間

通常期    9:00~18:30(入館は18:00まで)

冬期(1/4~3/18) 9:00~17:30(入館は17:00まで)

休館日 年中無休

詳しくはこちらを御覧ください。

アクセス

仙台駅から電車でJR仙石線中野栄駅下車(所要時間約18分)、徒歩約15分。

その他、こちらを御覧ください。

 

 

 

※本稿は2015/11/5~6の取材を中心に、それ以前の見聞を交えて構成されています。

※※スパムが多いため、すべての記事についてコメントは受け付けておりません。設定上は投稿できますが、機械的に削除されます。申し訳ありませんが御了承ください。

 

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浜松市動物園の類人猿舎屋内(※)、なにやら小屋のようなものが。表札の主は「メンフクロウ」です。

 

※類人猿については後述します。

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メンフクロウは英語で「納屋の梟(Barn Owl)」と呼ばれ、しばしば農家の納屋に住みついて巣づくりもします。

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その理由はこちら。農家にとっては害獣であるネズミはメンフクロウにとっては御馳走です。そんなわけで、農家にとっても「納屋の梟」は歓迎するべき居候なのです(※)。

 

※差し支えなければ、こちらの拙エッセイも御覧ください。

 

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鳥と言えば、フライングケージ。

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地には、たとえば湿地に適応した「大足」のバン。ふり仰げばアフリカクロトキ・ショウジョウトキ。水辺の鳥を中心に飛ぶも歩むも自由な暮らしを見せています。

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クジャクバトの食事。植物食・魚食等の鳥種ごとのレシピも掲示されています。

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こちらはジュズカケバト。観察のヒントも満載です。

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キュウカンチョウの「なっちゃん」はフライングケージのアイドルのひとり。人のことば以外にクジャクの鳴きまねなどもするとのことで、動物園暮らしならではのレパートリーと言えそうですね。

 

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起伏に富んだ地形は浜松市動物園の特質のひとつです。先ほどのフライングケージ(写真右端)を抜けてくると、そこは猛禽たちのエリア。高みを舞うかれらの世界を体感できます。

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オジロワシのロビンソン(オス)は京都市動物園生まれの寄贈個体です。

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2011年生まれのハクトウワシ・チャップ(オス)も、その名(白頭)にたがわぬ偉丈夫となってきました(若鳥では頭も焦げ茶色です)。

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フンボルトペンギンも泳ぐことに特化した鳥です。当園の展示はペルー・チリ沿岸原産のかれらに見合った落ち着いた景観となっています(南極・亜南極的な氷の世界の体裁ではありません)。

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さらにはカリフォルニアアシカ。プール内の仕切りを飛び越えるダイナミックな体技もしばしばです。

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アメリカビーバーは14時半頃から活発になる傾向がみられるとのことです。特に夕刻の食事時間はチェック・ポイントでしょう。

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前回のホッキョクグマも含めての、さまざまな「水もの」の動物たち。その生活を支えるのが、この施設です。浜松市動物園では園内の汚水処理施設を活用して用水の浄化・循環利用に努めています。また、汚泥は動物たちの排泄物とともに堆肥づくりに活かされ、隣接する「はままつフラワーパーク」などにも送られています。

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こちらも「水もの」、コツメカワウソ。父母とオスメス2頭の子どもがおり、現在は午前と午後に性別ごとの交替で展示しています。

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ダイナミックなダイブや水中でのスマートな泳ぎも披露されています。

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さらにかれらの「寝室」を覗き見るための窓も。野生でも巣穴をつくるかれらの暮らしを、文字通りそっと垣間見てみましょう。

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別窓と言えば……こちらも。夕刻に見られるミーアキャットたちの食事です。カワウソは魚食性のイタチ科、ミーアキャットはアフリカの乾いた土地に適応したマングースの仲間。同じ肉食動物でも自ずとちがった食性を持ちます(※)。

 

※当園では鶏頭やマウスを与えています。さらには果物や固形飼料など、なかなか豊かなメニューです。

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ペアとその子どもたちを基本とする群れ生活(※)。塩ビ管を潜る姿も、野生での巣穴の暮らしを彷彿とさせます。

 

※母親個体のサザエは多くの子どもをのこしつつ、つい先日亡くなりました。

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ミーアキャットは交互に見張りに立つ習性を持ちます。時にはこんなひとときの出逢いも。

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野生での捕食者は、もっぱら猛禽類とされています。まさに天敵注意。ヘリコプターにも警戒を怠りません。

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こちらは、わたしたちが感電注意……。

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それぞれの動物たちにふさわしい暮らし。さらに、ある動物たちの「おうち」を御紹介しましょう。

浜松市動物園では1994/12以来、日本で唯一ゴールデンライオンタマリンを飼育展示しています。繁殖にも成功しており、海外に転出した個体もいます(※)。写真は2002年に当園で生まれたオスのボビー。「サルのアパート」では、かれらゴールデンライオンをはじめとする中南米の森の小型霊長類「キヌザル類」が展示されています。

 

※詳しくはこちらを御覧ください。

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コモンマーモセットもそのひとつです。

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キヌザルの仲間は昼間は樹上で活動しますが、夜には木のうろ(樹洞)で眠ります。当園のバックヤードでは、こんな巣箱を設けることでキヌザルたちの需要に応えています。これこそがかれらの「おうち」です。

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普段、なかなか見ることもない動物園の「裏側」。この展示はいわば「種明かし」ですが、種明かしされてもおもしろいのが動物園です。それは飼育を知る楽しみです。動物園飼育は野生動物たちの本来の生活を参照し、かれらにとっての必要条件を抽出・再現することを意識しています。そんな理に適った営みだからこそ「種明かしがおもしろい」ことになるのです。見た目は人工的な巣箱でも、そこに「ミニマムな樹洞」を見て取れるようになるなら、わたしたち来園者も少しだけ目が肥えたことになるのではないでしょうか。

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クロザルたちの展示施設でも人工物の活用が見られます(クロザルについては2014/9/6に撮影しました)。

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飼育員の手づくりの給餌器。手探りで食物を取りださせることで、クロザルたちの知能や手先の器用さが発揮されます。

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みんなでお食事。群れでの生活を保障してやることも大切な飼育的配慮です。社会的な満足、索餌や採食のレパートリーを増やすことでの退屈防止、動物園の努力や工夫がくっきりと見えてきます。

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サル山にも、そんなまなざしを向けてみましょう。群れ生活者には群れの暮らし。

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そして、タイヤやチェーンも森(樹上)での移動生活の感覚を再現していると言えるでしょう。わたしたちにとっての展示効果だけでなく、ニホンザルたちにとっても少しでも生活を豊かにする試みがなされているのです。

ちなみに移動生活であるからにはサル山は「おうち」ではありません。ニホンザルに再現するべき「野生の住まい」はないのですから。前述のキヌザルハウスなどとも比較しておきたいところです。

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こちらはひとりのんびりのボルネオオランウータン。メスのムカです。この無防備さは動物園暮らしの表れかもしれませんが、彼女が独りなのは普通のことです。野生のオランウータンはオスもメスも単独生活者です。繁殖行動の折にだけ両者は出逢い、出産も育児もメスだけで行ないます。「お父さんのいない社会」と言ってもよいでしょう。

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そんなわけでオスのバリとは替わりばんこに屋外を使うのが日常です。そして、こちらがメンフクロウの話でも御紹介した屋内展示。屋外とは別の間近さでの向き合いが可能です。

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こちらはチンパンジーたち。手前はオスのジョニー、奥はメスのチーコ(※)。ふたりはこのくらいの日常距離がお気に入りのようです。

 

※別にジョニーの息子のジュンも飼育されています。動物園では各個体のペースを大切にしながらジョニーたちとジュンの同居の可能性も探っています(ジュンは人工保育個体です)。

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そしてゴリラのショウ。まぶたをいじる癖があるせいか、数年前から腫れています。ショウはかなりデリケートな性格であるため、園としては不用意な麻酔治療などは避け、受診のためのトレーニングを進めるなどして対処を考えています。そんなショウもこの日(2015/11/6撮影)は、気の早い秋の陽を惜しむようにこんな姿を見せていました。

 

それぞれの時間、さまざまな暮らし。世界中から動物たちを集めている動物園にとって、それは飼育展示の要となっています。個体ごとのちがいに配慮しなければならないのも、生きたかれらと向き合う場ならではのことです。

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ゴリラと飼育担当者の一日の比較も。ショウにマイペースで暮らしてもらうために、飼育担当者自らは細やかなタイム・スケジュールで働いています(類人猿舎屋内展示)。

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ところ変わって、アメリカバイソンのオス・シャリバン。悠然と構えているのが常ですが、時には豪快な砂浴びも。

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こちらはメスのプレサージュです。飼育スペースが限られているため(他園への搬出も期待できません)、繁殖を避けてシャリバンとは隣り合わせの個別飼育になっています(お互いに間近でふれあうことは出来ます)。

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与えられた条件の中での責任ある飼育。園としての分離飼育の判断については、展示場前の掲示を御覧ください。他にも飼育担当者ならではのエピソードなどが紹介されています。

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ポニーの長老・トニー(1993/3生まれ・オス)。長らく乗馬個体として親しまれましたが、いまは引退して悠々自適です(後ろにいるのはメスのチャチャです)。

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さらに、トニーと同じ1993年生まれのオスのロバ・マック。メスのエミリーは昨年暮れ(2014/12/15)に26歳で亡くなりましたが、マックは御覧の通り、のんびりと暮らしています。

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こちらはネコ科の猛獣中心の中獣舎。黒ヒョウ(※)のペアのシム(オス)とシュヴァルツ(メス)。ふたりは今年10/16に子宝にも恵まれています(※※)。

 

※「黒ヒョウ」という種はいません。ヒョウの遺伝的黒変個体です。写真でもわかるように、明るい陽の下では豹柄が見て取れます。

※※残念ながらシュヴァルツの育児が不順であったため、現在、ベテラン飼育員の手で人工哺育中です。一人前のヒョウへの成長を祈念します。詳しくはこちらの記事ほか「飼育員だより」のレポートを御覧ください。

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最後にジェフロイクモザル。正門ゲートからの流れとなるかれらの「島池展示」は入園・退園の折に自然と目にすることが多いのですが、メスのナナ(先の写真)とオスのトクのふたりの暮らしはいつも静かな時間が流れているように思われます。

 

 

浜松市動物園

国内で唯一ゴールデンライオンタマリンを飼育展示し、動物たちとのわくわくする出逢いに満ちた郊外型動物園。

公式サイト

〒431-1209 浜松市西区舘山寺町199番地

電話 053-487-1122

開園時間

9:00~16:30(入園は16:00まで)

※ 16:00より閉園準備のため、御覧になれない動物があります。

休園日

12/29~12/31

アクセス

新幹線・JR浜松駅北口・バスターミナル1番ポール「舘山寺温泉」行きで約40分。バス停「動物園」下車。

その他、こちらを御覧ください。

 

 

 

※本稿は2015/11/5~6の取材を中心に、それ以前の見聞を交えて構成されています。

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動物園の核心は「生きた野生動物を飼育展示する場」であることでしょう(写真は2014/9/6撮影)。しかし、「飼育展示される野生」というのは、いささか矛盾しているようにも思われます。動物園の動物たちが安定した日々を過ごすためには一定のコントロールが必要ですが、それでもなお、動物園はかれらの野生を保ち、発揮させなければなりません。そのデリケートの実践だけが、この矛盾を乗り越えられるのではないかと思います。

まずは動物園飼育の中で行なわれている、そんな細やかな実践を覗いてみましょう。

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この写真は浜松市動物園で行なわれているキリンのハズバンダリー・トレーニングの様子です。合図で横向きに静止したキリンの尻尾に触れた後、飼育員は少しの餌を与えています。こうして「動物が、ある行動(静止を含む)をしたら必ず報酬を与える」という約束を、飼育員と動物の間で共有していくのです。

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結果として、たとえば直腸で検温するといったことも出来るようになります。このように健康診断や治療につながる「受診動作」を動物たちが進んで行うようにしていくのがハズバンダリー・トレーニングです。

トレーニングというと、とにかく飼い慣らすというイメージが強いかと思いますが、科学的トレーニングは約束事をつくっていく客観的な手順に従っているので、それをきちんと行なうことで、たとえば飼育動物が担当者を見るたびに餌を期待して寄ってくるといった「人づけ」を抑止する効果もあります(※)。翻って、トレーニングの外側では動物たちは、より健やかに本来のペースで活動することになります。それは「野生を保ち、引き出す」ことにつながるでしょう。

 

※人よりもトレーニングの装備やシチュエーションに反応するようになるのです。

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浜松市動物園のキリン・ペア、オスのリョウ(後ろ)とメスのシウンです(2014/9/5撮影)。シウンは2011/3/12・京都市動物園生まれ。2014/3/3にリョウの「お嫁さん」として浜松市動物園にやってきました。リョウがすぐさまシウンに御執心になったのは御覧の通りです。

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そして、二頭の間に生まれたのがオスのゴロウマルです(2015/9/18生まれ)。簡単な御紹介ではありますが、ゴロウマルの誕生に至る過程がキリン本来の繁殖行動によるものだったのが、はっきりと分かるでしょう。

家畜化(domestication)という意味での「飼い馴らす」ことは(理想的には)100%のコントロールを求めているでしょう。ことには飼い主の思うままに繁殖を制御できることは重要な課題となります。

しかし、動物園が求める「野生の飼育展示」にとっては、あくまでも動物たちが自発的に繁殖行動に至ることが大切です。いろいろな配慮はしながらも、不用意に人間(飼育員)が前面に出るべきではありません。この点でゴロウマルの誕生は、シウンとリョウに対する、トレーニングを含めての浜松市動物園の向き合い方が望ましいものであることの証明となっているでしょう。

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すくすくと育ち、立ち姿も凛々しくなってきたゴロウマル。

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いずれは同じミニサファリで暮らすグラントシマウマのマキ(左)やエレンとも、ほどよい関係をつくっていくことでしょう。

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いまだ別囲いの中で母親のシウンと過ごすゴロウマル。リョウはそんな息子が気になって仕方がないようです。

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「お隣が気になる」といえば、こちらも。キイロヒヒが隣接するケージの中を盛んに窺っています。

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こちらが「お隣さん」。ドグエラヒヒには今年(2015年)9/9に子どもが生まれました。母親のアカリはまだ3歳ながら子どもを大切に育んでいる様子です。

 

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見るものすべてに興味津々?

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ところ変わってニホンイノシシのノッシッシーは2002年生まれのメス。日本の里山を代表する野生動物のひとつです。

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ノッシッシ―の隣にはポットベリー(ミニブタ)のリンカとカリン。ベトナム原産でアメリカで改良されたのでノッシッシ―と直接的な系統関係はありませんが、イノシシとそれが家畜化されたブタを見比べることで、外見をはじめとするさまざまな変化(人間による品種改良)を学ぶ、よいきっかけとなるでしょう。

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時には、ノッシッシ―自らの御挨拶(?)も。

 

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イノシシやブタたちのいる辺りは園内でも殊に緑色濃く、うねって行く先の見えない道が期待を高めます。

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抜けていけば、こんな動物の展示も。ホッキョクグマのキロルは2008/12/9、札幌市円山動物園生まれ。おびひろ動物園を経て2011/3/ 7に来園しました(※)。まだ若いキロルは注水口からの滝を受けたりするのも好きなようです。ざざざっ、そしてゆったりと漂い……。しかし、キロルが当園にやってきたのにはわけがあります。

 

 

※いまも、おびひろ動物園で暮らすキロルの妹アイラについては、こちらを御覧ください。

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キロルが来る直前まで浜松市動物園にはメスのホッキョクグマ・バフィンがいました。しかし、バフィンは大阪市の天王寺動物園に移動します。同園のオス・ゴーゴとの繁殖を期待されてのことです。このように動物園同士が契約を結んで繁殖を目的に動物を貸し出し・借り入れすることをブリーディング・ローンと言います。バフィンのブリーディング・ローンは功を奏し、2014/11/25にメスの子どものモモが生まれました(※)。

やがてはキロルも一人前のオスとなり繁殖に貢献してくれるでしょう。動物園の展示は飼育動物たちが代を重ねることなしには継続できません。そして、そんな持続のためには園館同士の連帯が不可欠なのです。

 

※天王寺動物園に関する拙ブログ記事も御覧ください。

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しかし、いましばらくは気ままな暮らしを楽しむ様子のキロルです(2014/9/6撮影)。苦手な暑さも去り、これからは益々奔放なかれの姿を楽しめるでしょう。

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こちらはエゾヒグマのゴロー(奥・オス)とピリカ(メス)。ホッキョクグマはヒグマ(北米流にはハイイログマあるいはグリズリー)がさらに北方の極地周辺に適応して進化しました。浜松市動物園でそんな進化史の対比に想いを馳せてみるのもよいでしょう。

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進化が生み出す似て非なる関係。カナダヤマアラシとアフリカタテガミヤマアラシにもそんな対比が成り立つでしょう(共に当園で飼育展示されています)。両者は進化の系統上はそんなに近くはありませんが、防備として体毛を針に変えるというあり方は共通しています。

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一方で、木登りを得意とするカナダヤマアラシと陸上性のアフリカタテガミヤマアラシの暮らしのちがいは明らかです。動物園という場は、こんな対比を鮮やかに体験し、それぞれのいのちの歴史への敬意を呼び起こす場となり得るでしょう。

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もうひとつ、繁殖に絡んで期待のペアを御紹介。岩場の陰からまぎれもないハンターのまなざしで見据えてくるのはメスのアムールトラ・ローラです。

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ローラはロシア南西部のクラスノダール動物園で2012/6/26に生まれ、今年(2015年)4月に当園へと来日しました。

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そして、そんなローラを迎えたのはこちら。

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オスのテンは2012/12/8に当園で生まれました。この日(11/6)はローラが屋内に帰った15時過ぎからしばし運動場を楽しみました。トラは泳ぐのが好き。テンはそんな嗜好も全開です。ペアとなることを期待されながら、なぜに代わる代わる個別の展示なのか?理由はトラが単独生活者だからです。かれらは野生でも母親と乳幼児以外は単独で暮らします。また、そのような関係の雌雄でこそタイミングが合ったときには繁殖に至るのです。飼育下でもそんなトラの本性が重んじられ、飼育スタッフはかれらのペアリングの好機を窺いつつも、かれらにふさわしい単独生活を保障しています。

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動物たち本来の野生に配慮しつつの飼育。さらに好例を見ていきます。のんびりと過ごすレッサーパンダのチイタ(オス)とテル(メス)。

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しかし、それぞれの食事管理で健康を守るため、チイタはバックヤードで食事と体重測定です。同じレッサーパンダとはいっても性格・嗜好も体質もまちまち、それらに配慮しながらかれらにとってベストな健康状態とそこからの活動を実現しようと試み続けるのが飼育の日常です。

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リンゴの切り方ひとつでも、そんな飼育的配慮が込められています。若い個体には細かく切ることで実際量以上にボリューム感を与え、採食の手間をかける(=時間を延ばす)ことでダイエット効果を狙います。では、大切りの方は……?

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こちらはキンタロウとチャ。どちらも当年18歳でレッサーパンダとしては「老夫婦」と言えます。御覧の通りの仲睦まじさですが……

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やはり食事のプレートは分けられています(この写真はメスのチャ)。そして、リンゴの大きさに注目です。年輩のかれらには大きく切って、よく噛ませることが企図されています。

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キンタロウはリンゴとバナナのほかにはペレット(固形飼料)くらいしか食べようとしないとのことで、バナナを加えたメニューとなります。

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これは孟宗ヨーグルトです。孟宗竹の粉末を乳酸発酵させたもので元々は牛豚の肉質改良のために用いますが、レッサーパンダたちの夜の餌にまぶして与えています。上述のようにキンタロウはあまり竹笹を食べず、チャにもその傾向があります。それもあってかキンタロウは便の状態が悪かったりしますが、この孟宗ヨーグルトを与えることで、ある程度の改善が見られたとのことです。まだ若いテルやチイタはいまのところ竹笹をよく食べていますが、将来の食の変化の可能性も考え、時々、孟宗ヨーグルトを与えて馴らしています。他に竹の葉をジュースにしたものも活用されています。本来の食性は元より個体差や年齢による変化なども勘案しての飼育的配慮が動物たちの健やかさを支えているのです。

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ここでこちらも少々、腹ごしらえ。園内の「るんるん動物レストラン」ではスパイシーなキーマカレーが味わえます。人参がゾウのかたちになっていますね。

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そして、アジアゾウの浜子です。1972/4/7に来園しました。今年で推定45歳となります。

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巧まざるおしゃれ?ゾウは砂などを浴びて皮膚のセルフ・メンテナンスをします。

 

 

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昼下がり、浜子が部屋に戻ってきます(こちら側にも一般向けの観覧スペースがあります)。

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足裏のケア。ゾウの足裏はとても敏感です。それだけにちょっとしたことで痛めてしまうこともあり、日々のケアが出来るようにトレーニングしています。ここにもゾウがゾウらしく生活するための配慮があります。手品なら種明かしは興醒めかもしれませんが、動物園では裏側まで知ることで、さらに深く興味深い見聞が出来るように思われます。

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浜子の耳垢も展示され、においをかげるようになっています。あくまでも自己責任で……。

 

ちなみに現・浜子は三代目となります。1950年に浜松城公園内に静岡県内初の動物園として旧・浜松市動物園が開園しました。その開園当初から浜松にちなんで命名された「ゾウの浜子(初代)」がいました。現在の浜子も旧園で11年を過ごした後に現在の地に引っ越しています(※)。

 

※旧園を含む浜松市動物園の歴史については、こちらを御覧ください。

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現在、旧園時代を中心とした貴重な写真展が行われています(※)。正面ゲートからすぐの動物愛護センター2Fにお越しください。

 

なつかしの動物園展 9/19~11/29

 

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再び、ゾウ舎の屋内展示場。昨春に保護されたアオバズク・アームストロング(メス?)が「散歩」に来ていました。ひな3羽のうち1羽だけが生き残りました。野生復帰は難しいかもしれませんが、こんな機会を通して、わたしたちの日本が実はかれらと縁を持っているのを知ることができます(※)。

 

※アオバズクは夏に東南アジアから北上し、日本にもやってきて繁殖します。

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憩いのひとときを破る浜子の体当たり!

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あぁ、びっくりした(?)……次回も、このアオバズクと同じフクロウの仲間を含め、浜松市動物園のそこここで積み重ねられる飼育展示の工夫と動物たちの日々の姿を御紹介してまいります。

 

 

浜松市動物園

国内で唯一ゴールデンライオンタマリンを飼育展示し、動物たちとのわくわくする出逢いに満ちた郊外型動物園。

公式サイト
〒431-1209 浜松市西区舘山寺町199番地

電話 053-487-1122

開園時間

9:00~16:30(入園は16:00まで)

※ 16:00より閉園準備のため、御覧になれない動物があります。

休園日

12/29~12/31

アクセス

新幹線・JR浜松駅北口・バスターミナル1番ポール「舘山寺温泉」行きで約40分。バス停「動物園」下車。

その他、こちらを御覧ください。

 

 

 

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おびひろ動物園、開園しました。天気はいまひとつでしたが(※)、エゾリス(野生個体)もお出迎え。

※取材日程と天候は次の通りです。2015/9/24=晴れ・9/26=いささか雨模様。

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おびひろ動物園は帯広市の郊外、広々とした緑ヶ丘公園の一角にあります。公園内には帯広の自然や歴史を伝える帯広百年記念館、北海道立帯広美術館などのほか、いくつもの緑豊かな小径、そして野草園もあります。

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秋から冬への移ろいの中でも、野草園ではヒメザゼンソウが来春を期していました。

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動物園内の観覧車に乗れば市街地も望め、あらためて園の立地を実感できます。

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木の間越しにゾウ。

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アジアゾウのナナは北海道で飼育されている唯一のゾウです。1964年に推定3歳で来園しました。文字通り、おびひろ動物園(1963年開園)とともに歩んできた個体です。

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ナナがアジアを代表する古株なら、カバのダイはアフリカ代表と言えるかもしれません。ダイは1969年・韓国生まれで1972年に来園しました。

 

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そして、オオワシのヒロコ。1979年に帯広市も属する十勝地方の最南端の海辺・広尾町で保護されました。ヒロコは、おびひろ動物園にとってナナ・ダイに次ぐ古参メンバーとなっています。

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ヒロコのほかにも、おびひろ動物園では多くの猛禽類が保護されています。ケガをしている場合でも可能な限り早期に治療・リハビリして野生に返す試みが行なわれていますが、それがかなわない場合、園での飼育となることもあります(※)。オオタカのトヨミも十勝地方の東南端・豊頃町(とよころちょう)で保護されました(保護個体の命名は保護場所にちなんでいます)。

 

※時には傷病が重く回復の見込みのない個体の安楽殺が行なわれることもあります。それらすべてが人と動物の向かい合いのフロンティアとして動物園が引き受け、取り組んでいることなのです。詳しくは園内ワシ・タカ舎の掲示などを御覧ください。心ないハンターの違法行為で野生のワシ類が鉛中毒になっている現状なども解説されています。

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こちらはモモアカノスリ(ハリスホーク)のエブリー(メス)。2014年生まれで同年9月に来園(寄贈)したフレッシュ・メンバーです。モモアカノスリはアメリカ合衆国南西部~中南米の原産で、猛禽類としては特異な数羽の群れでの狩りをする生態が知られています。前掲の北海道産の仲間たちとも比べてみてください。

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エブリーはトレーニングを受けており、公開でのフリーフライトも行なわれます(※)。まさに目前に迫る勢い。

 

※エブリーのフリーフライトを含め、当日のイベントの日程等は園のサイトやゲートの掲示板を御覧ください。

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飼育員の指導の下、体験も出来ます。

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これはルアー(疑似餌)を使った狩りの様子。捕らえた獲物は翼で覆い隠します。

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鳥つながりでフラミンゴ。放し飼いのかれらの中に来園者が歩み入れるようになっています。大写しの個体はチリーフラミンゴ。淡い羽色や脚の色などで同居する他の種類と見分けてみてください。

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ここで少し屋内展示を訪れてみましょう。

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「どんぐりのいえ」と名づけられた施設の中、やはり鳥たちが放し飼いになっています。たとえばオカメインコ(実際にはオウム類です)。

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ブンチョウたちは4種類が同居しています。

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散歩中(?)のセキセイインコ。

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鳥以外にもこちら。冒頭でも野生個体を御紹介したエゾリスです。

 

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「どんぐりのいえ」のすぐ外にはエゾリスの繁殖施設があり、こちらでも活発な姿を観察できますが、今年(2015年)の初夏には「どんぐりのいえ」の屋内展示でも初めて繁殖が見られました。

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屋内に戻り、左右のひもを交互に引くとするする登っていくおもちゃ。そのモデルは?

 

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昼夜逆転のコーナーのエゾモモンガです。屋内飼育ではありますが、これから冬にかけてが活発に姿を見せる傾向にあるとのことです。

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このコーナーに入るときには少しだけ床面に注意してください。先ほども地上を歩くセキセイインコがいましたが、エゾモモンガのコーナーにも鳥たちが巣材を運び込んで潜んでいることがあります(毎日清掃しているので実際に営巣することはありません)。

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「どんぐりのいえ」に隣接する小獣舎には、キタキツネ・アライグマ・エゾタヌキがいます。

キタキツネの北斗は2009年生まれ(野生)で同年に兄弟3頭で保護されましたが、その後、兄弟2頭は旭山動物園に移動しています。

アライグマのマル(オス)も北海道内での保護個体です(※)。アライグマは北アメリカ原産の動物ですが、人間が持ち込み、不用意に野に放ったことで「外来生物」となってしまいました。在来のキツネやタヌキと競合するとともに、高い身体能力と幅広い食性から動植物・農産物の食害も広がっています。つぶらな瞳のマルですが、かれと向かい合いながら、しばし人間の責任についても考えてみるべきでしょう。

 

※エゾタヌキ2頭は札幌市円山動物園の生まれです。

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小獣舎は積雪時には通行止めとなります(※)。いまがかれらを観察する好機です。

 

※通行止めの間もタヌキたちはかろうじて遠望できるとのことです。

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こちらも北アメリカ原産のカナダガン。元々、園内の池(写真)で飼育展示されていましたが、かれらもまた外来生物に指定されたため(※)、現在はケージでの展示に切り替えられています。写真の個体はメスのナツです。右の水かきが割れていて、うまく歩けませんが、他の3羽とともにのんびりと暮らしています。

 

※日本にはカナダガンの別亜種シジュウカラガンが渡ってきます。人間活動による生息地の減少・破壊を主因として一時はほとんど絶滅状態でしたが、日本・ロシア・アメリカによる取り組み(仙台市八木山動物公園も重要な役割を果たしています)によって回復の流れにあります。そんなシジュウカラガンと競合したり交雑したりしてしまうこともあって、アライグマ同様に人間の手で日本に持ち込まれてしまった北アメリカ系のカナダガンは「外来生物」と見なされざるを得ないのです。

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ここで園内にいる北アメリカ系の動物たちをいささか御紹介。

ドルトンは4頭いるアメリカバイソンの「黒一点」。整った角がハンサムです。

 

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ビービー(オス)とダブのアメリカビーバー・ペア。飼育員の心尽くしの枝を齧る姿も観察できます。

バイソンもビーバーも人間による乱獲で絶滅寸前となった歴史を持ちます。動物たちそれぞれの本来の生息地での姿やそれがかき乱された時に生じる危機、世界の動物を集める動物園はそのような問題を考える手がかりも与えてくれます。

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チンパンジーのヤワラ。23歳の彼女のお気に入りは麻袋のショール(?)です。

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こちらは麻袋の切れ端をマフラー風にダンディに極めるコウタ。

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ヤワラがコウタを毛づくろいしています。コウタのマフラーもヤワラが掛けてやっているのです

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そして、今年の7月に旭山動物園から来たばかりのプヨ。彼女は麻袋で「ベッド」をつくっています(※)。

 

※野生のチンパンジーは毎晩枝葉を組んだ寝床を作って樹上で過ごします。

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若いプヨ(今年で8歳)の参入で、おびひろ動物園のチンパンジー社会にも新たな展開が期待されます。

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先ほどから映像を掲げているチンパンジー舎。せり出したオーバーハングはチンパンジーたちにとっては落ち着いて過ごせる樹上の環境の再現となっています。

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時には好みの草などを自主的に収穫。そんな草むらに落ちているのは「ワッジ」と呼ばれるチンパンジーの食べかすです。彼らは草や果実の肉質やエキスなどを吸い取った残りを、このようにして吐き出します。皆さんの目の前にチンパンジーならではの「秘密」がさりげなく披露されたりしているのです。

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このナシの木はオーバーハングからチンパンジーが手を伸ばして果実をもぐ日が来ればという飼育員の手植えです。

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ケージのそばにはスグリの木も。ヒト科に属し、わたしたちと知的にも近いチンパンジーなので、いずれはこの実も収穫してくれるかもしれません。

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チンパンジー舎のお隣。おとなオス独特の歌舞伎めいた顔でポーズを決めるのはマンドリルのキーボー。かれは2004年に生まれ、飼育員の手で育てられました。2007年に当園に来園。大好物はサツマイモです。

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屋内展示側から、キーボーと来園した子どもさんのひとこま。

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そんなキーボーを屋内から見つめる小柄な影。

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メスのサラサは今年の6月に日本モンキーセンターから来園しました。年齢は8歳。キーボーとは現在「お見合い中」ですが今後が楽しみです。

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さて、そんな屋内展示通路。マンドリルからチンパンジーの方へと歩むと、わたしたちはこのパネルに出逢います。

「今、チンパンジーの森で起きていること」写真とメッセージを提供しているのは西原智昭さん。WCSコンゴ共和国支部・自然環境保全技術顧問で(※)、アフリカの熱帯林で現地の先住民の方々と深くかかわりながら環境保全活動や研究活動を続けています。

わたしたちが日本産動物とともに暮らし、また外来生物の問題と向き合わざるを得ないように、チンパンジーやマンドリルのふるさとアフリカでも、日々、人と動物の関係が生じています。

あるいはまた、同じ地球のつながりの中で日本とアフリカにも多くの関係が生じており、西原さんが保全に関わる地域に住む森林性のマルミミゾウの牙は三味線の撥の格好の素材として珍重されるがゆえに密猟による絶滅の危機にあります。野生のチンパンジーの生息地を脅かすのは資源としての森林の伐採にほかなりません。そして、それらの動きは遠い昔から現地で暮らす先住民の人々の生活にも大きな影響を与えています。

動物園の野生動物たちをわたしたちがかれらの向こうにある自然や世界を知るきっかけと捉えるなら、そこからさらに見識を深め、動物たちや現地の人々が暮らす環境とわたしたちの暮らしとの関係にまでも理解を及ぼす必要があるでしょう。

 

※WCS= WildlifeConservationSociety.

ニューヨーク・ブロンクス動物園に本部を置く国際野生生物保全NGO。

 

そんな関心に沿いつつ、西原さんの協力も得ながら、まもなく二つの催しが行なわれます。どちらも参加者募集中です。

 

シンポジウム「北と南の先住民の自然観」

北海道とアフリカ熱帯林の先住民が持つ自然観にはどのような違いがあるのか、そして私たちはそこから何を学ぶべきなのか、それぞれの人々と深く関わる専門家を招き(アフリカは西原さん)、一緒に考えてみようという企画です。おびひろ動物園はシンポジウムを主催する帯広市教育委員会に属しており、このシンポジウムの運営の中心的役割を果たしています。

2015/10/17(土)13:30~15:30

帯広市図書館視聴覚室(先着80名)

 

おびZooトークカフェ「アフリカの野生動物のお話」

ゲスト講師・西原智昭さん。

毎月第3日曜日に飲み物片手に飼育員の話を聞く催しとして続けられている「おびZooトークカフェ」でも西原さんを招いての特別編が行なわれます。「動物好きから地球環境保全家に変身!」という副題で西原さん自身の経験に根差した貴重なお話が伺えます。

2015/10/18(日)13:30~15:00

おびひろ動物園内・動物園センター(先着30名)

 

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「おびZooトークカフェ」の会場となる動物園センターはこちらです(正門を入ってすぐ)。外壁には、楽しい動物クイズ。

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センター内にはオオサンショウウオの標本が展示されています。1965年に寄贈されてから2010年に亡くなるまで動物園での飼育歴45年は国内最長記録となっています。オオサンショウウオは西南日本に生息しますが、世界最大級の両生類として知られており、日本を代表する両生類のひとつと言えるでしょう。

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こちらは北海道でも南西部には生息が確認されている爬虫類、クサガメです(※)。アメリカビーバーと隣接したヘビ・カメ舎にいますが、動物園センターのオオサンショウウオは1980~1993年には、このカメ・プールで暮らしていました。

 

※本来は東アジアの比較的温かな地域の動物であり、北海道の野外ではペットが捨てられるなどして入り込んだのではないかと考えられています。詳しくはこちらを御覧ください。

 

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そして、アオダイショウ。こちらは北海道にも自然分布しています。クサガメもアオダイショウも冬期は冬眠のために展示が中止されますが、それまでのひととき、かれらの元も尋ねてみていただければと思います。

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おびひろ動物園では既に御紹介した猛禽類のほかにも鳥類の保護を行なっており、鳥類舎にはそんな個体の一部が集められています。

まずはアカゲラ。黒一色の頭でメスと判別できる「一号」はアカゲラ3羽の紅一点です。

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頭に紅をさしたオス2羽。黄色い足環が「三号」、緑が「八号」です(一号の足環は赤です)。個体番号が飛び飛びですが、実は園に保護されたアカゲラは全部で10羽いました。このうち5羽は残念ながら死亡しましたが2羽は野生復帰に成功しました。鳥類舎の3羽の向こうに、それらの個体すべてのいのちの記憶があります。

 

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キジバトもオス2・メス1の構成と思われます(外見では性別は分かりません)。1枚目、左がオスで右がメス。この組み合わせでオスからメスへの求愛行動が観察されていますが、最近2枚目の写真の別の個体もメス個体にアプローチをはじめ、これがオスだとするとキジバトたちの恋のさや当てとなるかもしれません。

 

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さらにはシメ、カワラヒワ……カワラヒワは2011年からいますが、動物園暮らしが気に入ったのか、自ら居着いている様子です。

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このムクドリはまだ目も空いていないヒナの時に保護され、飼育員の手で育てられました。まだ幼い容姿ですが、健やかに育っています。わたしたちにとって、ごく身近といってよいムクドリですが、それだけにあらためて、じっくりと個体と向き合う機会は貴重なものと思われます。

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今回の最後はクジャクバト。立食パーティー(?)の真っ最中です。

動物種としては開園当時の1963年以来、継続して飼育されています。開園中は、外に出ており、園内で販売しているエサを与えるもできますが、天候やカラスに襲われる心配があるときは外に出ていない場合があります。かれらの姿もまた、冬を控えて秋の日を惜しむものと言えるかもしれません。

 

後篇は、そんな来たるべき冬の見どころなども含めて、お送りします。

 

 

おびひろ動物園

緑豊かな公園の一角、北海道で唯一ゾウを飼育する動物園

公式サイト

おびひろ動物園飼育係ブログも御覧ください。

〒080-0846 帯広市字緑ヶ丘2

電話 0155-24-2437

飼育動物 70種374点(2015/8末現在) 「おびひろ動物園 探検隊 十勝毎日新聞電子版」も御覧ください。

開園時間・休園日はこちらを御覧ください(冬季開園等での変動があります)。

アクセス

JR帯広駅バスターミナルからバスで約15分。

駐車場情報等を含め、詳しくはこちらを御覧ください。