12月
13
2015
さまざまな暮らし・それぞれの時間 浜松市動物園・その2
Author: 森由民※本稿は2015/11/5~6の取材を中心に、それ以前の見聞を交えて構成されています。
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浜松市動物園の類人猿舎屋内(※)、なにやら小屋のようなものが。表札の主は「メンフクロウ」です。
※類人猿については後述します。
メンフクロウは英語で「納屋の梟(Barn Owl)」と呼ばれ、しばしば農家の納屋に住みついて巣づくりもします。
その理由はこちら。農家にとっては害獣であるネズミはメンフクロウにとっては御馳走です。そんなわけで、農家にとっても「納屋の梟」は歓迎するべき居候なのです(※)。
※差し支えなければ、こちらの拙エッセイも御覧ください。
鳥と言えば、フライングケージ。
地には、たとえば湿地に適応した「大足」のバン。ふり仰げばアフリカクロトキ・ショウジョウトキ。水辺の鳥を中心に飛ぶも歩むも自由な暮らしを見せています。
クジャクバトの食事。植物食・魚食等の鳥種ごとのレシピも掲示されています。
こちらはジュズカケバト。観察のヒントも満載です。
キュウカンチョウの「なっちゃん」はフライングケージのアイドルのひとり。人のことば以外にクジャクの鳴きまねなどもするとのことで、動物園暮らしならではのレパートリーと言えそうですね。
起伏に富んだ地形は浜松市動物園の特質のひとつです。先ほどのフライングケージ(写真右端)を抜けてくると、そこは猛禽たちのエリア。高みを舞うかれらの世界を体感できます。
オジロワシのロビンソン(オス)は京都市動物園生まれの寄贈個体です。
2011年生まれのハクトウワシ・チャップ(オス)も、その名(白頭)にたがわぬ偉丈夫となってきました(若鳥では頭も焦げ茶色です)。
フンボルトペンギンも泳ぐことに特化した鳥です。当園の展示はペルー・チリ沿岸原産のかれらに見合った落ち着いた景観となっています(南極・亜南極的な氷の世界の体裁ではありません)。
さらにはカリフォルニアアシカ。プール内の仕切りを飛び越えるダイナミックな体技もしばしばです。
アメリカビーバーは14時半頃から活発になる傾向がみられるとのことです。特に夕刻の食事時間はチェック・ポイントでしょう。
前回のホッキョクグマも含めての、さまざまな「水もの」の動物たち。その生活を支えるのが、この施設です。浜松市動物園では園内の汚水処理施設を活用して用水の浄化・循環利用に努めています。また、汚泥は動物たちの排泄物とともに堆肥づくりに活かされ、隣接する「はままつフラワーパーク」などにも送られています。
こちらも「水もの」、コツメカワウソ。父母とオスメス2頭の子どもがおり、現在は午前と午後に性別ごとの交替で展示しています。
ダイナミックなダイブや水中でのスマートな泳ぎも披露されています。
さらにかれらの「寝室」を覗き見るための窓も。野生でも巣穴をつくるかれらの暮らしを、文字通りそっと垣間見てみましょう。
別窓と言えば……こちらも。夕刻に見られるミーアキャットたちの食事です。カワウソは魚食性のイタチ科、ミーアキャットはアフリカの乾いた土地に適応したマングースの仲間。同じ肉食動物でも自ずとちがった食性を持ちます(※)。
※当園では鶏頭やマウスを与えています。さらには果物や固形飼料など、なかなか豊かなメニューです。
ペアとその子どもたちを基本とする群れ生活(※)。塩ビ管を潜る姿も、野生での巣穴の暮らしを彷彿とさせます。
※母親個体のサザエは多くの子どもをのこしつつ、つい先日亡くなりました。
ミーアキャットは交互に見張りに立つ習性を持ちます。時にはこんなひとときの出逢いも。
野生での捕食者は、もっぱら猛禽類とされています。まさに天敵注意。ヘリコプターにも警戒を怠りません。
こちらは、わたしたちが感電注意……。
それぞれの動物たちにふさわしい暮らし。さらに、ある動物たちの「おうち」を御紹介しましょう。
浜松市動物園では1994/12以来、日本で唯一ゴールデンライオンタマリンを飼育展示しています。繁殖にも成功しており、海外に転出した個体もいます(※)。写真は2002年に当園で生まれたオスのボビー。「サルのアパート」では、かれらゴールデンライオンをはじめとする中南米の森の小型霊長類「キヌザル類」が展示されています。
※詳しくはこちらを御覧ください。
コモンマーモセットもそのひとつです。
キヌザルの仲間は昼間は樹上で活動しますが、夜には木のうろ(樹洞)で眠ります。当園のバックヤードでは、こんな巣箱を設けることでキヌザルたちの需要に応えています。これこそがかれらの「おうち」です。
普段、なかなか見ることもない動物園の「裏側」。この展示はいわば「種明かし」ですが、種明かしされてもおもしろいのが動物園です。それは飼育を知る楽しみです。動物園飼育は野生動物たちの本来の生活を参照し、かれらにとっての必要条件を抽出・再現することを意識しています。そんな理に適った営みだからこそ「種明かしがおもしろい」ことになるのです。見た目は人工的な巣箱でも、そこに「ミニマムな樹洞」を見て取れるようになるなら、わたしたち来園者も少しだけ目が肥えたことになるのではないでしょうか。
クロザルたちの展示施設でも人工物の活用が見られます(クロザルについては2014/9/6に撮影しました)。
飼育員の手づくりの給餌器。手探りで食物を取りださせることで、クロザルたちの知能や手先の器用さが発揮されます。
みんなでお食事。群れでの生活を保障してやることも大切な飼育的配慮です。社会的な満足、索餌や採食のレパートリーを増やすことでの退屈防止、動物園の努力や工夫がくっきりと見えてきます。
サル山にも、そんなまなざしを向けてみましょう。群れ生活者には群れの暮らし。
そして、タイヤやチェーンも森(樹上)での移動生活の感覚を再現していると言えるでしょう。わたしたちにとっての展示効果だけでなく、ニホンザルたちにとっても少しでも生活を豊かにする試みがなされているのです。
ちなみに移動生活であるからにはサル山は「おうち」ではありません。ニホンザルに再現するべき「野生の住まい」はないのですから。前述のキヌザルハウスなどとも比較しておきたいところです。
こちらはひとりのんびりのボルネオオランウータン。メスのムカです。この無防備さは動物園暮らしの表れかもしれませんが、彼女が独りなのは普通のことです。野生のオランウータンはオスもメスも単独生活者です。繁殖行動の折にだけ両者は出逢い、出産も育児もメスだけで行ないます。「お父さんのいない社会」と言ってもよいでしょう。
そんなわけでオスのバリとは替わりばんこに屋外を使うのが日常です。そして、こちらがメンフクロウの話でも御紹介した屋内展示。屋外とは別の間近さでの向き合いが可能です。
こちらはチンパンジーたち。手前はオスのジョニー、奥はメスのチーコ(※)。ふたりはこのくらいの日常距離がお気に入りのようです。
※別にジョニーの息子のジュンも飼育されています。動物園では各個体のペースを大切にしながらジョニーたちとジュンの同居の可能性も探っています(ジュンは人工保育個体です)。
そしてゴリラのショウ。まぶたをいじる癖があるせいか、数年前から腫れています。ショウはかなりデリケートな性格であるため、園としては不用意な麻酔治療などは避け、受診のためのトレーニングを進めるなどして対処を考えています。そんなショウもこの日(2015/11/6撮影)は、気の早い秋の陽を惜しむようにこんな姿を見せていました。
それぞれの時間、さまざまな暮らし。世界中から動物たちを集めている動物園にとって、それは飼育展示の要となっています。個体ごとのちがいに配慮しなければならないのも、生きたかれらと向き合う場ならではのことです。
ゴリラと飼育担当者の一日の比較も。ショウにマイペースで暮らしてもらうために、飼育担当者自らは細やかなタイム・スケジュールで働いています(類人猿舎屋内展示)。
ところ変わって、アメリカバイソンのオス・シャリバン。悠然と構えているのが常ですが、時には豪快な砂浴びも。
こちらはメスのプレサージュです。飼育スペースが限られているため(他園への搬出も期待できません)、繁殖を避けてシャリバンとは隣り合わせの個別飼育になっています(お互いに間近でふれあうことは出来ます)。
与えられた条件の中での責任ある飼育。園としての分離飼育の判断については、展示場前の掲示を御覧ください。他にも飼育担当者ならではのエピソードなどが紹介されています。
ポニーの長老・トニー(1993/3生まれ・オス)。長らく乗馬個体として親しまれましたが、いまは引退して悠々自適です(後ろにいるのはメスのチャチャです)。
さらに、トニーと同じ1993年生まれのオスのロバ・マック。メスのエミリーは昨年暮れ(2014/12/15)に26歳で亡くなりましたが、マックは御覧の通り、のんびりと暮らしています。
こちらはネコ科の猛獣中心の中獣舎。黒ヒョウ(※)のペアのシム(オス)とシュヴァルツ(メス)。ふたりは今年10/16に子宝にも恵まれています(※※)。
※「黒ヒョウ」という種はいません。ヒョウの遺伝的黒変個体です。写真でもわかるように、明るい陽の下では豹柄が見て取れます。
※※残念ながらシュヴァルツの育児が不順であったため、現在、ベテラン飼育員の手で人工哺育中です。一人前のヒョウへの成長を祈念します。詳しくはこちらの記事ほか「飼育員だより」のレポートを御覧ください。
最後にジェフロイクモザル。正門ゲートからの流れとなるかれらの「島池展示」は入園・退園の折に自然と目にすることが多いのですが、メスのナナ(先の写真)とオスのトクのふたりの暮らしはいつも静かな時間が流れているように思われます。
浜松市動物園
国内で唯一ゴールデンライオンタマリンを飼育展示し、動物たちとのわくわくする出逢いに満ちた郊外型動物園。
〒431-1209 浜松市西区舘山寺町199番地
電話 053-487-1122
開園時間
9:00~16:30(入園は16:00まで)
※ 16:00より閉園準備のため、御覧になれない動物があります。
休園日
12/29~12/31
アクセス
新幹線・JR浜松駅北口・バスターミナル1番ポール「舘山寺温泉」行きで約40分。バス停「動物園」下車。
その他、こちらを御覧ください。