Archive for the ‘関西の動物園’ Category

※以下、動物パフォーマンスの内容を含め、2015/6/28・29両日の取材から再構成してお伝えします。なお、アトラクション等には入園料と別途に有料のものもあります。園内や公式サイトで御確認ください。

また、イベントのタイム・スケジュールは、こちらを御覧ください。

 

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神戸どうぶつ王国のテーマは「花と動物と人とのふれあい共生」。イヌやネコとふれあえる「ワンタッチ・ニャンタッチ」や、ウサギ・モルモットなどの「ピョンタッチ広場」も人気エリアです。これらの動物たちは、人が永い歴史の中で自分たちの暮らしに取り込んできた存在です(広い意味での「家畜=domestic animals」)。そこには野生動物とはまたちがった関係性があります。しかし、かれらもわたしたちとは独立の「いのち」。コミュニケーションのための「やくそく」を守ることが大切です。

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今年(2015/4/25)オープンした、約1万平方メートルの屋外エリア「アウトサイドパーク」。こちらもでイヌやヒツジと人の関わりを目の当たりにすることが出来ます。本場ニュージーランド出身のトレーナーによるシープドッグ・ショー。ニュージーランド・ハンタウェイと呼ばれる犬種のジミーは1歳半。勢いよく吠えながらヒツジたちを動かします。

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一方で、まったく声を出さずに適正な距離からの圧力でヒツジの群れをコントロールするのはボーダーコリーのダイチ。

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こうやってトンネル状の箱を潜らせたりすることも出来ます。

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人が直接、ヒツジを扱う技術も。プレッシャー・ポイントと呼ばれる場所に圧力を加えることでヒツジたちの脚を伸ばし、むらなく毛刈りをしたりすることが出来ます。

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ダイチに負けじと(?)、柵への追い込みと乗駕をしてみせるジミー。

まるでちがった流儀を披露する2種の牧羊犬たちに、牧畜の歴史の厚みも感じられます。

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引き続き、息の合ったフリスビー・ショーは豪快にして爽快。この日の出演はボーダーコリーのスバルです。

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「出番」以外の時間、ヒツジたちはヤギとともに「羊ヶ丘」でのんびりと過ごしています(決められたスポットから餌やりが出来ます)。

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2頭の仔ヤギは生後3ヶ月と4ヶ月。顎髭の有無で見分けることができました(2015/6/29撮影)。

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こちらもまだまだ「赤ちゃん」。アカカンガルーの「幸豆(こまめ)」です(生後7ヶ月・メス)。母親が出産後に亡くなったため、生後3ヶ月頃から人工哺育となっていますが、そろそろ本来なら母親の袋(育児嚢)から出入りしはじめる時期。少しずつ体をつくりながら、いずれは一人前のカンガルーとして群れに戻ることを目指しています。

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こちらがアカカンガルーたちの「カンガルーファーム」。こんな寛ぎに幸豆が加わる日が楽しみです。

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アウトサイドパークの、もうひとつの野生動物。ケープペンギンの「おやつタイム」は、順番待ちや満員御礼も出る人気イベントです。

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文字通り華やかなお花畑。取り巻きを引き連れて(?)散歩するのはアルパカのリク(オス)です。

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同じくメスの神那(かんな)。もこもこの姿は思わず手を伸ばしたくなるものでしたが……

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一夜明けた(6/28~29)、神那とリク。すっきり爽やか、頭だけまだもこもこ。アルパカは南アメリカ大陸原産のラクダ科の家畜ですが、もっぱら冷涼な高地で飼育されています。日本の夏には思いきったクールビズが必要です(※)。

 

※元々、毛を利用するために品種改良されているのでヒツジと同様、体毛が伸び続けます。人の手で毛刈りしてやる必要があるのです。

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こちらはもこもこを保っている、ましろ・ゆきみの母娘(6/29現在)。ゆきみの目に神那はどう映っているのでしょうね。

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こちらはアジア系、フタコブラクダのジェシーです。ちょっと腰の引けている餌やり体験。

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時間制でホースライドも体験できます。

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再び、屋内へ。「アクアバレー」の主役とも言うべきカピバラですが、餌の販売スタンド前で飄々と待機中です。

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元より、ふれあい体験もできます(※)。

 

※一緒にいるのは、カピバラ同様、齧歯類のマーラ。アルゼンチン固有種で、その容姿や習性は草原への適応の賜物です。

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半水生の面目躍如(2014/8/18撮影)。水面に映る「逆さカピバラ」とのツーショットなど、いかがですか?(2015/1/3撮影)

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夜行性で、もっぱらしどけない寝姿のビーバーも食事となれば、この通り。

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フタユビナマケモノでさえも。見守る飼育員も、思わず笑顔。

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次は、このエリア。「ゾウガメ広場」です。大型種のアルダブラゾウガメなどが目を惹きますが、最大体長50cm程度の種・アカアシガメの「はちべえ」も、その活発さで訪れる人の人気を集めています。停めてあるベビーカーの下などが、お好みの場所だとか。かれは唯一のオスで、他に3頭のメスのアカアシガメがいます。

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さて、同じエリアで、こちらはオウギバトの親子。今年2月に孵化したヒナもすっかり大きくなりました。

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各個体の見分けポイントは足環。幼鳥は足環なしですが、父親個体は右足に黄色、母親個体は左足に白の環を着けています。

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「もっともっと鳥とふれあいたい」。そう望まれる方は「コンタクトパロッツ」にどうぞ。小型のインコやオウムが放し飼いになっていて、餌を与えることも出来ます。このエリアへのゲートには、鳥たちの「腹具合(給餌量)」などを基に飼育員が判断する「いまの鳥達の気持ち」が掲示されています。

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足を踏み入れれば、こんなひととき。折角ですから、かれらのくちばしの使い方などもじっくりと観察させてもらいましょう。

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楽しい一日もいつしか夕刻。本日は、お見送りも鳥で。ルリコンゴウインコのラズちゃんです。「バンザイ」を披露。

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そして、バイバイ、またね。

きっと誰もが再び訪れたくなる神戸どうぶつ王国。夏に向けての施設やイベントの新展開も楽しみに、ひとまずは家路を辿りましょう。

神戸どうぶつ王国は2015/7/19、一周年を迎えました。

 

神戸どうぶつ王国

「花と動物と人とのふれあい共生」をテーマとした全天候対応の動物園。

公式サイト

〒650-0047 神戸市中央区港島南町7-1-9

電話 078-302-8899

飼育動物 90種600頭羽

開園時間(入園は閉園の30分前まで)

平 日    10:00〜17:00

土日祝    10:00〜17:30

※GW等については当園サイトを御覧ください。

休園日

毎週木曜日

アクセス

三宮駅よりポートライナー空港方面に乗車し、14分、「京コンピュータ前(神戸どうぶつ王国)」駅下車すぐ。

その他、こちらを御覧ください。

 

 

 

※以下、動物パフォーマンスの内容を含め、2015/6/28・29両日の取材から再構成してお伝えします。なお、アトラクション等には入園料と別途に有料のものもあります。園内や公式サイトで御確認ください。

 

神戸市・三宮駅からポートライナーに乗車。最寄駅の「京コンピュータ前(神戸どうぶつ王国)」に着けば、階段を下りたすぐ目の前はもう、神戸どうぶつ王国です。

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この日のお出迎えはハリスホークのハリー。神戸どうぶつ王国は、まずもってさまざまな鳥たちの姿で特徴づけられています。

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「ウォーターリリーズ」は端正な佇まいの睡蓮池。

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しかし、時至れば、この賑わい。バードパフォーマンスショーです。

 

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颯爽と飛ぶエジプトハゲワシのロック。神戸どうぶつ王国は、2014/7に前身の神戸花鳥園から運営母体も一新されて生まれ変わった後、それまでは飼育展示のみだった鳥たちの中から新たにトレーニングを施して、バードショーの内容も目覚ましく拡充されました。エジプトハゲワシも、そんなメンバーのひとつです。鳥にとって飛ぶことは本性です。その能力を的確に引き出すことはすぐれた展示効果になり得るとともに、鳥たち自身の健康増進にもつながります。このロックもショーに参加するようになってから羽も艶を増し、筋肉の発達した姿となってきました。

 

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オオフクロウの福豆、ベンガルワシミミズクのシオン。夜の森を音もなく飛んで狩りをするかれらの羽は、とても柔らかく羽音が立ちにくい構造となっています。こうして間近でかれらのフライトを見聞することで、わたしたちもそれを体感することが出来ます(まったく羽音が聴こえません)。

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シロオオタカの白雪。オオタカのショーは、どうぶつ王国だけの珍しいものだとのことです。

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「カイト!」

呼び声に応えて飛来するハリスホーク。この子どもさんは思わず目をつぶってしまいましたが、カイトの見事な制動や腕に感じる重みなど、忘れられない体験となったことでしょう。

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オオバタンのオオちゃんは御挨拶の声も披露してくれます。

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これも経営一新後のあらたな試み。ルリコンゴウインコのルリとベニコンゴウインコのモリーのタンデム飛行です。野生のコンゴウインコ類は高い知能を持つとともに、つがいの絆が強いことでも知られています。飼育下のかれらにとっても、こうして仲間とともに行動することは、飼育的効用(社会性の面での動物福祉)を持つと考えられます。

 

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ひとしきりのショーが終わるとフクロウたちとのツーショット写真も楽しめます。

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神戸どうぶつ王国では平日も含め、多様なイベントが行なわれています。入国したら、まずはその日の予定を確かめておきましょう。

 

 

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こちらもまた、別なかたちでさまざまな鳥たちの姿を観察できる「ペリカンラグーン」。その名にし負うペリカンたちが寛いでいます。

 

 

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ニジキジのニッキーも探してみましょう。島の木立ちに紛れていることもあります。

 

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6/15と5/24生まれのクロエリセイタカシギ。ひと月に満たない開きでも、成長は目覚ましいものがあります。今年は繁殖も順調なので、いわば空間的に並べられたかれらの生活史を御覧ください。

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これが成鳥です。

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マガモも6/14に孵化しました。生きた動物たちである以上、可能な限り安定した繁殖を保証していることも動物園の健やかさの証となります。

 

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ペリカンラグーンで暮らすのは鳥類だけではありません。一見シカにも見えるシタツンガはアフリカ産のウシ科動物で湿地に適応しています。しばしば排泄も水中へ。緑豊かな水辺でのかれらの穏やかな姿を、こんなに近くで観察できる施設は数少ないと思われます。

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シタツンガを背景に枝の上に集うのはワオキツネザル。左側の小さい個体は2015/2/1生まれのオスでキースです。

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こちらがキースの母親のレース。日本モンキーセンターから来園した際、既にキースを妊娠していました。

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給餌解説「ワオワオトーク」。わたしたちといささか構造はちがいますが、しっかりと片手でものが掴めるのは霊長類の証です(※)。

 

※キツネザル類は原始的な特徴を遺す原猿類の一グループで、早い時期からマダガスカルに地理的隔離をされることで独自の姿を保っています。

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ぬいぐるみの展示?

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いえいえ、2015/5/10生まれのミナミコアリクイのメスです。飼育員による人工哺育ながらすくすくと育っています(※)。

 

※公開でのミルクタイムのスケジュールは展示場の掲示で御確認ください。

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木のぼりの能力も着実に発達中。

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さて、このあたりで少し休憩しましょうか。神戸どうぶつ王国には喫茶軽食からバイキングまで楽しめるいくつかの施設が内蔵されています。こちらはバイキングレストラン「フラワーフォレスト」の夏季限定の新メニュー。冷製フラワーパスタ(仮)です。特別に試食させていただきましたが、トマトとモモ、そしてエディブルフラワーがあしらわれて、さっぱりとした涼しい味わいでした。

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さて、次のゾーンです。その名も「ビッグビルラグーン」。ここの主の「大嘴(ビッグビル)」とは……?

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ハシビロコウのオス・アサラトです。触れたり不用意に近づきすぎたりしてはいけませんが(立会スタッフの注意に従いましょう)、それでもこんなに近くで向き合うことが出来ます。アフリカの湿地帯の再現を試みて沼を設け、岩や繁みを配した景観は、わたしたちに野生のハシビロコウの生息環境をイメージさせるだけではなく、ハシビロコウ自身にもリラックスして、その本性を発揮してもらうことを目指しています。

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この行動はアサラトの中で巣づくりの衝動が目覚めていることを示しています。ビッグビルラグーンはハシビロコウをペアで展示することで、世界でもわずかしか成功していないかれらの繁殖につなげようとしています。

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これが相方のメス・カシシです。さきほど御紹介した巣づくり行動のほか、お互いの間で挨拶行動も見られ、ペアとしての成熟が期待されています。アサラトもカシシもアフリカの民族楽器から名を取っていますが、かれらの間ではようやくペアリングに向けての序奏が始まったというところでしょう。

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これらの写真はどちらもカシシですが、一枚目は今回(2015/6/28)、二枚目はお正月(2015/1/3)に撮影したものです。瞳の色が黄色から青へと移ろっているのがわかりますか。これはハシビロコウが若鳥から成熟した個体になりつつある徴です。アサラトも同様の変化を示しています。二羽とも、まだ角度によっては黄色みが見て取れるのですが、何度か訪れる機会があれば、是非かれらの成長過程をその時々の記憶にとどめてください。

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ビッグビルラグーンの立会スタッフに抱かれているのはミーアキャットのナックとアザー。どちらもオスですが、人工哺育個体ということで、来園者と親しくふれあい、細かな様子まで感じとっていただくはたらきをしています。

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ビックビルラグーンの向かい側では7月中旬頃の開設を目指して、新たな施設が建造中でした。こちらもアフリカの湿地帯をイメージしていますが、滝などを設けて、また別の趣向凝らしたものになるとのことです。順調ならば、この記事の前後にその全貌を現わしてくれることでしょう。

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本日のお見送りはパンジーちゃん。

しかし、神戸どうぶつ王国の魅力はまだ半分もお伝えできていないように思います。次回は、さらに別の施設、そして動物たちの姿をお伝えいたしましょう。

 

 

神戸どうぶつ王国

「花と動物と人とのふれあい共生」をテーマとした全天候対応の動物園。

公式サイト

〒650-0047 神戸市中央区港島南町7-1-9

電話 078-302-8899

飼育動物 90種600頭羽

開園時間(入園は閉園の30分前まで)

平 日    10:00〜17:00

土日祝    10:00〜17:30

※GW等については当園サイトを御覧ください。
休園日

毎週木曜日

アクセス

三宮駅よりポートライナー空港方面に乗車し、14分、「京コンピュータ前(神戸どうぶつ王国)」駅下車すぐ。

その他、こちらを御覧ください。

 

 

 

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ゾウの住む森「チャーン・ヤイ山国立公園」。実は都市型動物園・天王寺動物園の一角です。植栽を工夫し、園路をくねらせて行く方を隠すなどによって、あたかも本当の森に歩み入っていくような効果を挙げている「生態的展示・アジアの熱帯雨林」です(※)。ここに掲げた園路の写真2枚も、ほんのひと角曲がっただけの関係です。現在、下草対策で植栽に剪定が施された部位もありますが、夏に向けて「森」は再生していくことでしょう。

 

※詳しくは、この展示を企画立案から主導した若生謙二さん(大阪芸術大学教授)の論文を御覧ください(PDFファイルが開きます)。

 

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ところどころに来園者の気分を高め、ゾウの生態等の知識を増してくれる装置や掲示も設けられています。

 

 

 

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最初の開けたビュー。現在、飼育展示されているゾウが1個体のため、当座、こちらの展示場は使われていませんが、そこはかとなくゾウの気配が感じられるように思います。

 

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時にはたくさんの人が夢中で透き見することもあるのが、この観察小屋です。

 

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見つけました。ラニー博子。1969年(推定)・インド生まれです。

 

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時には飼育員との一コマも。アジアゾウとしては、それなりの年齢を迎えつつあるラニー博子ですが、恵まれた施設とさまざまな飼育的配慮の中で日々を重ねています。

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そんな彼女にさらに近づいていく道のり。「森」のゾーンから「村」のゾーンへと移っていきます。「ゾウと隣り合って暮らす現地の村」という設定で、畑を荒らす野生ゾウに備えた見張り小屋なども建てられています。

 

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そして、この水辺がゴールです。水面に映る「逆さゾウ」も目を惹きます。

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ゾウは水浴びのみならず、長い鼻を活かしながら「半水生」ともいうべき姿を見せることもあります。ラニー博子の場合、足の故障のため、水に入っている方が楽だという事情もあるそうですが。それもまた、この施設がゾウの快適な暮らしへの配慮を備えている証だと言えるでしょう。

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もうひとつの生態的展示。アフリカサバンナです。こちらもンザビ国立公園と名づけられています。アフリカ現地の保護区という設定です。その道のりを辿りながら、イベントも含めての動物たちの姿を楽しんでみましょう。

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園内のあちこちにある、この看板。公開給餌の予定を示しています。

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オスのカバのテツオです。少しの「おやつ」を与えながら歯の手入れをします。それを見学しながら、なかなか見ることのできない彼の全身、そして立派な犬歯などを観察できます。このようなことが可能なのも、普段からカバと飼育員の間に一定の「約束」(手入れの受診~おやつという科学的トレーニング)が成り立っているからにほかなりません。

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かたや水中の様子がよく見えるのは、メスのティーナのプール(普段はオスメスを分けています)。群れているのはナイルティラピアです。カバの老化した皮膚や水中で排泄される繊維質の糞などを食べてくれます。本来の生態系の一環の再現です。

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ぐわりと伸び上がれば、腹部の様子もよく分かります。御覧のように飼育員通路からの給餌が、このような動きを引き出しています。

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ティーナの「おやつ」は、こんなメニュー(※)。

※右側のバケツに入っているのはオキアミで、ナイルティラピアの餌です。

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ゾウ・カバに続いて、これまた大型の陸生哺乳類を代表するクロサイのトミーです(国内のオスでは最高齢の32歳)。昨年(2014年)の1月にメスのサッちゃんが亡くなってから一年あまり、当園唯一のクロサイでしたが、今月(2015/6)、ドイツから今年2歳になる若メス・サミアが来園しました。順調ならばサミアはこの夏の間にも一般公開される予定で、トミーとの繁殖にも期待がかけられています。

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一気にコンパクトに。コビトマングースのオス・サチオです。

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サチオにも毎日14時頃に公開給餌が予定されています。落ち葉だまりやフィーダー(給餌器)に飼育員が餌を仕込みます。

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器用さをフルに発揮。フィーダーの中にはミルワームが入っていますが、鼻先で巧みに突いて取り出し食べています。

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こんなフィーダーが使われることもあります。これらによる行動の活発化や多様化が、サチオの動物園暮らし(飼育環境)を豊かにしているのです。

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さて、いよいよメインともいうべき、広々とした緑のグラウンドでの混合展示です。まずはアミメキリンのペア。オスの幸弥(コウヤ、2012/3/15生)はひとつ年下のメス・ハルカス(2013/1/1生)にぞっこんの様子。アメリカから来園し、日本一高いビル「あべのハルカス」にちなんで名づけられたハルカスですが、彼女がその名にふさわしい成長を見せていくのとともに、このペアのロマンスも高まれば、と温かいまなざしが寄せられています。

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大形のウシ科動物・エランドのルティー(オス)も存在感があります。前回の記事でも御紹介した幼いグラントシマウマ・ヒデミが暮らすのもここです。

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さらには隠れキャラ(?)のホロホロチョウ。放し飼いのかれらは、時には一般園路にまで出張してきます。

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しかし、給餌を兼ねて集合をかけるトレーニングが行なわれているため、サバンナ周辺から逸脱することはないとのことです(2013/2/27撮影※)。

 

※夜間もこの方法で集め動物舎に収容し給餌しています。

 

 

さて、ここからは「肉食エリア」です。

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まずはブチハイエナ。よく見ればユーモラスな容姿ですが、太い骨をも噛み砕く顎を持ち、ある意味ではライオンにも負けず劣らずの名ハンターです。

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これからの夏、今年もこんな姿が見られたらいいですね(2012/8/18撮影)。

 

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ブチハイエナへのビューは、先程の写真のように実際のアフリカのサバンナでも特異な姿を見せる岩山・コピエを模しています。そして、その内壁にはこんな動物の姿も。ケープハイラックスです。樹上や岩肌でも俊敏に振る舞い、木の葉を食べるその様子は、発達した切歯(前歯)とともに齧歯類のイメージが色濃いのですが、実は進化の系統の上ではゾウや海牛類(ジュゴン・マナティーなど)に近縁であることが分かっています。いわば、ゾウや海牛類の道を歩まず、まったく異なる環境に適応していくことで、かれらはハイラックスになったのです。

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そして、アフリカのみならず地球を代表する肉食獣・ライオンの登場です。オス1頭・メス2頭の構成ですが、かれら同士でのあれこれの社会的な関わり、そして動物たちが飛び越えられないモート(濠)を活用することで「食う・食われる」の関係を視覚化してみせる「通景」の効果で、わたしたちはあらためてアフリカサバンナの生態系を実感することとなります。

 

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ガラス越しの近接ビューも設けられています。

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最早、百面相の域?

 

 

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アフリカハゲコウのペアにも注目です。枝を組んで営巣していく過程で見られる、あれこれのしぐさなどは、かれらなりの社会的儀礼と言えるのかもしれません。写真は、前回にシュバシコウの例を御紹介したクラッタリングです。

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アフリカの空気に満たされたサバンナを抜けたら、こんな場所に足を止めてみてもいいでしょう。旧シマウマ舎は、いまや来園者用の広場となっています。よりリアルで生き生きとした動物展示を目指してきた天王寺動物園の歴史が、静かに垣間見えてきます。

 

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動物園の歴史。前回登場した「鳥の楽園」の外には、いささかの庭園が設えられています。その庭の一角にあるのが、チンパンジーのリタとロイドのペアの像です。メスのリタは1932年に(推定6歳)、オスのロイドは1934年 (推定3歳) に来園しました。ことにリタは園内のショーで多彩な芸を披露し、「天才」と称されました。ロイドとの間に繁殖行動も見られ1940年に出産しましたが、残念ながら死産に終わり、リタ自身もほどなく亡くなりました。ロイドも1942年に亡くなっています。いまのまなざしから見れば、文字通りの「過去」ですが、これらの歴史も踏まえながら、現在の天王寺動物園ひいてはすべての日本の動物園がつくりあげられてきました。そのことを思い返すという意味ではリタやロイドは単なる過ぎ去った存在ではなく、何度も噛みしめて動物園の未来を拓くべき「よすが」と言えるでしょう。

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現在、天王寺動物園のチンパンジーたちは、樹上生の特質を発揮できる施設で、かれら本来の群れ生活を送っています。

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ここはアイファー。爬虫類生態館です。

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足を踏み入れて最初のサイプレス・スワンプは、時にミストに包まれます。アメリカ南東部の温帯湿地を再現した、この展示が一段とリアルさを増すひとときです。水中から伸びて呼吸効率を高める気根を発達させた木々の姿も見て取れます(※)。

 

※気根の機能の解釈としては、この呼吸作用と並んで、湿地の土壌で当の樹木を安定させる意義があるのではないかとも言われており、実はいまだに探究の途上です。

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サイプレス・スワンプの主ともいうべきなのは、このミシシッピーワニです。ワニの中でもアリゲーターと称されるグループに属します。

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ミシシッピーワニが北アメリカ東部のアリゲーターなら、こちらは中国南東部に分布するヨウスコウワニです。その名の通り、大阪市と友好関係にある上海市から贈られてきました。北アメリカと東アジア、太平洋を隔てた2種のアリゲーターをつぶさに比較できるのも動物園ならではの醍醐味です。

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こちらはワニガメです。北アメリカ産動物ということでサイプレス・スワンプでミシシッピーワニと同居していますが、こちらのヨウスコウワニの展示スペースでも異彩を放っています。

 

※来園者の御了解を得て掲載しています。

 

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御馳走の赤虫に喰らいつくスペインイモリ。敵に襲われると脇腹を破って肋骨が飛び出し捕食を免れるというユニークな生態を持っています。

「爬虫類生態館」と銘打たれたアイファー(IFAR)ですが、その名は、無脊椎動物(Invertebrates)・魚類(Fishes)・両生類(Amphibians)、そして爬虫類(Reptiles)の頭文字を進化の順に綴り合せたものです。そして、それらの複合展示は生息環境を全体として捉えるというコンセプトに貫かれています。

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このヤシガニも亜熱帯の海岸のマングローブ林の展示の中で、しっかりと自分のポジションを占めています。

 

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インドネシアの熱帯雨林の樹上で暮らすクロホソオオトカゲの振る舞いは、時にダンスを思わせます。

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2014年10月中旬に生まれたグリーンイグアナです。全部で6頭。繁殖という出来事は、動物園が紡ぐ、いのちの営みを目の当たりにさせてくれます。

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こちらが成体のグリーンイグアナ。幼体たちの健やかな成長が祈念されます。

 

 

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アイファーにはカルタ仕立ての愉快なひとこと解説も掲示されていて、動物散策に楽しみを添えています。

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わたしたちの多くには、最も身近なはずの日本の暖温帯の干潟。チュウシャクシギほかの姿が見られます(※)。

大概の動物園は、多くの外国産動物の飼育展示で特徴づけられていますが、それらを知ることは、わたしたちの足元の自然に目が開かれるきっかけともなり得るでしょう。

 

※動物展示側を観覧路より明るくすることで、ガラス等の隔てなしでも暗い方へ飛び出したりしないという、鳥の習性を利用した展示となっています。

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アイファーから屋外に出てキジ舎の一角。コジュケイです。本州以南ではそれほど珍しくもない鳥ですが、実は中国中南部の原産です。1920年頃に東京や神奈川で放鳥されたのを皮切りに、狩猟鳥として各地に導入された外来種なのです。

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天王寺動物園では、南アメリカ原産の齧歯類ヌートリアがミシシッピーアカミミガメとともに展示されています。かれらもまた、毛皮のためや愛玩動物として日本に持ち込まれ、不用意なかたちで野外に放たれてきました。

本来の生息域を逸脱した外来種はしばしば移入先の在来種と競合し、さまざまな環境問題を生み出しています。しかし、かれらはやってきたのではなく人の手で運び込まれたのです。愛らしいといってよいヌートリアたちが害獣となっている現状、動物園の楽しさの中でも、時には胸に手を当ててみたいことがあります。

 

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ヌートリアたちに隣接するのはトウブハイイロリス。北アメリカ原産のかれらの場合、イギリスなどに持ち込まれ定着してしまっていることが知られています。

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日本とは、世界とは、地球とは?さまざまな問いと魅力を孕んで、動物園は皆様を待っています(※)。

 

※バフィンとモモのホッキョクグマ母子の詳細は、前回の記事を御参照ください。

 

 

大阪市天王寺動物園

全国で3番目に歴史が長く(1915年開園)、動物たちの「野生」を体感できる生態的展示の試みなど、いまも未来へ歩み続ける動物園。
公式サイト

〒543-0063

大阪市天王寺区茶臼山町1-108 大阪市天王寺動植物公園事務所

電話番号 06-6771-8401

飼育動物 約200種900点

アクセス

地下鉄「動物園前」①番出口より約5分。その他詳しくはこちらを御覧ください。

 

 

 

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天王寺動物園の朝、いきなりながら真打登場。2014/11/25生まれのメスのホッキョクグマ・モモと、母親のバフィンです。天王寺動物園は2015/1/1で100周年を迎えました。当園としては16年ぶりのホッキョクグマの繁殖成功となったモモ(百々)は、この100周年にちなんで命名されました。母親のバフィンは他園で過去3回出産を経験していますが、いずれも育児放棄となっており、今回はじめて安定した育児に至っています。

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放飼(出場)早々、格子越しに向き合う母子と担当飼育員。飼育員がホイッスルをくわえているのが分かります。次第に夏めいた暑い日が増える中(2015/6/10取材)、バフィンは表に出たがらない傾向があります。そこで、「表に出る」「シャッターが閉まる」という節目ごとにホイッスルを鳴らして、少しのおやつを与えています。科学的トレーニング技術の応用であり、こうしてバフィンに無理強いすることなく、落ち着いた「動物園暮らし」のリズムを定着させようとしているのです。モモはひとまず「お相伴」です。

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モモはすくすくと成長し、すこぶる元気です。バフィンから離れての行動も目立ってきました。

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この写真の頃(2015/3/31撮影)からおよそ70日。ホッキョクグマの赤ちゃんは、見る見る変わっていくのです。

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おもちゃ発見。枝をくわえている姿も、よく観察されます。



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もっといいもの、見つけた!飼育員が投げ込む、さまざまな遊具にもすっかり馴染んでいます。これらの遊びは、泳ぎのきっかけとなり、ホッキョクグマらしい体をつくるのに大いに役立っています(※)。

※ダイビングは、野生のホッキョクグマがアザラシなどを狩るときにもみられる行動です。

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時には、おかあさんとのとりあいも……この黄色いパイプ、元々はガス管です。

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6/16、モモはまたひとつ、「おとなの階段」を昇りました。取材時には御覧の通りだった運動場右寄りのステップを、ついに自力でクリアしたのです。詳しくはこちらを御覧ください。

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天王寺動物園では、ホッキョクグマのほか3種のクマ類(メガネグマ・ニホンツキノワグマ・マレーグマ)がひと並びに展示されています。モモやバフィンからの流れで、各地の環境に適応したかれらを比較する「世界のクマ・プチツアー」を試みてもよいでしょう。写真はマレーグマのマーズ(オス)。しばしば、バックヤードの飼育員の様子を窺う独特のしぐさで知られています。

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次は2014/8/9生まれのジャガーの双子です。8月(葉月)生まれなので、オスは葉月旭(あさひ)・メスは葉月ココと名づけられました(※)。母親のルースと同居しています。ルースは大阪市と上海市の親善動物として2011年に上海動物園から来園しました。隣の運動場には父親のジャガオもいます。おとなのジャガーは単独生活者なのでオスもメスも一頭で暮らします。旭やココにとっても母親やきょうだいと一緒に暮らせる時間は短く、その間に必要な社会性や基本的な行動などを身に着けます。なにげなく映る旭とココのじゃれあいも、貴重な学びのひとときなのです。

※旭は「九日」、ココも「九」で、ともに「9日生まれ」を意味します。

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何種類もの霊長類たちの比較展示であるサル・ヒヒ舎。ここでもフクロテナガザルの赤ちゃんが生まれています(2014/9/22生まれ)。テナガザルは「一夫一婦」のペアをつくります。父親や、年かさの兄姉なども子育てに参加します(現在はペアと赤ちゃんの「三人家族」です)。

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新しいいのちの誕生は哺乳類ばかりではありません。
「鳥の楽園」は、大きなドームの中にわたしたちが歩み入り、自由に飛び交う鳥たちの姿を観察することが出来ます。写真はウミネコの飛翔です。

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首をもたげ、くちばしをカタカタと鳴らすシュバシコウ(ヨーロッパコウノトリ)。クラッタリングと呼ばれる、この行動は、なわばりの主張やペア同士のコミュニケーションのために行なわれます。

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別のペアの巣。ヒナの姿がありました。シュバシコウは人家の屋根で巣づくりをすることも多く、東ヨーロッパでは、それを吉兆と見なすと言います(※)。コウノトリを「赤子を運ぶ使い」とする発想も、そんなところから出てきたのでしょう。

※「鳥の楽園」の中に向かう通路にはシュバシコウの生態に関する図解が掲示されています。

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コサギ、アオサギ……シュバシコウの他にも見られる数々の巣。

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こちらはよく見ると、ドームのネットの外側にあります。野生のアオサギも、こんな場所を選んで営巣しているのです。

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カリフォルニアアシカの池の柵にとまる、この鳥。見覚えがあるような、ないような……。

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ゴイサギの幼鳥です。写真奥の成鳥と比べてみてください。


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ここでも母鳥の下で守られるヒナの姿。

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キジ舎の一角、ヒオドシジュケイの母子です。

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こちらが父親。地上にいることも多いかれらの育児行動をじゃましないように、目隠しのシートが張られています。

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楽しい園内散策で過ごすうちに、もう昼過ぎ。ホッキョクグマ舎では母子が収容され、職場体験生を率いた飼育員がリンゴなどをセッティングしています。

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入れ替わりに放飼され、さっそくリンゴを賞味するのはメスのイッちゃん。2013/12/11、ロシアのノボシビルスク動物園生まれですが、豚まんなどで有名な株式会社蓬莱が天王寺動物園に寄贈し、今年(2015年)3/28に当園に到着しました。

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株式会社蓬莱と天王寺動物園のホッキョクグマには深い関わりがあります。モモの父親であるゴーゴも2006年に蓬莱が当園に寄贈しています(写真は2010/2/24撮影)。ホッキョクグマも前記のジャガー同様に単独生活者であるため、子づくりの任を果たしたゴーゴは、現在、和歌山県のアドベンチャーワールドで、別のメスとのペアリング(繁殖)を試みています。そのゴーゴが帰ってきたとき、さらに別の繁殖の可能性を、ということで、今回のイッちゃんの寄贈が行なわれました。

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ロックオン……それ!

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巧まざるシャワーで御満悦の様子。

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ホッキョクグマのプールで活用されていた黄色いガス管。園内では他にも応用例が発見できます。骨を砕いたまるごとの鶏を手にガイドを始めている飼育員……

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昨年(2014年)にリニューアルされた運動場に入ります。鶏は、くだんのガス管の中へ。

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登場したのはアムールトラの虎二郎(こじろう)です。虎二郎もジャガーのルース同様、上海動物園から2014/3/28に来園しました。

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器用に肉を取り出して、ぺろり。

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おやつが片付いても、しばらくは遊びが続きます。これも狩りの感覚につながっているのでしょうか。飼育動物たちの日常にめりはりを与え、かれらの退屈を減らす、このような試みは一見人工的な観もありますが、かれら本来の能力や習性とのつながりも感じ取れます。動物学的な観察と動物福祉の両面から見ていくことが出来るでしょう。

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張り切る虎二郎の隣(以前からの運動場)では、ゆったりと堀を泳ぐ、別のオスのセンイチ。2003年に東京の多摩動物公園で生まれたセンイチは、その年のうちに当園に移動し、いまではすっかり住み慣れた様子です。

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ヒツジの祖先にあたる野生種と考えられているムフロン。かれらが展示されている岩山にも、こんなひと工夫が見られます。

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穴を開けたポリ容器や植木鉢、ブイなどに固形飼料を入れておくことで、ムフロンは自分たちの角などを活かし、時間をかけて食事をして一日を過ごすことになります。

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ここで暮らすのはツウ・テン・カク(通天閣)のオス3頭です。

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フタコブラクダのジャックも食事中。美味ですか?

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ラクダのジャックなどの暮らす一角は、高い観覧通路からの見晴らしで動物たちの姿を楽しむことが出来ます。ハイイロカンガルーのユイ(メス)もそんなひとつ。ちょっと恥ずかしがり屋だとのことです。そっと見つめてあげましょう。

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新しいいのちをめぐり、飼育的配慮に支えられた動物たちの日常のありさまを見つけてきた天王寺動物園散策。しかし、まだまだ御紹介するべきものは溢れています。次回は、このグラントシマウマのヒデミ(メス・2014/11/1生)も暮らす「アフリカのサバンナ」ほか、さらに個性的な展示施設を楽しんでみたいと思います。

 

大阪市天王寺動物園
全国で3番目に歴史が長く(1915年開園)、動物たちの「野生」を体感できる生態的展示の試みなど、いまも未来へ歩み続ける動物園。

公式サイト

〒543-0063
大阪市天王寺区茶臼山町1-108 大阪市天王寺動植物公園事務所
電話番号 06-6771-8401
飼育動物 約200種900点

アクセス

地下鉄「動物園前」①番出口より約5分。その他詳しくはこちらを御覧ください。

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両生類といえば、まずはカエルが思い浮かぶかと思います。アクア・トトぎふでも、たとえば、山間部に住むモリアオガエルが飼育展示されています。吸盤の発達した足は、野生での樹上生活、そして水槽の内壁にも、この通り。

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カエルは、尾を持たない両生類「無尾類」ですが、両生類には尾の発達したものも多数存在します。さきほど、モリアオガエルと水槽内で同居していたアカハライモリも、そんな「有尾類」のひとつです(※)。こちらの写真は、もうひとつ別の水槽で撮影したものですが、水草を後ろ足で挟む独特の姿を見せているのは、メスの個体です。アカハライモリは、こうやって水草に卵を産みつけるのです。

 

※現生の両生類には、他に「無足(アシナシイモリ)類」がいます。

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アクア・トトぎふの水槽内では、オスがメスに求愛する様子も観察されています。

アクア・トトぎふほかの観察の中で確認されている段取りとしては、まず、オスがメスの肩のあたりに後ろ足を載せて、尾を振ります。メスが受け入れの反応を示すと、オスはメスを先導するように移動しながら、精包(精子の詰まったカプセルのようなもの)を排出します。後からついてきたメスは精包を取り込み、メスの体内で受精が行なわれた後、さきほどのような産卵に至ります。

これらの行動のディテールは地域によって異なることが知られ、外観の地域差などとともに、日本産のアカハライモリのさらなる分類・系統づけに関する議論が重ねられています。アクア・トトぎふの二つの水槽での岐阜・愛知県産の個体の観察と、積極的な対外報告も、そのような議論に貢献する貴重なデータとなっていくでしょう。

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世界最大級の両生類であるオオサンショウウオも、清流近くの生きもののひとつとして展示されています。

オオサンショウウオは日本の固有種であり、その分布も中部・西南日本の一部に限られています。また、河川の改修工事(コンクリートの護岸)などによる生息環境の破壊・喪失もあり、国の特別天然記念物に指定されているとともに、その保全にも多くの取り組みがなされています。

しかし、「日本のサンショウウオ」と言うとき、そこにはオオサンショウウオのほかにも、多くの小型サンショウウオが含まれます。それらのほとんども日本固有種で、個々の種の分布範囲はかなり限られています。

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各地の動物園・水族館でも、地元産の小型サンショウウオの飼育展示が試みられています。

札幌市円山動物園では、2011年春に新設された「は虫類・両生類館」の一角で、エゾサンショウウオの小柄ながらも独特のつややかな姿が観察できます。

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こちらの2点は、いしかわ動物園(石川県)。石川県の水辺の環境を上流から河口にわたって再現した「郷土の水辺」の展示の一環として、ホクリクサンショウウオ・アベサンショウウオが展示されています。アベサンショウウオは、園の周辺の里山にも生息しますが、繁殖等に適した環境は限られます。いしかわ動物園は、ホクリクサンショウウオ(2001年)・アベサンショウウオ(2011年)の、国内の動物園・水族館初の飼育下繁殖に成功し、日本動物園水族館協会(日動水)より繁殖賞を受賞しました。

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地元・岐阜の淡水生物を重視するアクア・トトぎふでも、多くの小型サンショウウオの飼育や展示が試みられています。これはクロサンショウウオ。全長20cm弱まで成長することもある比較的大型の種で、山麓部から2000m級の高山まで生息しています。

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こちらは、ヒダサンショウウオとコガタブチサンショウウオ。同所的に生息していることもあるので、同じ水槽で展示されています。日本にはオオサンショウウオ科・サンショウウオ科を合わせたサンショウウオ類が29種類生息するとされますが、岐阜県では、そのうち7種が確認されています。アクア・トトぎふでは、オオサンショウウオと、後出のカスミサンショウウオを含め4種の小型サンショウウオを常設展示しています。

しかし、これらが当館のサンショウウオ飼育のすべてではありません。さらに大きな飼育の営みの広がりがあり、わたしたちの目に触れる展示を支える基盤となっています。動物園・水族館は「種明かし」されてこそ、さらに楽しめ、深く学べる場であると思います。ここでも、アクア・トトぎふの御厚意をうけて、少しばかり、バックヤード見学をさせていただきましょう。

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いきなりながら、暗幕で包まれた装置。開ければ、中には、こんなものが。小型サンショウウオを入れた飼育ケースです。

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さきほどと同一仕様の、別のケースを開けていただきました。コガタブチサンショウウオです。手前の木切れの下に、奥に写り込んだ一群が潜んでいました。コガタブチサンショウウオの成体(おとな)は、森の落ち葉の下や腐葉土の中で暮らしていますが、繁殖期になると、地下を流れる水(伏流水)に入り込んでいきます。オスとメスは伏流水の中で出逢います。つまり、かれらにとっては、暗い水の中こそが繁殖の場なのです。

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さきほどの暗幕の中には、さらに暗幕の掛けられる場所があり、そこに設けられた小水槽は、サンショウウオのいる飼育ケースとパイプでつながれています。このパイプには適量の水流がつくられています。この小水槽が繁殖の場であり、装置全体は、暗がりの中で伏流水を遡るという環境条件の再現となっています。コガタブチサンショウウオでは、取材時(2015/2/12)、パイプの連結は外されていましたが、さきほどの写真の、密閉したままの飼育ケースにはハコネサンショウウオが飼育されており、こちらではパイプの連結を見学することが出来ました。アクア・トトぎふでは、既に、このシステムでのコガタブチサンショウウオの繁殖に成功しています(※)。そして、さらに深くまで伏流水の中に入り込んで繁殖するというハコネサンショウウオについても、同様の手法を試しているところなのです。

 

※2012年、繁殖賞受賞。2014年には、同じ日動水から「コガタブチサンショウウオにおける飼育繁殖の試み」に対する技術研究表彰も受けています。

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これは館内展示として流されているビデオのひとこまです。暗い繁殖の場で、コガタブチサンショウウオのオスがメスの産んだ卵のう(卵の詰まった袋状の構造)に抱きついています。地下で行なわれる野生の繁殖行動の詳細を観察することは、きわめて困難ですが、飼育下で環境条件を再現することで、このような貴重な行動記録が得られるのです。

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こちらは昨年(2013年)5月に産みつけられた卵から孵った、コガタブチサンショウウオたちです。

アクア・トトぎふのバックヤードの、コガタブチサンショウウオの繁殖装置を、展示を観賞するようなまなざしで見るなら、予備知識なしでは「生息地の再現」と理解することは難しいでしょう。しかし、解説を受けたり、いささかの学びをするなら、もっぱら人工物の組み合わせでつくられた飼育装置が、見事に、サンショウウオにとって必要な生息環境の条件をピックアップし、組み込んでいることが分かるでしょう。

一般市民としての来園者を意識するなら、外見の再現を重んじた「生息地のミニチュア」の展示効果・伝える力は無視できません。そういう展示に触れることで、人はあたかも実際の生息地を訪れたように想いを抱くこともあるのです。しかし同時に、見た目とは別に、異国や、わたしたちの日常空間とは隔てられた場に生きる動物たちにとって必要な飼育条件を問い詰め、ミニマムな構造・機能の必要をクリアすることは、「生きた(野生)動物を飼育展示する」動物園・水族館において、不可欠の飼育の営みと言えるでしょう。

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常に低温に保たれたインキュベーター。この中には、ハクバサンショウウオの飼育ケースが収められています。岐阜県でも、飛騨市・高山市など県北部で生息が確認されていますが、アクア・トトぎふの外気温(特に夏場)では適切な飼育は難しいと考えられ、御覧のような対処が行なわれています(※)。どんな環境条件を整えることで、かれらの生育・生存・繁殖等を保証できるか。ここにも「ミニマム」を把握する探究があります。

 

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こちらは、2014/6生まれの、ハクバサンショウウオの幼体です。スタッフの想いと手に支えられて、ゆっくりと育っていきます。

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衣装ケースの中はコオロギ、棚の上の瓶はショウジョウバエです。サンショウウオばかりでなく、カエル類などの餌にもなります。

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前篇で御紹介したカワネズミ(No.4)。この種としては高齢と思われながらも、マイペースな健やかさが印象的ですが、他に4頭のカワネズミがバックヤードで飼育されています。ペアリング(繁殖)も試みられています。かれらについても、飼育下ならではの貴重なデータが積み上げられていくことでしょう。

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再び、小型サンショウウオ。こちらは屋外の施設です。ハクバサンショウウオなどとは対照的に、ここの外気温や四季の変化に適応できる種については、まずは自然条件そのものの助けを得ながらの飼育が行なわれます。そこから、さらに環境条件のピックアップへと、飼育のステップは進んでいくのです。

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クロサンショウウオの卵のうは、アケビのようなかたちをしています(※)。

 

※当館は、クロサンショウウオについても2009年に繁殖賞を受賞しています。

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ここまでの飼育種は、どれも岐阜県内に生息するものでしたが、こちらはツシマサンショウウオ。そして、いしかわ動物園の事例を御紹介したアベサンショウウオも飼育されています。これらと、岐阜県在来種との比較対照からも、貴重な知見が得られ、アクア・トトぎふのみならず、他園館や研究機関等との交流も含めて、それぞれの種の保全、ひいては日本全体でのサンショウウオをはじめとする生物多様性の認識も深まっていくと思われます。

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最後は、こちらです。看板にある通り、カスミサンショウウオの屋外飼育が行なわれています。かれらは、コガタブチサンショウウオ等とはちがって浅い池や水たまりなどで繁殖するので(止水性)、このような環境が生息・繁殖に適しています。

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よしずが掛けられた水中には卵のうも確認できます。

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カスミサンショウウオは岐阜市内にも生息しています。しかし、確認されているのは、わずかに一地点のみ。産卵場所に至っては、付近の排水溝の中です。明らかに、人間活動の圧迫で、かれらの生存はぎりぎりの状況にあると言えるでしょう。現在、カスミサンショウウオは、岐阜市の条例で貴重野生動植物種に指定されています。アクア・トトぎふは、岐阜高校自然科学部生物班や岐阜市役所などともに、貴重な卵のうの一部を採集し、こうして管理飼育を続けています(※)。このような営みには、いわゆる「生息域外保全」としての種の保存のみならず、簡単ながらこれまでも御紹介してきたような、飼育下ならではの知見の蓄積が期待されます。それは、野生の環境の的確な保全にも、必ずや反映されていくことでしょう。

飼育員の掌の上の、小さなサンショウウオには、日本の自然の豊かさや、ほかならぬわたしたちも含めての、この国の歴史が秘められています。現状は、さまざまな危うさも孕んでいますが、水族館の水槽や、バックヤードの飼育池での日々から、大きな力が湧き出ていく、そんな望みを感じるのです。

 

次回は、3/11(水)掲載予定です。

 

この活動には、岐阜大学も参画しています。

前篇で御紹介した参考資料『ぎふの淡水生物をまもる 増補改訂版』には、岐阜県山県市の高富中学校生物部によるヒダサンショウウオの調査など、他にもいくつもの貴重な活動のレポートが収録されています。

 

参考資料(前篇以外)

田上正隆・堀江俊介・堀江真子(2012)「コガタブチサンショウウオにおける飼育下繁殖の試み」『動物園水族館雑誌』53(3):70-75

TAGAMI, M., HORIE,C., KAWAI,T., SAKABE,A. and SHIMADA,T. (2015) The Mating Behavior of Cynops pyrrhogaster  from Gifu and Aichi Prefectures,Central Japan,in Captivity. Current Herpetology 34(1):12-18.

 

世界淡水魚園水族館アクア・トトぎふ

河川環境を学び、生きものたちと出逢いふれあう水族館

公式サイト

〒501-6021 岐阜県各務原市川島笠田町1453

Tel:0586-89-8200

飼育動植物 約260種28500点

開館時間

平日 9:30~17:00(最終入館は16:00)

土日祝日 9:30~18:00(最終入館は17:00)

休館日
年中無休

臨時休館等の最新情報について詳しくは、こちらを御覧ください。

アクセス

東海北陸自動車道・川島パーキングエリア(及びハイウエイオアシス)から高速道路を降りずに入館可能。

その他、こちらを御覧ください。

 

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家族おそろいで何を覗いていらっしゃるのでしょう?ヒントは窓のイラスト。

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世界最大級のリクガメ・アルダブラゾウガメです。メスのチョコは、三頭いるゾウガメの中で一番小さく、甲羅の長さは約50cmです。他の個体と見比べてみてください。

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こちらは、おなじみのカピバラ。かれらも齧歯類としては最大種です。

アクア・トトぎふの、いわばウェルカム展示2点。かれらとは、餌やり・ふれあい体験もできます(※)。

 

※その他、イベント・体験学習のスケジュールは、こちらをごらんください(有料のものや事前予約制のものもあります)。

 

さて、それではいよいよ、本格的に館内へと入っていきましょう。

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来館者は、まず、エレベーターで4階に導かれます。ここから階を下っていくのですが、展示の構成自体も、川の上流から下流・河口へと向かうようになっています。モデルとなっているのは地元・長良川。日本三大清流に数えられ、木曽三川(長良川・木曽川・揖斐川)のひとつです。写真はスタート地点。実際に澄んだ水に触れることが出来ます。

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展示されているのは動物だけではありません。豊富な植栽が、奥山に佇む想いを深めてくれます。写真中央下に写り込んでいるように、植栽も含めた解説プレートも備えられています。

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岩の狭間でマイペースな時間を過ごすのは、ナガレヒキガエル。中部地方・近畿地方の山間部の渓流に住んでいます。アクア・トトぎふでは、2009年に飼育下繁殖に成功しました(※)。ゼリー層に包まれて紐状に連なった卵(卵紐)が孵化し、無数のオタマジャクシ(幼生)が変態・上陸するまでの様子は、当時、展示として一般公開されたとのことです。

 

※国内の動物園・水族館初の飼育下繁殖として、日本動物園水族館協会より繁殖賞を受賞しました。

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アズマヒキガエルはナガレヒキガエルと同所的に暮らしていることもあります(当館でも同じ展示場を共有しています)。アクア・トトぎふでは、こちらも繁殖させています。

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ほとばしる滝。その滝壺に泳ぐのはアマゴです。イワナよりも、やや下流ながらも山の川魚として知られるかれらですが……

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さらなる長良川の魅力を求めて、緩やかなスロープを下っていきます。

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この展示。実は、さきほどのアマゴの展示の水中深くとなっています。そして、展示に二つの顔があるだけではなく、アマゴそのものが、もうひとつの名前と姿を持っています。それは「サツキマス」です。アマゴは、その一生を川で過ごしますが(河川残留型)、一方で川の上流で孵化した後、川を下りながら成長していく個体もいます(回遊型)。この回遊型に与えられた名前がサツキマスです。かれらはやがて海に至り、そこで川に残ったアマゴの二倍ほどにまで大きくなると、再び、川を遡って産卵します。時まさにサツキの花が咲くころです。アマゴ(サツキマス)はサケの仲間で、このような回遊はサケの仲間では広く見られる習性です。川と海を結ぶかれらは、アクア・トトぎふを代表するにふさわしい魚のひとつと言えるでしょう。

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岐阜県の渓流では、こんな動物も暮らしています。食虫哺乳類のカワネズミです。ネズミと名づけられていますが、むしろモグラなどと近縁です(※)。No.4と呼ばれる展示個体はオスで、当館で飼育されるようになった時に6ヶ月齢程度と推定されました。それから、およそ2年4ヶ月が経ちました。カワネズミの平均寿命は3年とも言われますが、No.4はまだ元気な様子です(※※)。

 

こちらで動画を御覧いただけます。巧みなダイブで水中の魚を捕らえるさまも記録されています。
※※担当飼育員によるブログ記事も御覧ください。また、本文末尾に参考資料として挙げた『ぎふの淡水生物をまもる 増補改訂版』にも、飼育担当者による報告があります。

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コツメカワウソは、東南アジアの川で活動する小型のカワウソです。かつて、日本各地の人里近い川(中流~下流)にはニホンカワウソが生息していました。1979年の高知県での事例以降、目撃報告はなく、2012年に環境省によって絶滅種の指定がなされました。かれらの減少・絶滅の要因には、毛皮のための乱獲や生息環境そのものの変化などが考えられますが、いずれにしろ人間活動の影響を被ったのは確かです。

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毎日の「フィーディングウォッチ&ポイントガイド」の中でコツメカワウソが見せてくれる「水に適応したハンターとしてのイタチ類」の姿に、日本の河川環境と一体となって生きたニホンカワウソを思ってみるべきでしょう。それは、さきほど紹介したカワネズミをはじめ、いまもわたしたちと生活を関わらせている動物たちの存在に目を向け、未来・将来へのわたしたちの責任を問い直すことにもつながると思われます。

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ここにも、川のさまがわりの中で脅かされている生きものがいます。タナゴの仲間のイタセンパラです(※)。岐阜県下では一度は絶滅視されていましたが、2005年に木曽川でアクア・トトぎふのスタッフによって再発見され、当館をはじめ、野生・飼育下での保全が進められています。タナゴの仲間は二枚貝に産卵する習性があります。イタセンパラは、川の中流~下流の入り江や水たまりに住み、そこに住む貝と関わりながら繁殖してきました。岐阜では、そんな場所を「ワンド」と呼びます。河川工事などを含む、人の生活の変化がワンドをめぐる生きものたちのつながりを切り離してきた経緯があります。濃尾平野の自然のシンボルフィッシュともいうべきイタセンパラの泳ぐ水に、わたしたちの現在が映し出されています。

 

※国の天然記念物・国内希少野生動植物種に指定されています。

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豊かな川の恵みで潤う田んぼ。その土手には、ぷりぷりとしたヒガシニホントカゲや、ほっそりとしたプロポーションのニホンカナヘビが暮らしています。ひとつの水槽の中で展示されるかれらをよく見比べてみましょう。

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コイ・ナマズ・ニホンウナギ……みんなで観察。

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豊かな水は、和紙づくりの伝統も支えてきました。引き出しのあちこちに収められた和紙製品。顔パックだってあるのです。

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トビハゼは河口付近の干潟に住みます。空気中では、主に皮膚呼吸。胸鰭の付け根には筋肉が発達しています。また、腹鰭は、なかば吸盤状になっています。

 

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長良川を下り終えても、まだやっと3階フロアを歩き終わっただけです。今度は、日本国内の他地域、そして世界の河川へと旅が続きます。北海道・釧路湿原近辺。体長1.5mに及ぶ日本最大の淡水魚イトウはサケ科、すなわち日本における北方系の魚類の代表のひとつです。

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一方で、岡山県東部を流れる吉井川からは、ドジョウ科のアユモドキ。広くはコイの仲間ということになります。日本の淡水魚類は、かつて大陸と地続きになった時に移入してきました。北方系の魚類がアジア北部から、いまの東北日本を中心に広がっていったのに対し、コイ類などは、中国大陸などの東アジアから西南日本に分布を広げていったのです。

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シニボティア・ロブスタは中国に住むアユモドキの仲間です。日本ではアユモドキは1種ですが、中国から東南アジアにかけての約40種の同類たちは、先ほども記した「日本列島の地史」の生きた証となっています。

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チベット高原からインドシナ半島を流れ、南シナ海に注ぐメコン川。その河口付近にある「日本人博士の探検小屋」という設定の展示は、ここまでに見てきた、日本とアジアの淡水生物の比較というコンセプトと結びついています。

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そんなメコン川の展示を代表するのが、メコンオオナマズ。その生態にはまだまだ謎が多く、今後の探究が期待されているとのことです。

顎の下に目を凝らすと……

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「鯰の髭」発見です。ほんの1~2cmですが。

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こちら、ナマズはナマズでもサカサナマズ。アジアの河川のエリアを過ぎて、アフリカ・コンゴ川の展示で出逢うことが出来ます。泳ぐときも逆さまのまま。この不思議な習性は、水面付近の小動物を捕食するためとも考えられています。しかし、水底では腹を下にするとのことで、水槽の側壁にも腹をつけるようにしているのが観察できました。

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デンキナマズは、表皮の細胞で450Vにもなる電気を起こして、小魚を捕らえます。普段から微弱電流で周囲の様子を探知してもいます(視力は弱く、明暗が分かる程度とされます)。自分の卵や稚魚を口の中で育てる習性も知られています(※)。

 

※以下で御紹介する、タンガニーカ湖のシクリッド類の習性についても、お読みください。

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タンガニーカ湖はコンゴ川の水系を遡ったところにある、世界指折りの巨大湖です。そこに暮らす魚類の大部分は、シクリッドと呼ばれる仲間です。

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シクリッド類では、親が仔稚魚を長期(時に数ヶ月)にわたって保護することが知られています。黒い横帯のキフォティラピア・フロントーサの場合、メスが直径8mmほどもある卵から生まれた稚魚を、時には数十尾も口内で保育します(※)。他にも、貝殻などに産卵し、そこを隠れ家とする稚魚を、親が見守り続けるといった種もいます。

 

※額の出っ張った、この個体は成熟したオスです。

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さて、そんなアフリカから大西洋を隔てた南アメリカのアマゾン川流域。そこは世界一ともいえる淡水魚の宝庫です。タイガーショベルノーズキャットは、体長1m前後に及ぶナマズの仲間です。

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デンキウナギは、アフリカのデンキナマズを遥かに上回る、800V近くの発電の記録を誇ります。ウシやウマなどの大型動物も気絶させると言われ、生物のつくる電圧としては最高記録となっています。

 

昨年(2014年)、開館10周年を迎えたアクア・トトぎふは、今年4/12まで、記念特別企画「神秘の大河・グレイトアマゾン」を開催しています。その大詰めは企画展「赤い清流・第二弾!アマゾンのシンボル カラシン展」です(※)。

 

こちらも御覧ください。

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身近なカラシン類には、熱帯魚のネオンテトラなども含まれますが、やはり、インパクトがあるのはピラニアでしょう。ピラニアとは総称なのですが、このピラニア・ナッテリー(Pygocentrus nattereri)は代表種のひとつです。今回の企画展のために現地を訪ねた飼育スタッフ自身による、楽しいエッセイも見どころです。ピラニアは、実は臆病者……

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しかし、やはり、この歯並びは……

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キロダスは、立ち泳ぎをするカラシンの仲間です。この習性は、水底の餌をついばむことから来ています。

まさに色とりどりのカラシン類は、実は既に触れたシクリッド類とともに、太平洋を挟んでアフリカ・南アメリカ双方に分布しています(※)。これは、長い地球の歴史の中で大陸が移動し、結合・分裂してきたことの証となっています。

 

※南アメリカのシクリッド類には、たとえば、エンゼルフィッシュがいます。

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最後に、体長2cmに満たない、このカエルを御紹介します。「かわいい」という感想は否めないのですが、その名もバンゾリーニヤドクガエルです。中南米に約180種いるヤドクガエル類には猛毒のものもおり、その中では本種の毒はあまり強くないとのことです。また、かれらの毒は餌となるダニやアリからつくられるので飼育下では無毒化するとも言われます。しかし、このポップともいえる外観はかれらを襲う捕食者に警戒を発する機能を担っていると考えられます。この小さな生きものにも、捕食・被食をはじめとするいのちのつながりあいがあり、進化の歴史が秘められているのです。

 

岐阜と世界の河川環境を体感できるアクア・トトぎふ。急ぎ足ながらも、そこでの学びの旅を楽しんできました。後篇では、あらためて、当館に息づくちいさないのちたちの大きな力を見つめてみたいと思います。

 

参考資料

楠田哲士・編(2014)『ぎふの淡水生物をまもる 増補改訂版』(こちらからのリンクでPDFが閲覧できます)

堀由紀子ほか執筆・編集(2013)『世界淡水魚園水族館”アクア・トトぎふ”ガイドブック 改訂版』江ノ島マリンコーポレーション

堀江真子・田上正隆・堀江俊介・池谷幸樹(2011)「飼育下におけるナガレヒキガエルとアズマヒキガエルの繁殖」『両生類誌』22:1-7

 

世界淡水魚園水族館アクア・トトぎふ

河川環境を学び、生きものたちと出逢いふれあう水族館

公式サイト

〒501-6021 岐阜県各務原市川島笠田町1453

Tel:0586-89-8200

飼育動植物 約260種28500点

開館時間

平日 9:30~17:00(最終入館は16:00)

土日祝日 9:30~18:00(最終入館は17:00)

休館日
年中無休

臨時休館等の最新情報について詳しくは、こちらを御覧ください。

アクセス

東海北陸自動車道・川島パーキングエリア(及びハイウエイオアシス)から高速道路を降りずに入館可能。

その他、こちらを御覧ください。