Archive for 4月, 2016

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ペンギンは海中を「飛ぶように泳ぐ」ことに特化した鳥類として南半球に広く分布します。種ごとに生息環境や習性などが異なっています。

フンボルトペンギンは、南アメリカのペルー・チリの沿岸などに分布します。かれらは日本の気候にもよく馴染むので屋外プールで飼育されています。公開給餌である「ぱっくんタイム」(※)の際には、投げ与えられたアジを我先に食べます。満足した個体から再び気ままに泳ぐようになり、やがて「ひとときの宴」は落ち着いていきます。この時間を含め、全33羽に1日当たり18kgのアジを与えているとのことです(2016/3/3~4取材)。

 

※園内各所・各種動物への「ぱっくんタイム」ほか定例イベントの実施状況については、こちらを御覧ください。

 

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一方こちらは南極を取り囲むように分布するジェンツーペンギンです。かれらは特別に温度調整された屋内で飼育されており、わたしたちはガラスを通して観察することが出来ます。ジェンツーペンギンたちへの「ぱっくんタイム」はスケソウダラが与えられ、上陸してきたかれらへの飼育員からの手差しのかたちになっています。

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動物種ごとの習性などに配慮し、工夫しながら食事が出来るようにしてやることは、かれらが自分たちの能力を発揮する機会を与えることになり、採食時間の延長によって動物たちが飼育空間の中で退屈してしまうことを防ぐ効果もあります。

オーストラリアやニューギニアなどの森林に住むフタニクダレヒクイドリには「ケバブ」と称されることもある、このような数珠つなぎの餌が工夫されています(※)。この仕掛けは他の動物園でも実施されているようですが、野生でも果実や虫などをくちばしで採るかれらの生活が垣間見られるように思われます。

 

※ハートがついているのはバレンタイン企画に使われた名残です。

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思わずとりこぼすことも多いのですが、地面から食物を拾う行動も野生の反映と言えるでしょう。

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食べていくにつれて、上にあった餌がずり落ちてくるのも「ケバブ」が巧みにつくられている証しです。ひと連なりの中で、下の方(最初の方)の餌を取りにくくするようにしているとのことです。また「ケバブ」を吊るす場所も普段あまり行かないところを選んで動物の行動域の拡大を狙っています。

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ヒクイドリの隣のダチョウのオス。わたしを相手に盛んに「求愛ダンス」を踊ってくれました(2016/3/4撮影)。「異文化コミュニケーション」というところでしょうか……?

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そして、ダチョウとは逆隣、ヒクイドリに見下ろされていくのはメスのカピバラ・コトネです。本来は別の場所で群れ飼育されていましたが、コトネから新入りのオスへの攻撃が目立ったため、一時的に離されています。

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こちらが本来のカピバラの群れです(小動物ゾーン)。現在、新しいオスを迎え入れての群れの再編が試みられています。

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カピバラたちの展示場には、こんなハンズオン(体験的にさわれる展示物)も。カピバラは体も大きく(体熱が奪われにくい)、本来は南アメリカのアマゾン川流域を中心とした温暖な水辺に生息するためか、体には粗い毛だけが生えていて、柔らかい下毛はありません。箒をさわることで、そんなカピバラの「撫で具合」が疑似体験できます。

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こちらがカピバラたちの展示場の全景です。奥の高いところに巣穴があるのがわかりますか?

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巣穴の住人はこちら。オスのオニオオハシ・トコです。取材時(2016/3/3~4)は防寒対策でカピバラ舎に隣接する屋内展示に移されていましたが、温かい季節には同じ南アメリカの森の仲間であるカピバラと同居します。

樹上・空中と地上・水中、同じ地域に住みながらも動物たちはそれぞれに分化した生息環境で暮らし、それにふさわしい姿や能力を持っています。「小動物ゾーン」では各地域でのそんな対比を示す展示が行なわれています。

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オニオオハシの隣には、2羽のコバタン(※)。かれらも本格的な春の訪れを待っています。インドネシア東部のスラウェシ島・フロレス諸島に分布するかれら。オニオオハシにとってのカピバラに当たるのは……

 

※手前が大柄なオスのトト、奥がメスのシロ。トトはカメラに反応してか、冠羽を逆立てています。申し訳ありませんが、ちょっと興奮させてしまったかもしれません。

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マレー半島・ボルネオ・スマトラなどに分布するマレーヤマアラシです。これもまた仲睦まじい様子のペア(小柄なオスはバイオ・のんびり屋のメスはモミジ)。

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マレーヤマアラシ舎の内外はちがった草が生えています。中にはイネ科のオーチャードグラス、外には御馴染みのクローバーです。オーチャードグラスはよく知られた牧草ですが、マレーヤマアラシはこれを食べません(カピバラには好まれます)。結果として、展示場内にはほどよい繁みが広がっています。一方でクローバーはマレーヤマアラシの好物です。折々にケージの隙間から前足を突き出し、クローバーを採食する姿も見られるとのことです。

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南アメリカ・東南アジアと来て、今度はアフリカです。

しかし、こちらの眺めはいままでとはちがいますね。美しいボタンインコたちのすぐ間近まで枝を登ってきている奇妙な動物。ボタンインコを狙っているのでしょうか?

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アフリカからアジア西部にかけて分布するケープハイラックスです。かれらは「岩狸」とも呼ばれ、恵まれた跳躍力で岩山や枝の上でも自在に動くことが出来ます。しかし、草食性(他に果実・花など)なので御覧のようにボタンインコとの共存も出来るのです(※)。

福山市立動物園ではケープハイラックスの繁殖にも成功しており、現在、6頭を飼育展示しています(1頭は2015/8/2生まれでまだ子どもです)。身軽な「忍者」ともいうべきかれら、地上から展示場の鉄骨の上までどこにいるかはその時次第です。是非、目を凝らして全個体が見つかるか探してみてください。

 

※前出のマレーヤマアラシ舎の外のクローバーは、もっぱらハイラックスの餌とされます。同様に舎内のオーチャードグラスもハイラックスの好物です。

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ハイラックスの足です。小さいながら蹄があるのがわかりますか。よく跳ね、草を食べ、実は上顎の切歯(前歯)が伸び続けるかれら。齧歯類やウサギの仲間だろうか、とも思われますが、現存の動物の中ではゾウや海牛類(ジュゴン・マナティー)が一番近縁であると考えられています(ゾウの牙も、伸び続ける上顎の切歯です)。遠い昔に展開した進化の痕跡を、愛らしくも不思議なかれらのありさまに偲んでみましょう。

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混合展示の最後はオーストラリアです。ここでの鳥はワライカワセミ。

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日本のカワセミは魚食ですが、ワライカワセミはもっぱら地上で狩りをします。その獲物も大柄な体に見合って、昆虫類からネズミ・ヘビなどに及びます。動物園でもマウスを与えていますが、御覧の通りの丸呑みも出来るのです(※)。

 

※他に、バックヤードの水槽で増やしているドジョウやジャンボミルワーム(甲虫の一種の幼虫)なども与えています。

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福山市立動物園のワライカワセミのペアには繁殖も期待されています。取材時(2016/3/3~4)にもメスが巣箱に入っている様子が観察できました。このような行動の組み合わせ・積み重なりの中から、やがては……動物園の試みは続きます(※)。

 

※メス個体は昨年末(2015年)にやってきましたが、オス個体の方は繁殖経験があります。

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ワライカワセミの展示場前には、あの独特の鳴き声を再生する装置も置かれています。

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ワライカワセミの相方はパルマヤブワラビーです。広い意味でのカンガルー類は、体の大きい順に連続的に(はっきりした区分けではなく)カンガルー・ワラルー・ワラビーと呼び分けられます。パルマヤブワラビーは森林生の小型カンガルー類ということになります。

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「繁殖」というキーワードを携え、「は虫類館」に踏み入ってみます。

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幾何学的な甲羅の模様が印象的なインドホシガメ。現在時でも大小さまざまな多くの個体が飼育されていますが、福山市立動物園はこのカメについて2001年に日本動物園水族館協会から繁殖賞を受賞しています(※)。

 

※日本の主だった動物園・水族館のネットワークである日本動物園水族館協会が、同協会に所属する園館の中で、それぞれの動物についての国内初の繁殖成功の申告を受けて与える賞。動物園・水族館での繁殖技術の向上は、希少動物の「種の保存」への貢献にもつながります。

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こちらはアフリカ大陸中央部から西部にかけて分布するレインボーアガマです。「は虫類館」にとっては昨年(2015年)5月のニューフェイスです。

 

「は虫類館」では土日・祝日には、普段触れないヘビやトカゲとの「ふれあいイベント」も行なわれています。

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最後に日当たりのよい高台に設けられた「サルゾーン」を訪ねてみましょう。わたしたちを含む霊長類もまた、仲間としての大きなまとまりとともに種ごとの多様性を展開しています。

エリマキキツネザルはマダガスカルに生息する原猿類(原始的な特徴を遺す霊長類)のひとつです。キツネザルとしては大型ですが、こんなふうにぶら下がったりすることもしばしばです(写真の個体・オスのキキは特にこんな恰好を好むとのことです)。驚いた時などに群れ全体で競うように発する大きな鳴き声でも知られています。

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こちらは中南米に住む「新世界ザル」のひとつでコモンリスザルです。果実などのほか虫も好んで食べます。公開給餌の「ぱっくんタイム」では、カプセルの中に入れたミルワーム(甲虫の一種の幼虫)を小さな穴から器用に取り出して食べます。手先の器用さ・親指が他の指と向き合ってついていることなどから(※)、小柄なかれらも、独自の進化を遂げた霊長類であることがわかります。

 

※ケージを掴んでいる様子に注目してください。

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中に一個体、特に小柄で体毛の薄いものがいます。当年17歳のメスでいわば「おばあちゃん」ですが、外観はともあれ、若い仲間たちに負けない力強さで食事に励んでいます。

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「おばあちゃん」といえば、是非こちらに注目を。シロテテナガザルのマリは既に50歳以上になるメスですが、1993/1/9に29番目の子どもを出産し、それをもってギネスブックに登録されました。その後、33番目まで子どもをもうけ、現在はのんびりと老後を送っています。

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こちらが33番目、マリの末っ子のアンソニー(オス)です。現在、ペアリングが試みられています(※)。

 

※若いメス・キャンディーも、この日(2016/3/3~4)にはマリと並んで屋内通路から観察することが出来ました。

 

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こちらはマントヒヒの群れ。オス1・メス2の組み合わせは1頭のオスが複数のメスとつくるヒヒの群れの基本単位をミニマムに再現していると言えます。

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マンドリルもペアで暮らしていますが、かれらのケージの中の丸太を見ると、その歯や顎の頑丈さがよくわかります(※)。

 

※齧り木が、ある種の動物たちにとっては日常を豊かにする飼育的配慮になり得ることは前回にも御紹介しました。

 

また、福山市立動物園のゲートを出てすぐ横の事務所ロビーには「サルの骨格標本コーナー」が設けられており、園のスタッフの手づくりによるマンドリルの骨格も展示されています。歯・顎などをしっかり観察するのに頭骨は貴重なもので、動物園の生きた個体の展示を補完するものとなっています。

 

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「サルゾーン」を背にした斜面の上には、動物たちのための「供養碑」があります。いまを生きる個体とともに、かつてここで過ごした個体、すべての動物たちの記憶と現在が福山市立動物園の歴史を刻み続けています。園内を歩き、目の前に広がる動物たちのそれぞれに異なる魅力に接するとともに、それが過去から未来へと連なるいのちのひとコマであることを想っていただければと思います。

 

 

福山市立動物園

四季折々の自然に囲まれ、家族ぐるみのレクリエーションの場として、動物たちとふれあい、生き生きとした姿を間近にできる動物園。

公式サイト

〒720-1264 福山市芦田町福田276-1

電話 084(958)3200

飼育動物 64種357点(2016年2月末現在)

開館時間 9:00~16:30 (入園は16:00までにお願いします)

休館日 毎週火曜日(火曜日が祝日の場合、その翌日)

※3月〜5月、9月〜11月は、休園日なしで毎日開園します。

アクセス

車・・・JR福山駅より30分。山陽自動車道福山東I.C.、福山西I.C.よりそれぞれ約30分。

その他詳しくはこちらを御覧ください。