Archive for the ‘中国の動物園’ Category

※本稿は2016/7/10~11の取材を基にしています。

※※ときわ動物園での定期・不定期のイベントについては、こちらを御覧ください(有料のものもあります)。

宮下実園長による動物園ガイドや動物講座も行なわれています。

また、各種園内ガイドについては、こちらを御覧ください。

 

前回に引き続き、ときわ動物園の「生息環境展示」を歩いていきましょう。

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木立ちと草原、そんな取り合わせの中で暮らすのは……

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アフリカ原産のパタスモンキーです。アフリカ大陸の赤道より北、サハラ砂漠と熱帯雨林の間の乾燥地帯が生息地です。かれらは走ることを得意とし、最高時速50km程度を記録するとともに、アフリカの草原をどこまでも走り続ける持久力にも恵まれています。ときわ動物園の特色のひとつである展示動物の「近さ」を感じながら、軽やかな足並みを観察してみましょう。

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パタスモンキーにも今年(2016年)6/24に赤ちゃんが生まれました。実際に訪れた際にはこの写真(2016/7/10撮影)からの成長を実感できることでしょう。

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パタスモンキーの展示を回り込むと、かれらの存在を背景に一転、乾いた土地の眺めが広がります。その中で暮らすのはミーアキャットです。

 

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ミーアキャットはパタスモンキーと分布の重なりを持ち、御覧の通り、せっせと巣穴を掘り、張りめぐらして暮らします。ひとつがいの両親、特に母親を中心とした群れをつくりますが、順番に見張りに立つのは、巣穴の外での活動中に外敵を警戒するためです(※)。最大の脅威は空からの猛禽類の来襲なので、しばしば空を見上げる姿に出逢えるでしょう。

かれらとわたしたちの間はガラスで仕切られています。ここでの写真はカメラをガラスに近づけて、照り返しなどが写り込むのを防いでいますが、実際の展示でもガラスは厚さ2mmのアルミの枠で留められており、ミーアキャットに見入るわたしたちは障壁の存在をほとんど意識することはないでしょう。これは世界各地のミーアキャット展示を参照しての、初の試みとのことです(※※)。

 

※この取材の後に、ミーアキャットは繁殖に成功したとのことです(2016/7/29)。赤ちゃんたちの展示場デビューが楽しみです。詳しくはこちらを御覧ください。

 

 

※※大阪芸術大学・若生謙二氏私信。若生さんは「動物園デザイナー」として当園のリニューアルの設計・設計指導を務めました。詳しくは前回の記事を御覧ください。

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少し先には森の世界。ブラッザグエノンはアフリカ中部の湿潤な森の川辺で暮らしています。

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木の間隠れに潜めば、見つけることすら難しい時もあります。

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そんなかれらを間近に観察するのにも、前回御紹介した「緑餌(りょくじ)」のひとときは最適でしょう(※)。

 

※野草も含む新鮮な生草。当園では、牧草を栽培し、野草は周囲のときわ公園内から採集しています。

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以上の「アフリカの丘陵」と呼ばれる一帯を過ぎれば、そこはマダガスカルです。飼育員の給餌を受け、いかにも一人前を気取って食事をしていますが、明らかに幼い一個体。2016/4/23生まれのワオキツネザル・ナツメ(オス)です。

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この頃(2016/7/11撮影)はまだ母親のライチに背負われていることも多かったナツメですが、今頃はどのくらい育っているでしょうか。

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ワオキツネザルの展示はマダガスカル島南東部のベレンティ自然保護区をモデルとしています。かれらは比較的乾いた土地に住み、地上での活動も盛んにおこなうことで知られています。

キツネザル類は童謡で有名なアイアイとともにマダガスカルだけに暮らす原猿類です(※)。マダガスカル島はアフリカ大陸の南東に浮かぶ世界第4位の大きな島ですが、約1億6000万年前には現在のインドなどとひとかたまりにアフリカ大陸と分離しました(※※)。その後にインドは現在の位置に移動し、アジア大陸との衝突でヒマラヤの造山運動を引き起こしますが、そんなわけでマダガスカルはアフリカとは独自の時間を過ごし、そこに暮らす原猿類も他の地域とはまったく異なるユニークな姿を見せています(※※※)。

ワオキツネザルについては、毎月第1・3・5日曜日に展示エリアにウォークインできるイベント「イントゥ・ザ・ワオ(into the Wao)」が行なわれています(※※※※)。スタッフのガイドを聴きながら、マダガスカルという「タイムカプセル」の魅力を堪能できることでしょう。

 

※原始的な特徴を遺す霊長類。マダガスカル産の霊長類のほか、アフリカ大陸のガラゴ類・アジアのロリス類を含みます。

 

※※地殻の活動により長い時間をかけて大陸が移動するというのはお聞きになったことがあるかと思います。マダガスカル島の歴史もその一部です。ここで挙げられている名は「アフリカ大陸」を含め、現在のそれで、語られている地質的時代には位置・かたちとも一致しません。

 

※※※マダガスカル島がインド等と分離したのは約8500万年前で、いまだ恐竜時代であり、キツネザル類を含むマダガスカルの哺乳類の祖先たちはその後に移入したと考えられます。漂流物等に乗ってアフリカ大陸からやってきたのではないかなどと考えられていますが、解明の途上です(小山直樹[2009]『マダガスカル島』東海大学出版会)。

 

※※※※詳しくは冒頭で御紹介したイベントのリンクを御覧ください。

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ワオキツネザルと隣接する、もうひとつのマダガスカル展示はこちらです。ぐっと緑豊かなありさまは、マダガスカル島東部のアンダシベの国立公園をモデルにしています。

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ここで出逢えるのは熱帯降雨林の住人であるエリマキキツネザルです。果実を好む大型のキツネザルです。同じキツネザル類でもワオキツネザルとは対照的なところも多く、当園の展示はこうしたニッチ(※)の対比も意識しています。

 

※ニッチとは、それぞれの動物種が占める生態的な場や役割を意味します。近縁種は互いに異なるニッチに適応することで別種として分化してきたと考えられます(固有のニッチを持つことこそが独立した種としての要件のひとつであるとも言えます)。エリマキキツネザルとワオキツネザル、ひいてはマダガスカル内外での原猿類の進化史のちがいといったものは、すべてニッチという視点から捉えていくことが出来ます。

 

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ときわ動物園では現在、メス1頭・オス2頭のエリマキキツネザルが展示されています。リニューアル前はオス2頭だけでしたが、2015/12/19に新しくメスのアマント(2012/6/2生)がやってきました。エリマキキツネザルはメス優位の群れをつくりますが(※)、繁殖期にはペアが形成されます。そんなこともあってか、アマントとオスたちの関係にも個体差が見られます。アマントと関係良好なのはリッキー(2010/5/1生)、一方、もう一頭のオス・マッキー(2006/5/4)はかれらといささか距離を取る傾向でした。

 

※かれらは複数のオスとメスが寄り集まった群れで繁殖します。

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雨宿りとなれば、みんな一緒になりもするのですが(※)。

 

※前出のミーアキャットの繁殖に関するリンク記事にも紹介されていたように、エリマキキツネザルも取材後の2016/7/18に待望の赤ちゃんが誕生しました。母親はアマント、父親はリッキーです。

 

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そして、わたしたちは「山口宇部の自然ゾーン」に辿り着きます。まずはオシドリとクロヅルです。どちらも日本人にとっては古くから親しまれてきた鳥ですが、それだけに近代化の中でいつの間にか疎遠になってきたとも言えるでしょう。そんなかれらとあらためて間近で向かいあうことが出来るのが、この展示です。

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クロヅルのくちばしに注目です。どうやらカブトムシを捕食したようです。野生動物としての「すごさ」が垣間見えた一瞬でした。

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動物園のニホンザル展示といえば、岩山風のサル山が伝統的でした。その中でもさまざまな展開はなされてきましたが、野生のニホンザルによりふさわしい景観が森であるのは言うまでもありません。ときわ動物園のニホンザル展示では植栽の樹冠部分をネットの外に突き出させてサルたちによるダメージを防ぐなどの工夫を凝らし、木々の葉繁るニホンザルの森を再現しようと試みています。変化に乏しいコンクリートや擬岩の中での活動・「壺」の底にいるかれらを見下ろすような観覧のまなざしなどと比べて、より自然で魅力あるニホンザルの暮らしを感じ取らせてくれます。

 

※当園のニホンザル展示は、設計指導者である若生謙二さんが熊本市動植物園で手がけた展示の発展形としての性格も持っています。熊本市動植物園のニホンザル展示については、若生さん自身の報告を御覧ください(PDFファイルが開きます)。

 

なお、熊本市動植物園は2016/4/14以来の震災の影響で、現在長期休園中です。現地で日々苦心なさっている皆様に敬意を表し、復興の進展をお祈りいたします。

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メスのアイに抱かれているのは2016/5/23生まれの赤ちゃんです。群れの仲間(オス)を傍らに、我が子をかばうようなアイのしぐさに注目してください。元々、アイはバックヤードの飼育スペースで出産しました。その時にはなかなかうまく赤ん坊が抱けず、このままでは飼育員が赤ん坊を取り上げる人工保育の道を選ぶ以外にないのかとも思われましたが、母子を群れの中に入れたところ、仲間たちが珍しがって赤ん坊をさわりに来るのに反応して、アイは大切に赤ちゃんを抱くようになりました。群れ生活のほどよい刺激が、アイに母ザル本来の感情や行動を呼び起こしたのでしょう。

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そんなドラマを経ながらの日々を紡ぐニホンザルたち。その姿を「通景」とする一角、木のうろの中に何かがいます。

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タヌキもまた、山口県宇部の地元産動物であり、日本人なら誰もが親しみを持つ動物でしょう。しかし、「タヌキを描いてください」と言われて、そらで顔がどんな模様だったか、尾はどんなだったかと思い描くのは難しいかもしれません。タヌキは東アジアを中心にロシアにかけてのごく限られた地域に固有の野生動物です。時にはそんなかれらをゆっくりと観察しながら、かれらとわたしたち日本人が同じ場で歴史を重ねてきたことを思い返してみてもよいのではないでしょうか。

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フクロウについても、わたしたちは「よく知っている」と思い込みながら、実際に向かい合うことは少ないかもしれません。フクロウの足は指(趾)を二本ずつ向き合わせることが出来ます。枝にとまる時などはこうしてしっかりと掴めるようになっています。

 

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二回に亘って歩いてきた、ときわ動物園も再び、前回にショートカットした「自然の遊び場」に辿り着きました。ここで飛んだり跳ねたり登ったり滑ったりする子どもたちは、他の動物たち同様、自分たちの身体能力や感覚を心のままに開放して楽しんでいるのでしょう。そうやって、人は動物と自分たちの共通性や動物たちの能力のすごさといったものを体感できるのではないかと思います。

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前回に御紹介したアジアの森林ゾーンの最後には、こんな解説プレートが設けられています。霊長類それぞれの「群れ」のありようとわたしたちヒトの基本単位かと思われる「家族」を互いに照らし合わせることを促す内容は、「近くて遠いサル(霊長類)たち」への認識を深めつつ、わたしたち自身を振り返るきっかけを与えてくれるように思います。

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再び、「山口宇部の自然ゾーン」です。展示の中で、わたしたちと変わらぬ母子の愛情深さを知らせてくれるニホンザルたちですが、人間社会の変化はかれらとの新たな軋轢を生み出しています。かれらの群れのありようにしても、実はわたしたちとは別の論理を持っています。

動物たち本来の生息地でのかれらとの一体感を伝えてくれる、ときわ動物園を歩くことで、わたしたちは、わたしたちとは異質で、なおかつ魅力に満ちたかれらの姿に目を開かれることでしょう。そのまなざしで、もう一度、人と動物の関係を吟味していけるなら、それこそが動物園ひいてはわたしたち人間の可能性と言えるのではないでしょうか。そんな想いを新たにするためにも、わたしはまた、ときわ動物園を訪れさせていただきたいと思います。

 

 

ときわ動物園

生きた動物を通して、楽しく学べる環境教育の拠点を目指す動物園。

公式サイト

〒755-0003 山口県宇部市則貞三丁目4-1

電話 0836(21)3541 (宇部市常盤動物園協会)

飼育動物 32種 約250点

開館時間 9:30~17:00 ※春休、夏休、冬休、ゴールデンウィーク期間中の土曜、日曜、祝日は 9:00~17:00

休園日 毎週火曜日(火曜日が休日または祝日のときはその翌日)  ※イベント時変更あり

アクセス

JR新山口駅より路線バス特急便30分。

同駅よりJR宇部線35分のJR常盤駅下車・徒歩15分。

その他詳しくはこちらを御覧ください。

 

※本稿は2016/7/10~11の取材を基にしています。

※※ときわ動物園での定期・不定期のイベントについては、こちらを御覧ください(有料のものもあります)。

 

宮下実園長による動物園ガイドや動物講座も行なわれています。

 

また、各種園内ガイドについては、こちらを御覧ください。

 

 

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テナガザルが空をとぶ!?

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枝を駆ける。

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シロテテナガザルは東南アジアの樹上で暮らしています。テナガザル類は小型ながら尾を持たず、わたしたちヒトと同じ類人猿です。その名の通りの長い腕を活かし、枝から枝へと巧みに飛び回ります(この行動をブラキエーションと呼びます)。また、優れたバランス感覚と小柄な体格から、枝の上を駆けるように移動するのも得意です。

各地の動物園でもロープ・擬木(人工的に作った樹木の模造物)・鉄塔など、さまざまな装置を工夫してテナガザルの特性を引き出そうとしていますが、ここ、ときわ動物園では動物園を取り囲む「ときわ公園」の豊富な植栽からテナガザルの活動に相応しい枝ぶり等のものを厳選し、それを移植した展示場で、御覧のような光景を創り出すことに成功しています。

結果として、わたしたち来園者は、まるで自分たちがテナガザルの棲む森に踏み入ったような感覚に浸り込むことになります。このような展示手法を「生息環境展示」といい(※)、ときわ動物園はこの生息環境展示の理念と技法を駆使し、従来からの霊長類コレクションの数々を基盤として、目覚ましいリニューアルを遂げました(※※)。

今回から二回に亘って、そんな「生息環境展示」の魅力を中心としながら、今年(2016年)3/19にグランド・オープンしたばかりのときわ動物園を、実際に巡り歩く感覚で御紹介します。今回は園路の前半、「アジアの森林ゾーン」と「中南米の水辺ゾーン」です。

 

※当園の「生息環境展示」については、ときわ動物園のリニューアルで設計・設計指導を務めた大阪芸術大学教授・若生謙二さんの解説を御覧ください(PDFファイルが開きます)。

 

※※当園の前身で山口県内初の動物園であった「宮大路動物園」から数えれば61年目の再スタートとなります。

 

 

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まずはあらためて園のゲートを潜ります。早速に大きくうねる道。行き先の見えない構成は、わたしたちの期待を高め、また実際以上に空間の広がりや深みを感じさせてくれます。ときわ動物園の敷地は約2haとむしろコンパクトといってもよい規模ですが、曲折を繰り返す園路の全長は1km近くに及び、訪れる人の多くは思いがけない「広々とした感覚」に驚かされているようです(※)。

 

年間パスポートを購入し、身近で気軽なウォーキングエリアとして活用している方もいらっしゃるようです。

 

 

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まず出逢うのはこの展示。インド神話の神の名にちなんで名づけられたハヌマンラングールです。本来の生息地周辺(インド北東部からバングラディシュ)では、このサル自体を「神の使い」と見なす信仰もあるとのことです。熱帯アジアの森に踏み入るのみならず、わたしたちは一気にその樹上を覗き見ることになります。この写真では木の葉を食べていますが、ときわ動物園ではこういった枝葉や「緑餌(りょくじ)」(※)を与えることを重視しています。せっかくの「生息環境展示」の外観を重んじて、たとえばニンジン・イモやペレット(固形飼料)などの摂取を無自覚に見せたくないということもありますが、同時に人間用に改良された作物等で動物たちが栄養過多にならないようにという配慮もあります。こういった「(野生)動物にはそれにふさわしい食生活」を、という実践は、ときわ動物園を含め、最近、各地の園館で積極的に取り組まれるようになっています。

展示効果とともに「飼育的配慮」を大切にし、結果として「本当に健やかでその動物らしい姿」を実現していくこと、それは動物園の追求するべき理想と言えるでしょう。ときわ動物園の「生息環境展示」も、そんな意識をもって観賞すれば、さらに深みのある姿を見せてくれるでしょう。

 

※野草も含む新鮮な生草。当園では、牧草を栽培し、野草は周囲のときわ公園内から採集しています。わたしたちから見ると意外なサルたちの人気品目はドクダミだということです。

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さて、ハヌマンラングールの樹上風景から歩みを進めれば、そこがシロテテナガザルの島です。まさに一衣帯水。テナガザルたちが水に入りたがらないことを利用して、人と動物が水面を隔ててすぐそこに向かいあうありようを実現しています。テナガザルはペアとその子どもというまとまりで暮らしますが、飼育下の安心もあってか、こんな楽しげな姿も見せてくれます。これは、かれらの「社会性」がどんなものかを教えてくれる展示とも言えるでしょう。

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草むらの虫でも探しているのでしょうか(テナガザルは動物園でもセミやトンボを捉えて食べたりすることがあります)。

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テナガザルが自分たちの縄張りを知らせるときに行なう「テリトリーソング」と呼ばれる鳴き声を発しているところです。しばしばペアの掛け合い(デュエット)で行なわれます。ときわ動物園のシロテテナガザル展示はひとつの池に二つの島が創られています。それぞれの島には別々の群れが暮らしているので、特に午前中は、それぞれの島から互いに自分たちの存在や縄張りを告げあう鳴き声が交わされているのに出逢えることもあります。

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これはシロテテナガザルたちの寝室で、かれらは夜にはこの中に収容されます。しかし、外観は展示の雰囲気を損ねず、気分を高めるようにインドネシアの農家を模したものとなっています。

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農家から吊り橋を渡るコース。吊り橋の右前方の繁みを見てください。シロテテナガザルの母子が来園者を観察していました。

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さて、シロテテナガザルの島池を抜けると、道はいつしか緩やかに下っており、立ち現れるのは先ほどのハヌマンラングールたちの森の、いわば林床です。ここではより近くで彼女たち(ソフィーとリンダの2頭の姉妹です)と向き合うことが出来、タイミングによってはこんな手渡しの給餌も見学できます。ソフィーの方が5歳年上ですが、食事などの場面では妹のリンダの方が押しが強く、積極的に前に出てきます。そんな性格のちがいを、彼女たちの日常を一番よく知る飼育担当者の話を聞きながら確かめるのも、動物園ならではの楽しみでしょう。

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こちらはリンダの娘で2015/7/7生まれのサトです。1歳上の姉タラともども、母親のリンダがうまく子育て出来なかったために人工哺育となりました(※)。しかし、飼育員の努力もあり、少しずつ母親のリンダや伯母のソフィーと同居する訓練を進めています。動物のいのちを守るための手立てを講じながらも、少しでもそれぞれの動物種本来の姿に近づけるように努める。それが動物園飼育の要です。

 

※父親個体のサミーは日本国内のハヌマンラングールの系譜をつなぐべく、日本モンキーセンター(愛知県犬山市)に「婿」に行っています(サミーは現在、国内で唯一のハヌマンラングールのオスです)。

 

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こちらはシシオザル。かれらの生息地にも生るジャックフルーツに手を差し入れ……実はこれはジャックフルーツのかたちを模したフィーダー(給餌器)です。中にはシシオザル向きに調合されたスムージーが入っています。動物園の暮らしは野生に比べれば空間的にも限られ、単調になりがちです。また、飼育員が用意した餌を食べるため、野生の生活のように食べものを求めてあちこち移動するといったこともありません。安楽なようにも思えますが、実のところ、そんな暮らしが原因となっての「退屈」が飼育動物に悪影響を与えていると考えられる例は数多くあります。フィーダーなどの飼育的工夫を導入することで、動物たちは「食物を探す」「工夫・苦心によって食物を得る」といったリズムのある食生活を取り戻すことが出来ます。写真のフィーダーなどはシシオザルの器用さや賢さも引き出していると言えるでしょう。ジャックフルーツを模すことで見た目に「生息環境としての景観」を損じることなく、動物たちのための配慮を組み込むことが出来ているのです。

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こちらはトクモンキー。インドの沖合のスリランカ(セイロン島)に分布し、頭の毛の独特の生えかたをトルコ帽が原型とも言われる「トク」という帽子を被った様子に見立てられています。当園の群れは小規模ながら子どもも生まれています(※)。

 

※前出のシシオザルも繁殖がありました。交代制ですが、時間帯によっては母子の展示も見られます。

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飼育員が投げる鶏肉を追って見事なダイビングと水中キャッチを見せるのは、東南アジア~南アジアに棲むコツメカワウソです。カワウソはイタチ科で、もっぱら水中の狩りに適応した肉食動物です。コツメカワウソはカワウソの中でも特に前足が器用で、この給餌でもそんなかれらの能力が引き出されて、展示効果につながっています。

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こちらは穴を空けた筒にペレット(固形飼料)を入れたフィーダーです。野生の食事法とは異なりますが、こうやって動物たちの特徴的な行動や能力を切り出してみせることも、動物園ならではの細やかな観察や理解を促してくれるでしょう。

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さきほどのカワウソへの鶏肉給餌の際に、飼育員の傍らにサルがいたのにお気づきでしょうか。こちらはボンネットモンキーです。インド南部に分布し、さきほどのトクモンキーと比較的近縁とされますが、かれらの名の「ボンネット」も、頭頂の毛の生えかたを帽子の種類に見立てたものです。

野生のボンネットモンキーの分布はコツメカワウソと重なりを持ちますが、コツメカワウソは水陸両方で活動しますし、ボンネットモンキーも水に親しむ傾向があるため、この複合展示ではあちこちでサルとカワウソの交錯を目撃することが出来ます。

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原則日替わりで展示されているボンネットモンキーの2つの群れは、どちらも赤ちゃんが生まれています。

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アジアの森から中南米の水辺へ。それは地球をまたぐ思いきりの移動ですが、地球の異なるエリアにある熱帯の森とそこで暮らすサルたちの姿を比べ合わせる散策でもあります。

まずは緑豊かな島と、ロープを手繰ってそこへ渡っていく一団。

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第2・4日曜日に行なわれる「リスザルアドベンチャーラフティング」です(※)。南アメリカ北部に分布するコモンリスザルの、普段は渡れない島池展示に行って餌やりをすることが出来ます。同じ餌を受け取るにしても、おなかの空き具合・リスザルの個体ごとのちがいなどで異なった反応が見られます。

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こんなアクロバティックな恰好が出来ることからも、野生のリスザルたちがどんな環境に適応して進化してきたかが感じ取れるでしょう。

 

※申込制先着順・定員あり、有料。詳しくは園内や園のサイトにて御確認ください。第1・3・5日曜日には、ワオキツネザルの展示場内を見学する「イントゥザワオ」が行なわれます。

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リスザルの島のほとり、アマゾン川流域の人々の水上家屋を模した展示施設です。ガラス面の怪しい手型……?

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コモンリスザルの屋内展示です。かれらもわたしたち同様、親指が他の指と向かいあう霊長類特有の手を持ちますが、指のつきかたのバランスや指のかたちなど、ヒトとはちがうところも見て取れます。それはヒトもリスザルもそれぞれの進化の道を歩んできた証なのです。

 

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リスザルの屋内展示の向かいはフサオマキザルです。かれらにも新鮮な枝葉。

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フサオマキザルは小柄ながら「南米のチンパンジー」と呼ばれることもある高い知能を持っています。この個体は、齧っている木を止まり木などにこつこつ叩きつけていますが、フサオマキザルは時に石などを使って堅い実を割って食べるといった「道具使用」をすることが知られています。当園でも同様の行動が観察されているとのことです(※)。

 

※訓練や仕向けられた行動ではないので、常時見られるわけではありません。

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フサオマキザルにも5/31に赤ちゃんが生まれています。昨年生まれのメス・イチハもいますので、賑やかな群れの暮らしが観察できるでしょう。

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こちらも南アメリカ大陸特有のミナミコアリクイ。木登りが得意で、樹上にあるシロアリの巣などを前足の頑丈な爪で壊しては、高栄養なシロアリやアリをねばねばの舌で舐め取って食べます。動物園では特別に調製した流動食を与えています。

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おなかいっぱい、ひと休み?

 

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さらにフタユビナマケモノ。木の葉を好んで食べます(※)。木の葉は消化に時間がかかるため、普段のかれらは安全な樹上でじっとしてエネルギーを節約していますが、食事となれば巧みな樹上移動を見せてくれます。この日のメニューはアカメガシワでした(2016/7/11撮影)。

 

※決まった種類の木の葉のみを主食とするミツユビナマケモノに比べると、フタユビナマケモノは果実など、さまざまな食物をも摂取し、その分、活動量も多いことが知られています。

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そしてまた別の島。こちらの樹上にいるのはジェフロイクモザルです。リスザルなどに比べると樹冠部を中心に活動します。御覧のように尾がしっかりと巻きついて体を支えるとともに肩の関節も柔軟で(※)、自由自在な動きを可能にしています。色が薄いのがメスのアカネ、黒いのがオスのハルです。

 

※わたしたちのような類人猿やクモザルなどを除くと、ほとんどの霊長類は限られた範囲しか肩を動かせません。

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同じ島の地上部にはカピバラがいます。前出のボンネットモンキーとコツメカワウソ同様、同一地域・同一環境の動物種の複合展示です。ここでも緑餌。成熟したオスのしるしである鼻づらの盛り上がり(モリージョ)を見せながら食事するのはオスのスダチ。ここでの緑餌はソルゴー(早刈りのトウモロコシ)です(※)。

 

※緑餌には季節の移ろいも反映されます。冬~春には園内のそこここで牧草であるイタリアンライグラスや燕麦を楽しむ動物たちの姿が見られるでしょう。

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一方、メスのエイコはこの日、食事よりも水浴がお好みの様子でした。ちょうどホテイアオイも美しく咲き、エイコにとっては「ダンゴ(餌)より花」というところでしょうか。ウォーターヒヤシンスとも呼ばれるホテイアオイは南アメリカ原産。そこで泳ぐカピバラはアマゾン川の野生の暮らしを彷彿とさせます。

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本来は樹上と地上で棲み分けているクモザルとカピバラですが、飼育下の安心感やクモザルの好奇心、それにカピバラの無頓着ぶりもあいまって、こんな眺めもしばしばです。

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ここでもサルが飛びます。カピバラのスミ(メス)はスダチの娘ですがまだ子どもで、この場所に馴染みつつある最中です。そのせいか、おとなのカピバラたちほど緑餌への取り付きも積極的ではないようです。

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時には、このプールでスミが泳ぐ姿も観察できます。

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ここで一気に園路を飛び上がり(※)、園の出口近くの「身近な動物」のコーナーを訪れてみましょう。こちらは家畜のコーナーで、人間が自分たちの生活に引き込み改良してきた動物たちに接しふれあいながら(「エサやり体験」もあります)、ここまでの野生動物たちのことも振り返るという主旨ですが、飼われているのは南アメリカの高地の家畜アルパカです。今回はアマゾンの水辺から高地へ、という意味も込めて御紹介します。まずは2歳になるメス・ジェーン。あまり人見知りせず、目新しい餌などにもすぐに馴染むとのことです。顔に着いた干し草もおしゃれですね。

 

※実際にショートカットの道筋も設けられています。

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かたや、わがまま・人見知り・内弁慶などとも言われる3歳のオス・タック。マイペースということでもあるのでしょうね。

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なにか、それぞれの個性を感じさせるジェーンとタックのツーショットも、ときわ動物園ならではのお楽しみでしょう(※)。

 

※タックの無我夢中ぶりを伝える(?)左後ろ足にも御注目ください。なお、アルパカたちは時にハミングと呼ばれる独特の声を出します。空腹のときなどによく鳴くので夕刻(主に15~16時以降)に聴けることが多いとのことです。

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「身近な動物」のコーナーの少し手前には、さまざまなアスレチックを配した「自然の遊び場」もあります。

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そして、ホットニュースです。こちらの写真、一見2種類の鳥に見えますが、実はモモイロペリカンとその幼鳥です。ときわ動物園では2羽のモモイロペリカンの人工育雛に取り組んできました。しかし、ただ育てるのではなく「出来る限り、その動物らしく」というのが動物園の本義です。ペリカンたちは群れで暮らす鳥ですから、人の手で育てられた雛もペリカンとして生きていけるよう、まずは一羽のおとなペリカンと同居させてきました。写真の白い個体が、その「教育係のおばさん(メス)」ヤナです。ヤナと幼鳥たちはバックヤードで過ごしていましたが、おかげさまで先日7/16にめでたく来園者の前にデビューすることが出来ました(※)。ひとまず、アルパカと隣接するエリアに展示されています。まだまだ人馴れの練習中なので、温かい目で優しく見守ってください。

 

※くわしくはこちらを御覧ください。

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一方、こちらは動物園エリアの外、ときわ公園の一角にあるペリカン島です。モモイロペリカンたちが群れて暮らし、個体によっては迫力のある飛翔も見せてくれます。

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夕刻、「ペリカンのぱくぱくタイム」(※)。飼育員からペリカンをめぐるあれこれや給餌の工夫などの話を聞きながら、投じられた魚を「狩る」ペリカンたちの姿を目の当たりにすることが出来ます。

 

※詳しくはこちらを御覧ください。

 

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ペリカン島には現在、全部で14羽のペリカンが暮らしています(※)。その中にはハイイロペリカンも混じっています。ハイイロペリカンは日本国内では、ときわ公園と埼玉県こども動物自然公園にしか飼育されていません。貴重な比較展示としてもお楽しみください。

 

※前出の「教育係」として出向中のヤナを除きます。やがてはヤナも復帰し、成長した幼鳥たちも群れに合流できることが目指されています。

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最後にもう一度、動物園へ。今回の取材中、週末に迫った夏休みの始まりを期して、特別企画展の準備が進められていました(2016/7/11撮影)。

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動物園からの出口に隣接する体験学習館モンスタ(※)では、この夏、特別企画展「珍しいアマゾンの生き物たち」が開催されています(7/16・土~8/31・水)。デンキウナギやヘラクレスオオカブトを含む興味深い動植物が観察できるほか、アマゾン川流域の環境や人々の暮らしも紹介されています。動物園という身近な存在から地球の裏側まで、すべてはつながっています。

 

※モンスタについては、こちらを御覧ください。

 

※※詳しくはこちらを御覧ください。

 

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モンスタの向かい側は「ZOOベニア館」です。ときわ動物園のオリジナルグッズなどをお買い求めになれます(※)。

 

※モンスタ・ZOOベニア館とも動物園外の、ときわ公園・無料エリア内にあります。

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動物園の出口ゲートからすぐ、お見送りのように配されているのは地元の方が作成し(※)、同じく地元ゆかりの企業が寄贈したチェーンソーアートです。このシロテテナガザルを見て、あらためてゆったりと散策してきた園内を思い返してみてください。

ときわ動物園を訪れる方たちの口から、よく聴かれることばは「すごい」「近い」「かわいい」だそうです。わたしたちの方から野生動物の世界に踏み入った感覚を抱かせてくれる、ときわ動物園の「生息環境展示」、そこには動物たち自身が健やかに暮らし、その特性を発揮できる工夫も込められていて、まずは動物たちの「すごさ」を実感できます。一方で、柵などが少ない展示構造(ネットなども目立たないようになっています)は動物たちとの「近さ」を実現してくれます。数々のイベントやガイドもその助けとなります。そして、赤ちゃんばかりでなく、近さが伝えてくれる動物たちの息づかいは愛しさ・「かわいさ」にもつながるのでしょう。ここでの「かわいい」は、単なる行きずりの感覚や一段上からのまなざしではなく、同じ地球の上でそれぞれにちがうかたちで進化し、いまを分け合っている生きものたちへの共感の目覚めではないかと思います。それは再び「すごい」という敬意へもループしていきます。

 

次回は園路の後半、アフリカ・マダガスカル、そして日本(地元・山口県宇部市)の展示をめぐりながら、さらに「すごい・近い・かわいい」を満喫したいと思います。

 

※山口市内にお住まいの世界的なチェーンソーアーティスト・林隆雄さん。

 

 

ときわ動物園

生きた動物を通して、楽しく学べる環境教育の拠点を目指す動物園。

公式サイト

〒755-0003 山口県宇部市則貞三丁目4-1

電話 0836(21)3541 (宇部市常盤動物園協会)

飼育動物 26種 約160点

開館時間 9:30~17:00 ※春休、夏休、冬休、ゴールデンウィーク期間中の土曜、日曜、祝日は 9:00~17:00

休園日 毎週火曜日(火曜日が休日または祝日のときはその翌日)  ※イベント時変更あり

アクセス

JR新山口駅より路線バス特急便30分。

同駅よりJR宇部線35分のJR常盤駅下車・徒歩15分。

その他詳しくはこちらを御覧ください。

 

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ペンギンは海中を「飛ぶように泳ぐ」ことに特化した鳥類として南半球に広く分布します。種ごとに生息環境や習性などが異なっています。

フンボルトペンギンは、南アメリカのペルー・チリの沿岸などに分布します。かれらは日本の気候にもよく馴染むので屋外プールで飼育されています。公開給餌である「ぱっくんタイム」(※)の際には、投げ与えられたアジを我先に食べます。満足した個体から再び気ままに泳ぐようになり、やがて「ひとときの宴」は落ち着いていきます。この時間を含め、全33羽に1日当たり18kgのアジを与えているとのことです(2016/3/3~4取材)。

 

※園内各所・各種動物への「ぱっくんタイム」ほか定例イベントの実施状況については、こちらを御覧ください。

 

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一方こちらは南極を取り囲むように分布するジェンツーペンギンです。かれらは特別に温度調整された屋内で飼育されており、わたしたちはガラスを通して観察することが出来ます。ジェンツーペンギンたちへの「ぱっくんタイム」はスケソウダラが与えられ、上陸してきたかれらへの飼育員からの手差しのかたちになっています。

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動物種ごとの習性などに配慮し、工夫しながら食事が出来るようにしてやることは、かれらが自分たちの能力を発揮する機会を与えることになり、採食時間の延長によって動物たちが飼育空間の中で退屈してしまうことを防ぐ効果もあります。

オーストラリアやニューギニアなどの森林に住むフタニクダレヒクイドリには「ケバブ」と称されることもある、このような数珠つなぎの餌が工夫されています(※)。この仕掛けは他の動物園でも実施されているようですが、野生でも果実や虫などをくちばしで採るかれらの生活が垣間見られるように思われます。

 

※ハートがついているのはバレンタイン企画に使われた名残です。

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思わずとりこぼすことも多いのですが、地面から食物を拾う行動も野生の反映と言えるでしょう。

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食べていくにつれて、上にあった餌がずり落ちてくるのも「ケバブ」が巧みにつくられている証しです。ひと連なりの中で、下の方(最初の方)の餌を取りにくくするようにしているとのことです。また「ケバブ」を吊るす場所も普段あまり行かないところを選んで動物の行動域の拡大を狙っています。

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ヒクイドリの隣のダチョウのオス。わたしを相手に盛んに「求愛ダンス」を踊ってくれました(2016/3/4撮影)。「異文化コミュニケーション」というところでしょうか……?

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そして、ダチョウとは逆隣、ヒクイドリに見下ろされていくのはメスのカピバラ・コトネです。本来は別の場所で群れ飼育されていましたが、コトネから新入りのオスへの攻撃が目立ったため、一時的に離されています。

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こちらが本来のカピバラの群れです(小動物ゾーン)。現在、新しいオスを迎え入れての群れの再編が試みられています。

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カピバラたちの展示場には、こんなハンズオン(体験的にさわれる展示物)も。カピバラは体も大きく(体熱が奪われにくい)、本来は南アメリカのアマゾン川流域を中心とした温暖な水辺に生息するためか、体には粗い毛だけが生えていて、柔らかい下毛はありません。箒をさわることで、そんなカピバラの「撫で具合」が疑似体験できます。

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こちらがカピバラたちの展示場の全景です。奥の高いところに巣穴があるのがわかりますか?

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巣穴の住人はこちら。オスのオニオオハシ・トコです。取材時(2016/3/3~4)は防寒対策でカピバラ舎に隣接する屋内展示に移されていましたが、温かい季節には同じ南アメリカの森の仲間であるカピバラと同居します。

樹上・空中と地上・水中、同じ地域に住みながらも動物たちはそれぞれに分化した生息環境で暮らし、それにふさわしい姿や能力を持っています。「小動物ゾーン」では各地域でのそんな対比を示す展示が行なわれています。

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オニオオハシの隣には、2羽のコバタン(※)。かれらも本格的な春の訪れを待っています。インドネシア東部のスラウェシ島・フロレス諸島に分布するかれら。オニオオハシにとってのカピバラに当たるのは……

 

※手前が大柄なオスのトト、奥がメスのシロ。トトはカメラに反応してか、冠羽を逆立てています。申し訳ありませんが、ちょっと興奮させてしまったかもしれません。

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マレー半島・ボルネオ・スマトラなどに分布するマレーヤマアラシです。これもまた仲睦まじい様子のペア(小柄なオスはバイオ・のんびり屋のメスはモミジ)。

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マレーヤマアラシ舎の内外はちがった草が生えています。中にはイネ科のオーチャードグラス、外には御馴染みのクローバーです。オーチャードグラスはよく知られた牧草ですが、マレーヤマアラシはこれを食べません(カピバラには好まれます)。結果として、展示場内にはほどよい繁みが広がっています。一方でクローバーはマレーヤマアラシの好物です。折々にケージの隙間から前足を突き出し、クローバーを採食する姿も見られるとのことです。

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南アメリカ・東南アジアと来て、今度はアフリカです。

しかし、こちらの眺めはいままでとはちがいますね。美しいボタンインコたちのすぐ間近まで枝を登ってきている奇妙な動物。ボタンインコを狙っているのでしょうか?

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アフリカからアジア西部にかけて分布するケープハイラックスです。かれらは「岩狸」とも呼ばれ、恵まれた跳躍力で岩山や枝の上でも自在に動くことが出来ます。しかし、草食性(他に果実・花など)なので御覧のようにボタンインコとの共存も出来るのです(※)。

福山市立動物園ではケープハイラックスの繁殖にも成功しており、現在、6頭を飼育展示しています(1頭は2015/8/2生まれでまだ子どもです)。身軽な「忍者」ともいうべきかれら、地上から展示場の鉄骨の上までどこにいるかはその時次第です。是非、目を凝らして全個体が見つかるか探してみてください。

 

※前出のマレーヤマアラシ舎の外のクローバーは、もっぱらハイラックスの餌とされます。同様に舎内のオーチャードグラスもハイラックスの好物です。

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ハイラックスの足です。小さいながら蹄があるのがわかりますか。よく跳ね、草を食べ、実は上顎の切歯(前歯)が伸び続けるかれら。齧歯類やウサギの仲間だろうか、とも思われますが、現存の動物の中ではゾウや海牛類(ジュゴン・マナティー)が一番近縁であると考えられています(ゾウの牙も、伸び続ける上顎の切歯です)。遠い昔に展開した進化の痕跡を、愛らしくも不思議なかれらのありさまに偲んでみましょう。

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混合展示の最後はオーストラリアです。ここでの鳥はワライカワセミ。

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日本のカワセミは魚食ですが、ワライカワセミはもっぱら地上で狩りをします。その獲物も大柄な体に見合って、昆虫類からネズミ・ヘビなどに及びます。動物園でもマウスを与えていますが、御覧の通りの丸呑みも出来るのです(※)。

 

※他に、バックヤードの水槽で増やしているドジョウやジャンボミルワーム(甲虫の一種の幼虫)なども与えています。

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福山市立動物園のワライカワセミのペアには繁殖も期待されています。取材時(2016/3/3~4)にもメスが巣箱に入っている様子が観察できました。このような行動の組み合わせ・積み重なりの中から、やがては……動物園の試みは続きます(※)。

 

※メス個体は昨年末(2015年)にやってきましたが、オス個体の方は繁殖経験があります。

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ワライカワセミの展示場前には、あの独特の鳴き声を再生する装置も置かれています。

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ワライカワセミの相方はパルマヤブワラビーです。広い意味でのカンガルー類は、体の大きい順に連続的に(はっきりした区分けではなく)カンガルー・ワラルー・ワラビーと呼び分けられます。パルマヤブワラビーは森林生の小型カンガルー類ということになります。

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「繁殖」というキーワードを携え、「は虫類館」に踏み入ってみます。

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幾何学的な甲羅の模様が印象的なインドホシガメ。現在時でも大小さまざまな多くの個体が飼育されていますが、福山市立動物園はこのカメについて2001年に日本動物園水族館協会から繁殖賞を受賞しています(※)。

 

※日本の主だった動物園・水族館のネットワークである日本動物園水族館協会が、同協会に所属する園館の中で、それぞれの動物についての国内初の繁殖成功の申告を受けて与える賞。動物園・水族館での繁殖技術の向上は、希少動物の「種の保存」への貢献にもつながります。

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こちらはアフリカ大陸中央部から西部にかけて分布するレインボーアガマです。「は虫類館」にとっては昨年(2015年)5月のニューフェイスです。

 

「は虫類館」では土日・祝日には、普段触れないヘビやトカゲとの「ふれあいイベント」も行なわれています。

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最後に日当たりのよい高台に設けられた「サルゾーン」を訪ねてみましょう。わたしたちを含む霊長類もまた、仲間としての大きなまとまりとともに種ごとの多様性を展開しています。

エリマキキツネザルはマダガスカルに生息する原猿類(原始的な特徴を遺す霊長類)のひとつです。キツネザルとしては大型ですが、こんなふうにぶら下がったりすることもしばしばです(写真の個体・オスのキキは特にこんな恰好を好むとのことです)。驚いた時などに群れ全体で競うように発する大きな鳴き声でも知られています。

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こちらは中南米に住む「新世界ザル」のひとつでコモンリスザルです。果実などのほか虫も好んで食べます。公開給餌の「ぱっくんタイム」では、カプセルの中に入れたミルワーム(甲虫の一種の幼虫)を小さな穴から器用に取り出して食べます。手先の器用さ・親指が他の指と向き合ってついていることなどから(※)、小柄なかれらも、独自の進化を遂げた霊長類であることがわかります。

 

※ケージを掴んでいる様子に注目してください。

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中に一個体、特に小柄で体毛の薄いものがいます。当年17歳のメスでいわば「おばあちゃん」ですが、外観はともあれ、若い仲間たちに負けない力強さで食事に励んでいます。

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「おばあちゃん」といえば、是非こちらに注目を。シロテテナガザルのマリは既に50歳以上になるメスですが、1993/1/9に29番目の子どもを出産し、それをもってギネスブックに登録されました。その後、33番目まで子どもをもうけ、現在はのんびりと老後を送っています。

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こちらが33番目、マリの末っ子のアンソニー(オス)です。現在、ペアリングが試みられています(※)。

 

※若いメス・キャンディーも、この日(2016/3/3~4)にはマリと並んで屋内通路から観察することが出来ました。

 

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こちらはマントヒヒの群れ。オス1・メス2の組み合わせは1頭のオスが複数のメスとつくるヒヒの群れの基本単位をミニマムに再現していると言えます。

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マンドリルもペアで暮らしていますが、かれらのケージの中の丸太を見ると、その歯や顎の頑丈さがよくわかります(※)。

 

※齧り木が、ある種の動物たちにとっては日常を豊かにする飼育的配慮になり得ることは前回にも御紹介しました。

 

また、福山市立動物園のゲートを出てすぐ横の事務所ロビーには「サルの骨格標本コーナー」が設けられており、園のスタッフの手づくりによるマンドリルの骨格も展示されています。歯・顎などをしっかり観察するのに頭骨は貴重なもので、動物園の生きた個体の展示を補完するものとなっています。

 

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「サルゾーン」を背にした斜面の上には、動物たちのための「供養碑」があります。いまを生きる個体とともに、かつてここで過ごした個体、すべての動物たちの記憶と現在が福山市立動物園の歴史を刻み続けています。園内を歩き、目の前に広がる動物たちのそれぞれに異なる魅力に接するとともに、それが過去から未来へと連なるいのちのひとコマであることを想っていただければと思います。

 

 

福山市立動物園

四季折々の自然に囲まれ、家族ぐるみのレクリエーションの場として、動物たちとふれあい、生き生きとした姿を間近にできる動物園。

公式サイト

〒720-1264 福山市芦田町福田276-1

電話 084(958)3200

飼育動物 64種357点(2016年2月末現在)

開館時間 9:00~16:30 (入園は16:00までにお願いします)

休館日 毎週火曜日(火曜日が祝日の場合、その翌日)

※3月〜5月、9月〜11月は、休園日なしで毎日開園します。

アクセス

車・・・JR福山駅より30分。山陽自動車道福山東I.C.、福山西I.C.よりそれぞれ約30分。

その他詳しくはこちらを御覧ください。

 

 

※この記事は2016/3/3~4の取材に基づいています。その後、福山市立動物園は飼育しているボルネオゾウ「ふくちゃん」の体調をめぐって3/11~18に一時休園しましたが、これについては当座、論じる立場にありませんので機会があれば別途記したいと思います。詳しくは同園のサイトを御覧ください。

 

動物園の飼育環境は、そこで暮らす野生動物にとって本来の生息地よりは単純化された人工的な条件になっています。では、何を優先して再現すればよいのでしょうか。動物たちの「ミニマム(必要最小限)」を見極めることは飼育管理の上でとても大切なこととなります。

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「正解」を探るさまざまな試み。ひとつにはそれぞれの動物の特徴的な習性に注目し、それを発揮しやすくしてやる方向があります。

アミメキリンはアフリカのサバンナを歩きまわりながら、長い舌で木の葉を巻き取るように食べています。福山市立動物園では地元の方の御厚意で提供される枝葉を活かし設置場所を工夫することで、キリン本来の食生活を尊重しながら来園者にも間近な観察が可能となるようにしています。

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落ち着いた暮らしの中、オスのフクリン(奥左)とメスのカリン(同右)には2015/6/24にメスの子ども「あんず」が生まれました。園としても9年ぶりのことです。

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サバンナゾーンの観察台には誕生時のあんずの体の大きさを示す、こんな展示も設けられています。

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天候や動物たちの状態によって、キリンたちは屋内展示となる場合もあります(観覧路が設けられています)。それならそれで、こんなショットも。

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ここでも枝葉がつけられています。

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こちらはオスのフクリンと、ハートマンシマウマのオス「えいた」です。フクリンがあまりちょっかいを出し過ぎると……

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ケンカというほどのものではなく、すぐに収まるのですが。

 

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こちらはメスの「おりーぶ」。シマウマの種類は主に腰から尻の模様で見分けられますが、ハートマンヤマシマウマの特徴のひとつは腰から尾にかけてのはしご状の縞です。

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小動物ゾーンのニホンリス。大げさな仕掛けでなくとも生息環境の再現は出来ます。ケージのオーバーハングはリスたちには森の枝の広がりと同じ構造や機能を持っています。

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こちらも樹上性を引き出すミニマムな仕組み。アカハナグマは南アメリカの森に住み、木登りが得意なアライグマのなかまです(地上でも盛んに活動します)。

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アカハナグマはメスが群れをつくり、普通、オスは単独で暮らします。この展示場では父親個体を除く3頭の母娘が暮らしていますが、これもまた本来の生態の再現です。しばしば、こんな寛ぎも。

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アフリカの乾いた土地に住むミーアキャットは母親を中心とした家族で群れをつくり、巣穴を張り巡らして暮らします。ここでも「団子」になっての休息が観察できます。

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約1.15kg。交替で小高い場所に見張りに立つかれらの習性を活かすことで、こんな展示もつくれます。

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曇り模様で寒かったのか(2016/3/4撮影)、見張り個体も「団子」に参加。動物園の安心感がなせるわざでしょうか。

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美しい姿で群れるチリーフラミンゴ。しかし、1羽、黒っぽい色の個体がいるのがわかりますね。昨年(2015年)8月に5年ぶりで繁殖した2羽の幼鳥の片方です。

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野生のフラミンゴは1対1のペアが数多く集まり、湖の浅瀬に土を盛り上げた巣をつくって産卵します。動物園でもこのような巣づくりは見られます。福山市立動物園ではフラミンゴたちが自分でつくったものや、繁殖行動への刺激として飼育員が土台をつくってやったものなどがいくつも見られます。さきほどの写真でも台の上に座り込んでいる個体がいますね(産卵はしていません)。

以前、当園では繁殖が始まる春先を見計らって岸辺の土を耕し水を撒いてフラミンゴたちにきっかけをつくってやっていました。しかし、このやり方ではすぐに土が乾いてしまって落ち着かないためか、5年前を境に繁殖が途絶えていました。

そこで昨年、新しい担当者は、もっと持続的にぬかるんだ状態がつくれないかと頭をひねりました。彼が選んだのは地面に防水シートを引き込んで、その上に水を撒くというやり方でした。写真にもそのシートが写り込んでいます。このやり方はフラミンゴによい刺激を与えたらしく、複数のペアによる全部で6個の産卵が見られ、孵化したうちの2羽が無事に成長を続けているのです。

今年もそろそろ「泥池づくり」が検討されています。その頃には展示場の奥に見えるケージ部分に目隠しをして(隣には他の水鳥たちがいます)、フラミンゴたちが落ち着けるようにするとのことです。

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こちらがさきほどとは別の幼鳥です。比べてみるとこちらの個体の方が少し色づきがよいですね。成長の個体差ということでしょう。

フラミンゴは自分で羽の色素を造り出すことは出来ません。そこで食べものの色素を使って体を色づけます。動物園でも色素を配合した餌が与えられています。

孵化したひなは生後2年間ほどでようやく親と同じ色合いにまで至ります。

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手前の繁みに色づきかけた幼鳥。そして、奥に真っ白な個体が見えます。これは昨年繁殖したペアの父親の方です(30歳を超えるベテラン・オスです)。生まれたばかりのひなは自分で餌を食べられません。そこで親鳥は消化管の一部からタンパク質や脂肪に富んだ分泌物を出し、それを口移しでひなに与えて育てます。オスメスともにつくれますが「フラミンゴミルク」と呼ばれます。フラミンゴミルクには体を色づける色素も含まれています。結果として、親は子に色素を分け与えた分だけ、羽色が抜けてしまうことになるのです。

昨年生まれの幼鳥たちは既にフラミンゴミルクを必要としなくなっています。育児疲れ(?)の父親もやがて元の美しい姿に戻っていくことでしょう。

創り込まれた美術作品のような華やかさが目立つフラミンゴの群れですが、かれらもまた生きた動物としての暮らしを営み続けているのです。

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こちらは水鳥たちが自由に飛び回れるように設計されたフライングケージで、来園者が鳥たちの世界に歩み入れるようになっています(先ほどのフラミンゴ舎と隣接しています)。

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すっくと立つヘラサギ。胸元の白いリングが特徴のシジュウカラガン。その奥にはツクシガモの姿もあります。

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こちらは個性的な顔立ちのトモエガモ。

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オシドリはもっぱら木のうろに巣をつくります。飼育下でも巣箱をつけることでかれらの便宜を図っています。

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さらに高みには中央アメリカ~南アメリカに住むショウジョウトキ。かれらの鮮やかな羽色もフラミンゴ同様、食物に由来しています。

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ネコ科の肉食獣を集めた「ハンターの城」。ここでも高みに臨む者たちが。

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アムールヒョウのメス・ピンです。2014/3に2頭のメスの仔・カランとコロンを生みましたが、カランは東武動物公園・コロンはいしかわ動物園(石川県)に移動しました。

また、繁殖の相方であったオスのアニュイもイギリスから来た貴重な血統の個体ということで2015/12/15に広島市安佐動物公園に移動して、新たなペアリングが試みられています(※)。

ヒョウは元々、おとな個体が1頭ずつで暮らす単独生活者なので、このような分散にも適応して新たな展開が期待されています。

 

※詳しくは、こちらを御覧ください。

 

 

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宙に懸かる丸太も平然と渡ります。

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足裏まで間近で観察できるスポットも。

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アフリカのサバンナに適応し、ネコ科では唯一群れをつくるライオン。なかよく日向ぼっこを見せてくれることも多い、オスのブワナとメスのラヴィですが……

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岩山に君臨(?)するラヴィ。ライオンは木に登ることも出来ます。

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その頃、ブワナは……。ハンターの城ではネコたちのダイナミックな身体能力を引き出すことと、来園者が間近でかれらと向き合えることの両方を意識した施設づくりがなされています。ケージ越しなら、かれらの放つにおいまでも体感できます。

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丸太などの爪とぎ用具も動物たちの習性に基づく需要を満たすとともに、その配置によって来園者との距離を詰める効果を持ちます。

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こちらは秋田市大森山動物園からやってきたアムールトラのメス・ミルル。カプセル状の観覧窓から覗けば、こんなビューも体験できるかもしれません。

トラも単独生活者なのでオスのアビとは日替わりで展示されていますが、2頭のペアリングのためにバックヤード(休園日には運動場でも)「お見合い」の試みが進められています。アムールトラの繁殖は当園にとっては、はじめてのプロジェクトです。

 

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負けじと(?)迫力の大接近は、ピューマのマロンです。

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かと思えば、こんなところにいることも。潜んでいても炯炯とした眼光です。

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こちらは比較的小型なカラカル。メスのカーラです。オスのカールと日替わり展示です。

 

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当園ではカラカルも貴重な繁殖に成功しています。みかん箱に収まった姿が話題ともなったメス・クルン(2014/5/31生まれ)は現在、姫路市立動物園に移動しています(2014/9/2撮影)。

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もうひとつの小型種サーバルも、ジャンプで鳥を狩ることもあるという身軽さをいかんなく発揮しています(写真はオスのディーン)。

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観覧窓近くに置かれたトロ舟に入りつつもこまめに自己主張(?)。

 

わたしたちは動物園で世界中の動物と出逢うことが出来ます。動物園は動物たちの本来のありように配慮しながら、かれらを健やかに飼育し、わたしたち来園者にその姿を展示しています。そこから多くの楽しみを得つつ、わたしたちは動物たちの向こうに広がる世界(環境)を考えるきっかけを得ることが出来ます。わたしたちと動物たちが、共にしあわせに健やかに生きていくためのミニマムは何でしょうか。そんな問いをしっかりと受け止めてみたいと思います。

次回もさらに、福山市立動物園で暮らす動物たちと、かれらへの動物園の飼育的配慮や展示の工夫を見つめていきたいと思います。

 

 

福山市立動物園

四季折々の自然に囲まれ、家族ぐるみのレクリエーションの場として、動物たちとふれあい、生き生きとした姿を間近にできる動物園。

公式サイト

〒720-1264 福山市芦田町福田276-1

電話 084(958)3200

飼育動物 64種357点(2016年2月末現在)

開館時間 9:00~16:30 (入園は16:00までにお願いします)

休館日 毎週火曜日(火曜日が祝日の場合、その翌日)

※3月〜5月、9月〜11月は、休園日なしで毎日開園します。

アクセス

車・・・JR福山駅より30分。山陽自動車道福山東I.C.、福山西I.C.よりそれぞれ約30分。

その他詳しくはこちらを御覧ください。

 

 

※定例(餌やりなど)・特別のイベント情報は、こちらを御覧ください。有料のものもあります。

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キリンならではの長い舌を活かして木の葉を巻き取るのは、メスのももか(1995/8/6生まれ)。身長4.5mに及ぶももかですが、野生のキリンも長い首と大きな体を活かし、アフリカのサバンナを歩きまわりながら、このような採食して暮らしています。

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キリンの顔を間近で観察すると、まずは長いまつげに気がつきます。アフリカの強い日差しなどから目を守る機能が考えられます。そして、くっきりとした眉。実はこれはイヌやネコの目の上にヒゲのように生えているのと同じ感覚毛です。木の葉を食べるには枝々の中に顔を突き入れなければなりませんが、キリンが好むサバンナアカシアには鋭いとげがあります。キリンの眉は、そんなとげなどで目を突かないように回避させるセンサーと考えられています。

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池田動物園では、このようにニセアカシアを中心とした枝葉を運動場のフェンスにぐるりと差してやります。こうして、動物園の限られた空間でも少しでも運動量を増やそうと試みているのです。

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今夏の「ナイトズー」でのキリンのバックヤードツアー。木の葉以外にもどんな餌を与えているか、飼育下では捕食者(肉食獣)からの安全が確保されているので座り込んで眠るのだなど、こういう時でないと見聞しがたい内容が盛りだくさんです。

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コーティングされたキリンの糞を手にする機会もありました。

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さて既に飼育下のキリンの運動量が問題となることは記しましたが、運動させることを心掛けていても、やはり蹄は伸びがちになります。伸びすぎた蹄は歪んでしまい、結果として歩行不良から命に関わることもあります。そこで定期的に蹄を手入れできるようにトレーニングを施しています。

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現在二人組でトレーニングを進めていますが、足に鋸をあてがう役の飼育員も最後に餌を与えます(※)。トレーニングの目的は個人になつかせることではないので、キリンから飼育員に対して個人や役割での好き嫌いをつくらないようにし、受診動作(※※)~報酬(餌)というトレーニングそのものを「約束」として受け入れられるように努めています。

まつげ・眉毛など、キリンは本来の体の仕組みや行動の上でも自分の身を守れるようになっています。しかし、かれらを飼育下に置きつつ、自然な「野生」を引き出して展示するためには、動物園ならではの健康管理や保護の工夫が必要なのです。

 

※前掲の写真では、トレーニング中にもう一人の飼育員がタイミングを見ながら餌を与えています。

※※ここでは足を出して鋸を当てられるのを受け入れる行動。

 

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トレーニングが終わってからの方が妙に積極的に接近してくるももか。そんな気まぐれさも持っています。

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しかし、強制や過剰な誘導はトレーニングの主旨に反します。ももかが接近をためらっている時には、あえて飼育員同士でのんびりと雑談するなど、ももかのストレスを増やさず、自ら進んで行動をつくりあげていけるように、気長で穏やかなトレーニングが続けられています。それは飼育全般にも関わる心がけなのでしょう。

トレーニングが飼育下での日常のちょっとした「特別な時間」として、動物たちへのよい刺激となる可能性も評価できます。

 

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グラントシマウマのリヨ(メス・奥)とソラ(オス)。かれらにもトレーニングが施されています。

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横を向いて静止する。何でもない行動と映りますが、野生の感覚を保っているかれらが無防備に横腹や背後を人に預けるには、飼育員との安定した関係性が必要です。しかも非番や担当の交代などもあるのが動物園ですから、動物たちの信頼は個々の飼育員にとどまっていてはならないのです(※)。ひとつひとつのサインに馴染ませる地道な営みが続けられています。

 

※不適切な「人づけ」は野生を麻痺させることにもなり、動物園展示の根本にも関わります。

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トレーニンググッズも手づくりだったりします。ペットボトルを利用したターゲット棒。既に掲げた写真のように動きを指示する役割のほか、まずは、これで蹄に触れたりすることでいずれ手入れのためのやすりがけ等にも適応させていこうとしています。

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飼育下の動物たちが健やかに快適に暮らせるよう、飼育環境を豊かにする。そんな試みを「環境エンリッチメント」と呼びます。おおがかりなものばかりでなく、動物園には飼育員たちの手仕事によるさまざまな環境エンリッチメントの実践(飼育的配慮)も見出せます。噴水や彫像がムードを醸し出すマゼランペンギンのプール。

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この輪は、避けて泳いだり、時にはくぐったりすることでペンギンたちの行動にヴァリエーションが出るようにする工夫です。

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ペンギンたちの間近な通過やユーモラスな坂下りが観察できる「ペンギン・ランウェイ」。これもペンギンの気分次第の行動ですが、だからこそ日常の飼育環境の自然な豊かさにつながっていると言えるでしょう。

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プールから上がってきたばかりのリョウマ(オス)。そのすぐ後ろでスロープに辿り着いているのはリョウマとメスのペタロウの間に今年(2015/5/10)生まれたハルです。まだしっかりとした紋様にはなっていませんが、外見も行動も段々におとなに近づき、両親の見守りから離れつつあります。

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ハルがつついているのは個体識別用の翼帯です。リョウマの場合は右側に緑と黄色を着けています。すべての個体に紹介プレートがありますので、是非実地での見分けに挑戦してみてください。

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こちらは、アカとサンのペア。巣箱の中に敷かれているのは人工芝です(この時点で繁殖期は既に過ぎています=2015/08/12撮影)。

さきほどのリョウマは姫路市動物園から婿入りしてきてペタロウとペアになりましたが、昨年かれらが産卵した2個の卵は共に割れてしまいました。そこで飼育担当者は、動物園や水族館のペンギン飼育担当者を中心に一般のペンギンファンも参加できる全国ネットワークのNGO「ペンギン会議」で他園の知恵を借りました。それが、この巣箱です。すのこに人工芝を張り付け、巣材も細かく刻んだ人工芝にすると破卵が起きにくいのです。また、このような営巣セットを2つつくってうまく入れ替えてやると、さらに衛生的となり、それらをきっちりと試すことで、今年はハルの孵化に成功したのでした(※)。

前回に御紹介したミーアキャットの運動場やこのマゼランペンギンの事例、それにキリンのトレーニングなども、すべて動物園・水族館が互いに快く教え合い、導きあうことで着実に成果を挙げています。また、リョウマのように園館の間での個体の移動も、血統問題の解消など、全体として飼育個体群のあり方を健全化することにつながっています。

動物園・水族館は、決して孤立したかたちでは存続できない。そういう認識はさまざまな面での真理を孕んでいると言えるでしょう。わたしたち来園者がそれを知ることにも深い意義があると思われます。

 

※マゼランペンギンは毎年の繁殖期に2個の卵を産みます。しかし、まだ未熟なところがあるリョウマは1個の卵を温めるのが精一杯です。今年ペタロウが産んだ卵のひとつはアカ・サンのペアに託されました。残念ながら発生が進まず破卵してしまいましたが、リョウマの成長や園・担当者の飼育的配慮の中で、池田動物園のペンギンたちはさらに充実した群れとなっていくことでしょう。

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繁殖と言えば、こちらも。コツメカワウソのペアのチョコ丸・テラちゃんは、この春(2015/4/15)繁殖に成功し、ただいま赤ちゃん四姉妹の子育ての真っ最中です(2015/8/12撮影)。そんな事情で展示されていないこともありますが、こんな場面に行きあえば、かれらの家族の円満さと賑やかさを満喫することができます。

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カワウソは半水生の暮らしに適応したイタチ類ですが、登攀能力もなかなかです。

そんなかれらの習性・行動を活かしているのがカワウソラグーン。通路側にせり出したアクリル水槽内でのカワウソの動きをたっぷりと観察することが出来ます。残念ながら今回の取材ではそういう機会には恵まれませんでしたが、展示効果だけでなく、登る・泳ぐといった行動の増加で、カワウソたちへの環境エンリッチメント効果も期待されます。

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ちょっとだけよ?

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少し寄り道。「上にいる」といえば……多角形の展示舎、オスのメガネカイマン・サブレの視線の先には……

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ルーセットオオコウモリの群れです。オオコウモリの仲間は果実食で、多くの日本人に馴染み深い小型コウモリ類(もっぱら昆虫食)とは生態が異なります(※)。

 

※日本国内でも、南西諸島にはクビワオオコウモリが生息し、いくつかの亜種に分かれています。また、オガサワラオオコウモリは小笠原諸島の固有種です。

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同じ展示舎内の別の一角にはインドオオコウモリも暮らしています。

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ほんの一個のボールで動物の日常が活気づくこともあります。オスのホワイトライオンのハタリ。以前にはタテガミが抜けてしまっていた時期があり心配されていましたが、いまは御覧の悠然ぶり。このボールをはじめとした飼育的配慮の積み重ねの成果でしょう。

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こちらはアフリカライオンのモジロー、園内斜面上方で暮らしています。見比べるとハタリの体色が白っぽいのが確認できると思います(※)。

 

※ホワイトライオンは幼少時には真っ白ですが、成熟するとやや色づくのが普通です。

 

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親密な群れをつくり「ラブバード」とも呼ばれるボタンインコ。

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群れでの行動ならではの「止まり木のシーソー化」です。ここにも展示効果と飼育的効用(環境エンリッチメント)の兼ね合いが見られます。

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「こんにちは」

以前には個人のペットだったキエリボウシインコのオーちゃんは、なかなかの器用さと多弁を発揮します。飼育下ならではの個体と言えますが、それゆえに、かれらの発音の器用さや知能の高さ、そして人とのやり取りが出来る社会性といったものを親しみ深く感じさせてくれます。

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そんなオーちゃんも食事中は無口。

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池田動物園では3種類のフラミンゴを比較展示しています。

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ピンクの羽と灰色がかった足のチリーフラミンゴ。

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鮮やかな羽色のベニイロフラミンゴ。フラミンゴの曲がったくちばしは、このようなかたちで採食に役立てられます(※)。

 

※野生では水中の藻類をこしとって食べます。

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そして、白っぽい体と赤い足、ピンクのくちばしが際立つヨーロッパフラミンゴです。

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かれらフラミンゴについても、継続的にこんなイベントが組まれています。園内を散歩する個体たちの総称は「ピーちゃん」。孵卵器で生まれ、飼育員に育てられました。人馴れを活かすことで、フラミンゴ舎での展示とはちがったかたちでフラミンゴの大きさ・体の特徴などを感じ、観察してもらおうというわけです(2010/6/10撮影)。

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ヤギの餌やり。動物園が定めたルールを守るなら、他の場所では得難い楽しい体験ともなるでしょう。

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ふれあいも然り。場内の掲示や、スタッフ・ボランティアなどの声に注意を向けることは、結果として「人と動物が向き合うことの意味」を考える格好の機会ともなるはずです。

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前回御紹介した「ものしり食堂」内の掲示より。

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今年のスター(干支)、ヒツジのまゆりちゃん。そして、ヤギの斗真。

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ミニヤギの名は「一心(いっしん)」です。

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ロバのマロン君。時には怪獣のような大音量で鳴きます。

ペットを含む家畜たちは、人間が野生動物を飼い馴らし自分たちの生活に深く取り込むことで生まれました。「飼う」ことを前提とした動物たちです。ここまでに記してきたような「飼育下の野生動物への飼育的配慮」と比べ合わせることで、わたしたちは動物たちとの、より豊かで多様な関わりへと目を開くことが出来るでしょう。

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アメリカバイソンのオス・アトランタ。かれの運動場にも遊び道具や水場などが見つけられます。バイソンは家畜ウシとは異なりますが、アメリカでは先住民族と永らく関係を結び、ヨーロッパ人の移入以降の乱獲での激減~保護政策による個体数の上向きといった歴史を持ちます。マイペースなアトランタを前に、そんなあれこれに想いを広げてみてもよいでしょう。

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池田動物園観覧もそろそろ終わりが近づいてきました。ケヅメリクガメのケーヅー。寒さや雨天は苦手なので「家」に引き籠もっている時もありますが、なんとかお目にかかれました。かれを見ていると、暑かった夏もいささか名残惜しく思えてきます。

そんなケーヅーの「表札」に書かれた野生のアオサギの巣のこと。「引っ越しました」と注意書きがあります。前回からお読みの皆様は、かれらの新居を見ているのです。

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ここです。インドゾウ・メリーの動物舎の裏手です。池田動物園に足を運ばれたら、ちょっと探してみてください。

(飼育下の)野生動物、家畜ひいては野生の鳥や魚など(前回のメダカほか)。巧まざるものまで含め、動物園は生きものの多様さをぎゅっと詰め込んだ「いのちの宝箱」なのです。心ときめかせながら蓋を開け、あなたも宝物を見つけてみませんか?

 

 

池田動物園

緑に囲まれ、動物たちを体感できる動物園

公式サイト

〒700-0015 岡山県岡山市北区京山2丁目5番1号

電話 086-252-2131

飼育動物 122種590点

開園時間(閉園の1時間前までにご入園ください)

4月~10月:9:30~17:00

11月~3月:9:30~16:30

休園日

11/21~2/20、5/21~7/20の毎週水曜日

(祝祭日や夏休み・冬休み期間中は休まず開園いたします。)

アクセス

JR岡山駅西口から

バス…岡山中央病院行き 京山入口 下車徒歩12分

タクシー…約8分

その他、駐車場情報等を含め、こちらを御覧ください。

 

 

※定例(餌やりなど)・特別のイベント情報は、こちらを御覧ください。有料のものもあります。

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池田動物園のゲートを潜れば、すぐにゾウの運動場。人気者にふさわしい場所です。朝いち、当年50歳となるインドゾウ・メリーが姿を現します。

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餌やり体験では、鼻息を感じながらの手渡しも楽しめます。ちょっと腰が引けていますが……

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餌やりが終わったら記念撮影。

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何回か訪ねたことのあるわたしを覚えていてくれたのでしょうか?鼻先を伸ばしてきます。

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夕刻。メリーの餌を積んだトラックがゾウ舎前にやってきます。

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気慰みの軽食を取りながら、足を薬浴。メリーは右後足を除く足の裏に傷が見られ、そのケアです。当園では複数のスタッフ(ゾウ班)による集団直接飼育が行なわれています。指示に従って足を薬液に浸ける~そのかわりに少しの餌が出る。これらは飼育員とメリーの間で成り立っている「約束」です。それによって毎日の生活リズムが守られ、心身の健康も管理できます。ゾウらしい姿を保ち展示するためにも必要な関係づくりなのです。

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特別に撮影させていただいた収容後の寝室。後ろ足にチェーンをつなぎますが、これによって無人の夜間にメリーが不測の行動などをして傷ついたりしないようにしています。メリーはこのチェーン(繋留という約束事)にも馴れています。ゆっくりおやすみください……。

 

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……時を急ぎすぎました。再び、昼の園内へ。池田動物園の動物舎の半ばは斜面に配置されています。

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勢いよく駆け下りてくるのは、ヤギのハルマ。この手の地形はお得意です。

 

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そんなハルマのすぐ上で暮らすのはアメリカバクのカップル。手前はスウェーデン生まれのオス・アレック、奥がドイツ生まれのメス・アンプです。ともに1987年生まれ。国内のアメリカバクでは最高齢で、いままで多くの子宝に恵まれてきました。

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「餌やり体験はいかがですか?」

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参加させていただきました。長く伸ばされる「鼻」。これは上唇が伸び、鼻の穴と一体化したもので、構造上はゾウの「鼻」と同じです。しかし、ゾウはアフリカ起源・バクはアメリカ大陸起源の動物です(※)。かれらの「鼻」はそれぞれの暮らしに合わせて、たまたま同じように進化したと考えられます。メリーとアンプ・アレックを比べてみてください。

その他、餌やり体験は、バクのディテールに迫る好機と言えるでしょう。

※※現在、バクは東南アジアに1種、中南米に4種が分布しており、アメリカバクの生息域はコロンビア~ブラジルなどの南アメリカです。

 

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国内最高齢と言えば、こちらの個体にも注目です。オスのベンガルトラ・ヒロは1993/4/9に池田動物園で生まれました。いまもなお精悍な面立ちです。

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南アメリカ~アジア(トラ)と来て、今度はアフリカ南部。カラハリ砂漠などに生息するミーアキャットです。こちらも斜面の一角を占める飼育展示施設です。群れをつくって交代で見張りに立つかれらの習性を利用して、上皿秤の上に立たせるという展示はよくありますが、ここでは背の高さも一目で分かります(※)。

 

※京都市動物園の飼育担当者の工夫に学んだとのことです。

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群れならではの「ミーア団子」。

ところで、この施設は「まいにちプレミーア」と名づけられています。ミーアキャットに「プレ」?

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こちらが「プレ」の含意、北アメリカの草原で暮らす「プレーリードッグ」です。ミーアキャットと同様に群れをつくり巣穴を張り巡らせて暮らしますが、ミーアキャットは肉食のマングース科。対するプレーリードッグはリス科です(地上性の強いジリス類)。「まいにちプレミーア」は進化の系統も生息域も異なる2種の動物それぞれの群れとしての巣穴生活を比較できる、動物園ならではの施設なのです。

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池田動物園の坂の上、散策はゆっくりと続きます。木組みが目につくレッサーパンダ舎。矢印のところにレッサーパンダがいます。この姿勢なら、毛が密生した足の裏もよく分かります。レッサーパンダは中国四川省の冷涼な高地に生息します。木登りが得意で、雪の上でも滑らないような足裏をしています。池田動物園では、そんなかれらにふさわしい場所、「樹上性」を満たす仕組みをつくっているのです。

この写真の観覧路の設備は人工ミストが出るスペースです。涼みながらの動物観察が出来るとともに、暑さが苦手なレッサーパンダのためでもあります(※)。池田動物園ではあちこちに、手づくり感覚の中で動物への配慮や、来園者と動物がひとときを共有できる工夫が施されています。

 

※この日は雨模様のため、行なわれませんでしたが、当園サイトのイベント情報で「レッサーパンダのひんやりミスト」をチェックしてみてください。

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こちらは今夏のナイトズー(夜間延長開園、今年は既に終了)。のんびりと過ごすのは、しずく(メス)と今年(2015/1/30)、山口県の徳山動物園からしずくの元に婿入りした「のんた」です。かれらのペアとしての将来も楽しみですね。

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レッサーパンダの高みに憧れたなら、みなさんもひとときの「高み」を楽しんではいかがでしょう。園内を周遊できる「ウォッチングサイクル」はキリン舎奥の斜面中腹からお乗りになれます。

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ちなみに、レッサーパンダは、これらのアライグマ科の動物と近縁と考えられています(北アメリカ中心に分布するアライグマ・南アメリカに広く分布するアカハナグマ)。

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話の赴くままに、こちらはオスのブチハイエナの蓮(れん)。さて、ブチハイエナはネコとイヌどちらに近いでしょう?見た目はイヌと思われるでしょうが、さまざまな肉食動物を含む系統グループ・食肉目をイヌ亜目(イヌ類のほか、イタチ・クマ、そしてアザラシなどを含む)とネコ亜目(ネコ類のほか、ジャコウネコ・マングースなどを含む)に大別すると、ハイエナはネコ亜目とされています。見た目の直感では決められないというのもポイントですが、ハイエナ類のイヌめいた外観は草原や砂漠での暮らしへの適応と考えられます。さきほどのミーアキャットとプレーリードッグの関係とも比較できるでしょう。

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そんな蓮が熱いまなざしを送るのは……メスのブッチです。二頭には繁殖も期待されています。温かく見守っていきましょう。

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坂の上の散歩もここまで。十分な高さを取ったケージ。向かいには、ケージの上層部を観察するためのテラスも設けられています。

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ここの住人は、こちら。中央アメリカの熱帯雨林に住むジェフロイクモザルです。「クモ」という見なしの元ともなっている柔軟な姿勢は、細長い手足(わたしたちヒトと同様、肩が自由に回ります)と巻きついて体を支える尾によっています。御覧のように手には親指がありません。すばやく枝から枝へ渡っていく時には、しっかり掴むより親指のない手を巧みにひっかける方が滑らかに動けます。池田動物園の個体は恵まれた空間の広がりの中で活発に動くとともに、しばしば、わたしたちの様子を見るように近づいてきたりします。かれらの体の特徴やその使い方をじっくり観察してみましょう。

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こちらはアフリカに住むアビシニアコロブスです。オスのアトムはメスのトレスとふたり暮らしですが、御覧のようにかれらの手も親指が退化しています。かれらも枝から枝へと軽快に跳び移るので、この手は移動にも適応していると考えられますが、勿論、クモザルとはそれぞれ別の進化の中での、結果としての一致です。コロブスはクモザルほどに自由に肩が回ることもなく、尾もバランスを取るだけで巻きついたりはしません。そんなちがいも含めて比較観察の楽しみが広がるでしょう。

なお、コロブスの主食は木の葉です。この点でも、木の葉も食べるが果実を好み、昆虫などもメニューとなるクモザルとはちがいます。アトムやトレスが新鮮な枝葉を楽しむ場面に行きあえたらラッキーですね。

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尾と言えば、こちらも。ブタオザルの名は尾のかたちに由来します。手づくり看板も楽しいですね。

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そして、フクロテナガザルには尾がありません。ヒトにつながる類人猿(ape)とまとめられるグループの共通特徴のひとつです。フクロテナガザルは喉の共鳴袋で大きな鳴き声を発します。縄張りを主張したり、互いに鳴き交わしたりするこの声は池田動物園でも朝夕などにしばしば聴かれます。その迫力は未知の方にはおそらく想定外でしょう。

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そして、現生の類人猿(※)の中でもボノボと並んでヒトの「進化のいとこ」と言われるチンパンジー。オスのトムが枝を使って手に入れようとしているのは固形飼料です。

 

※小型=テナガザル類、大型=チンパンジー・ボノボ・ゴリラ・オランウータン。

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こちらが装置の全容。チンパンジーの高い知性に基づく道具利用の能力を引き出す「チンパンジーなかよしToyッチャー」です。固形飼料はわたしたちの操作で投入されるので「餌やり体験」とも結びついています(使われる固形飼料の一日量は、きちんと計算されています)。

そして、二枚目の写真。トム(右)のほかにも、もう一個体いますね。

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メスのレーナです。先ほどの場面では、トムが枝を使って手に入れた固形飼料をすかさずレーナが分け前としてねだっているのです。野生のチンパンジーはオス・メスともに複数の群れをつくります。そんな生活の中で、かれらはお互いに複雑なやり取り(コミュニケーション)をする社会的知性を発達させています。飼育下チンパンジーの生活を考えるうえでも、道具利用等のほかに、ここでのような社会性を発揮できるようにすることは、とても大切です。観覧するわたしたちも、かれらのそんな面に注意を向けてみたいところです。

 

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群れで暮らす霊長類はこちらにも。ボリビアリスザルです。人の目で見ても楽しいデザインの遊具を使う姿にも注目です。

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2015/6/18生まれの赤ちゃん。いまはどのくらい成長しているでしょうか(2015/8/13撮影)。

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「おサル」の最後はこちら。何種類かの霊長類が並ぶ「おサルの小部屋」にいるのは、国内では当園1個体のみのシロカンムリマンガベイ。メスのリリスは高齢で歯が抜けているもののマイペースに元気です。

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お尻を向けるのは「好意」のしるしだそうです。

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このあたりで腹ごしらえと行きましょう。園内の「ものしり食堂」。その名にたがわずテーブルの上にも動物豆知識が。栄養を摂りながら、この後の園内観察に向けての知恵も吸収できるというわけです。

 

 

 

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こちらのカツ丼の素材は地元産の豚肉です(※)。とてもおいしくいただきました。

 

※岡山県岡山JA畜産(株)吉備農場産。

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地元つながりでこちら。このメダカは岡山県中央部の吉備中央町由来の野生個体です。メダカは日本の河川の在来種ですが、現在は絶滅危惧種となっています。人間活動の変化(近代化・工業化)による水質汚濁や住みかに適する小川の減少も大きな原因ですが、やはり人の手で持ち込まれた外来種カダヤシ(北アメリカ原産)との競合にしばしば負けてしまうという現状もあります。

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さらにはこちらの魚たち。観賞用に美しい色に品種改良されたヒメダカやシロメダカです。同じメダカと言っても、これらを川などに放せば在来のメダカの血統をかき乱し本来のあり方を取り返しようもなく壊すことになります(※)。

 

※メダカには野生でも北日本と南日本さらには水系によって遺伝的な差異があり、たとえ野生個体同士でも他地域のものを持ち込めば、やはり遺伝的な攪乱となってしまいます。

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池田動物園では園内の一角にこのようなメダカ等の展示コーナーを設けたり、米・芋の農作体験を催すなどして、身近な自然やそれに根差した暮らしに目を向ける営みも続けています。

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さらにこちら。「ぬーちゃん」とは?

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ヌートリアは同じく園内にいるカピバラと同様、南アメリカ原産の齧歯類です。戦時中には世界中で毛皮用に飼育され日本にも導入されましたが、いまは「外来動物」として野生化してしまっています。農作物への食害や日本在来の動物たちの生態系を壊す「侵略的外来種」です。元より責任はヌートリアではなく人間にあるのですが。岡山県南部は全国でもとりわけ野生化したヌートリアが多いことが確認されています。

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念入りな毛づくろい。ヌートリアのユーモラスとも言える姿を楽しみつつも、そういうかれらを「悪役」にしてしまっている現状を反省し、これからの人間の生き方を考える。動物園でのヌートリア展示には、他に比類のない体験的な価値があると言えるでしょう。

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生息地に絡んで今回最後の話題。オスのワライカワセミ・ペッパーの部屋には壁にコアラが描かれています。かれのふるさとがオーストラリアだからです。

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パルマワラビーもオーストラリア・ニューギニアに分布する小型のカンガルー類です。

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大接近。生息地・進化の系統・暮らしに合わせた適応形態、さまざまな視点から動物たちを比べ、実際に観察する……ここに、動物園ならではの広がりを持った楽しみのひとつがあります。

 

気まぐれにあちこちつまみ食いしてしまった観もある池田動物園観覧記。次回は御紹介しそびれた動物たちにも登場してもらいつつ、かれらの健康な暮らしを支える動物園の営みに踏み入ってみたいと思います。

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こちらはナイトズーでのメリーさん。またお逢いしましょうね。

 

 

池田動物園

緑に囲まれ、動物たちを体感できる動物園

公式サイト

〒700-0015 岡山県岡山市北区京山2丁目5番1号

電話 086-252-2131

飼育動物 122種590点

開園時間(閉園の1時間前までにご入園ください)

4月~10月:9:30~17:00

11月~3月:9:30~16:30

休園日

11/21~2/20、5/21~7/20の毎週水曜日

(祝祭日や夏休み・冬休み期間中は休まず開園いたします。)

アクセス

JR岡山駅西口から

バス…岡山中央病院行き 京山入口 下車徒歩12分

タクシー…約8分

その他、駐車場情報等を含め、こちらを御覧ください。