3月
24
2016
ミニマムということ 福山市立動物園・その1
Author: 森由民※この記事は2016/3/3~4の取材に基づいています。その後、福山市立動物園は飼育しているボルネオゾウ「ふくちゃん」の体調をめぐって3/11~18に一時休園しましたが、これについては当座、論じる立場にありませんので機会があれば別途記したいと思います。詳しくは同園のサイトを御覧ください。
動物園の飼育環境は、そこで暮らす野生動物にとって本来の生息地よりは単純化された人工的な条件になっています。では、何を優先して再現すればよいのでしょうか。動物たちの「ミニマム(必要最小限)」を見極めることは飼育管理の上でとても大切なこととなります。
「正解」を探るさまざまな試み。ひとつにはそれぞれの動物の特徴的な習性に注目し、それを発揮しやすくしてやる方向があります。
アミメキリンはアフリカのサバンナを歩きまわりながら、長い舌で木の葉を巻き取るように食べています。福山市立動物園では地元の方の御厚意で提供される枝葉を活かし設置場所を工夫することで、キリン本来の食生活を尊重しながら来園者にも間近な観察が可能となるようにしています。
落ち着いた暮らしの中、オスのフクリン(奥左)とメスのカリン(同右)には2015/6/24にメスの子ども「あんず」が生まれました。園としても9年ぶりのことです。
サバンナゾーンの観察台には誕生時のあんずの体の大きさを示す、こんな展示も設けられています。
天候や動物たちの状態によって、キリンたちは屋内展示となる場合もあります(観覧路が設けられています)。それならそれで、こんなショットも。
ここでも枝葉がつけられています。
こちらはオスのフクリンと、ハートマンシマウマのオス「えいた」です。フクリンがあまりちょっかいを出し過ぎると……
ケンカというほどのものではなく、すぐに収まるのですが。
こちらはメスの「おりーぶ」。シマウマの種類は主に腰から尻の模様で見分けられますが、ハートマンヤマシマウマの特徴のひとつは腰から尾にかけてのはしご状の縞です。
小動物ゾーンのニホンリス。大げさな仕掛けでなくとも生息環境の再現は出来ます。ケージのオーバーハングはリスたちには森の枝の広がりと同じ構造や機能を持っています。
こちらも樹上性を引き出すミニマムな仕組み。アカハナグマは南アメリカの森に住み、木登りが得意なアライグマのなかまです(地上でも盛んに活動します)。
アカハナグマはメスが群れをつくり、普通、オスは単独で暮らします。この展示場では父親個体を除く3頭の母娘が暮らしていますが、これもまた本来の生態の再現です。しばしば、こんな寛ぎも。
アフリカの乾いた土地に住むミーアキャットは母親を中心とした家族で群れをつくり、巣穴を張り巡らして暮らします。ここでも「団子」になっての休息が観察できます。
約1.15kg。交替で小高い場所に見張りに立つかれらの習性を活かすことで、こんな展示もつくれます。
曇り模様で寒かったのか(2016/3/4撮影)、見張り個体も「団子」に参加。動物園の安心感がなせるわざでしょうか。
美しい姿で群れるチリーフラミンゴ。しかし、1羽、黒っぽい色の個体がいるのがわかりますね。昨年(2015年)8月に5年ぶりで繁殖した2羽の幼鳥の片方です。
野生のフラミンゴは1対1のペアが数多く集まり、湖の浅瀬に土を盛り上げた巣をつくって産卵します。動物園でもこのような巣づくりは見られます。福山市立動物園ではフラミンゴたちが自分でつくったものや、繁殖行動への刺激として飼育員が土台をつくってやったものなどがいくつも見られます。さきほどの写真でも台の上に座り込んでいる個体がいますね(産卵はしていません)。
以前、当園では繁殖が始まる春先を見計らって岸辺の土を耕し水を撒いてフラミンゴたちにきっかけをつくってやっていました。しかし、このやり方ではすぐに土が乾いてしまって落ち着かないためか、5年前を境に繁殖が途絶えていました。
そこで昨年、新しい担当者は、もっと持続的にぬかるんだ状態がつくれないかと頭をひねりました。彼が選んだのは地面に防水シートを引き込んで、その上に水を撒くというやり方でした。写真にもそのシートが写り込んでいます。このやり方はフラミンゴによい刺激を与えたらしく、複数のペアによる全部で6個の産卵が見られ、孵化したうちの2羽が無事に成長を続けているのです。
今年もそろそろ「泥池づくり」が検討されています。その頃には展示場の奥に見えるケージ部分に目隠しをして(隣には他の水鳥たちがいます)、フラミンゴたちが落ち着けるようにするとのことです。
こちらがさきほどとは別の幼鳥です。比べてみるとこちらの個体の方が少し色づきがよいですね。成長の個体差ということでしょう。
フラミンゴは自分で羽の色素を造り出すことは出来ません。そこで食べものの色素を使って体を色づけます。動物園でも色素を配合した餌が与えられています。
孵化したひなは生後2年間ほどでようやく親と同じ色合いにまで至ります。
手前の繁みに色づきかけた幼鳥。そして、奥に真っ白な個体が見えます。これは昨年繁殖したペアの父親の方です(30歳を超えるベテラン・オスです)。生まれたばかりのひなは自分で餌を食べられません。そこで親鳥は消化管の一部からタンパク質や脂肪に富んだ分泌物を出し、それを口移しでひなに与えて育てます。オスメスともにつくれますが「フラミンゴミルク」と呼ばれます。フラミンゴミルクには体を色づける色素も含まれています。結果として、親は子に色素を分け与えた分だけ、羽色が抜けてしまうことになるのです。
昨年生まれの幼鳥たちは既にフラミンゴミルクを必要としなくなっています。育児疲れ(?)の父親もやがて元の美しい姿に戻っていくことでしょう。
創り込まれた美術作品のような華やかさが目立つフラミンゴの群れですが、かれらもまた生きた動物としての暮らしを営み続けているのです。
こちらは水鳥たちが自由に飛び回れるように設計されたフライングケージで、来園者が鳥たちの世界に歩み入れるようになっています(先ほどのフラミンゴ舎と隣接しています)。
すっくと立つヘラサギ。胸元の白いリングが特徴のシジュウカラガン。その奥にはツクシガモの姿もあります。
こちらは個性的な顔立ちのトモエガモ。
オシドリはもっぱら木のうろに巣をつくります。飼育下でも巣箱をつけることでかれらの便宜を図っています。
さらに高みには中央アメリカ~南アメリカに住むショウジョウトキ。かれらの鮮やかな羽色もフラミンゴ同様、食物に由来しています。
ネコ科の肉食獣を集めた「ハンターの城」。ここでも高みに臨む者たちが。
アムールヒョウのメス・ピンです。2014/3に2頭のメスの仔・カランとコロンを生みましたが、カランは東武動物公園・コロンはいしかわ動物園(石川県)に移動しました。
また、繁殖の相方であったオスのアニュイもイギリスから来た貴重な血統の個体ということで2015/12/15に広島市安佐動物公園に移動して、新たなペアリングが試みられています(※)。
ヒョウは元々、おとな個体が1頭ずつで暮らす単独生活者なので、このような分散にも適応して新たな展開が期待されています。
※詳しくは、こちらを御覧ください。
宙に懸かる丸太も平然と渡ります。
足裏まで間近で観察できるスポットも。
アフリカのサバンナに適応し、ネコ科では唯一群れをつくるライオン。なかよく日向ぼっこを見せてくれることも多い、オスのブワナとメスのラヴィですが……
岩山に君臨(?)するラヴィ。ライオンは木に登ることも出来ます。
その頃、ブワナは……。ハンターの城ではネコたちのダイナミックな身体能力を引き出すことと、来園者が間近でかれらと向き合えることの両方を意識した施設づくりがなされています。ケージ越しなら、かれらの放つにおいまでも体感できます。
丸太などの爪とぎ用具も動物たちの習性に基づく需要を満たすとともに、その配置によって来園者との距離を詰める効果を持ちます。
こちらは秋田市大森山動物園からやってきたアムールトラのメス・ミルル。カプセル状の観覧窓から覗けば、こんなビューも体験できるかもしれません。
トラも単独生活者なのでオスのアビとは日替わりで展示されていますが、2頭のペアリングのためにバックヤード(休園日には運動場でも)「お見合い」の試みが進められています。アムールトラの繁殖は当園にとっては、はじめてのプロジェクトです。
負けじと(?)迫力の大接近は、ピューマのマロンです。
かと思えば、こんなところにいることも。潜んでいても炯炯とした眼光です。
こちらは比較的小型なカラカル。メスのカーラです。オスのカールと日替わり展示です。
当園ではカラカルも貴重な繁殖に成功しています。みかん箱に収まった姿が話題ともなったメス・クルン(2014/5/31生まれ)は現在、姫路市立動物園に移動しています(2014/9/2撮影)。
もうひとつの小型種サーバルも、ジャンプで鳥を狩ることもあるという身軽さをいかんなく発揮しています(写真はオスのディーン)。
観覧窓近くに置かれたトロ舟に入りつつもこまめに自己主張(?)。
わたしたちは動物園で世界中の動物と出逢うことが出来ます。動物園は動物たちの本来のありように配慮しながら、かれらを健やかに飼育し、わたしたち来園者にその姿を展示しています。そこから多くの楽しみを得つつ、わたしたちは動物たちの向こうに広がる世界(環境)を考えるきっかけを得ることが出来ます。わたしたちと動物たちが、共にしあわせに健やかに生きていくためのミニマムは何でしょうか。そんな問いをしっかりと受け止めてみたいと思います。
次回もさらに、福山市立動物園で暮らす動物たちと、かれらへの動物園の飼育的配慮や展示の工夫を見つめていきたいと思います。
福山市立動物園
四季折々の自然に囲まれ、家族ぐるみのレクリエーションの場として、動物たちとふれあい、生き生きとした姿を間近にできる動物園。
〒720-1264 福山市芦田町福田276-1
電話 084(958)3200
飼育動物 64種357点(2016年2月末現在)
開館時間 9:00~16:30 (入園は16:00までにお願いします)
休館日 毎週火曜日(火曜日が祝日の場合、その翌日)
※3月〜5月、9月〜11月は、休園日なしで毎日開園します。
アクセス
車・・・JR福山駅より30分。山陽自動車道福山東I.C.、福山西I.C.よりそれぞれ約30分。
その他詳しくはこちらを御覧ください。