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両生類といえば、まずはカエルが思い浮かぶかと思います。アクア・トトぎふでも、たとえば、山間部に住むモリアオガエルが飼育展示されています。吸盤の発達した足は、野生での樹上生活、そして水槽の内壁にも、この通り。

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カエルは、尾を持たない両生類「無尾類」ですが、両生類には尾の発達したものも多数存在します。さきほど、モリアオガエルと水槽内で同居していたアカハライモリも、そんな「有尾類」のひとつです(※)。こちらの写真は、もうひとつ別の水槽で撮影したものですが、水草を後ろ足で挟む独特の姿を見せているのは、メスの個体です。アカハライモリは、こうやって水草に卵を産みつけるのです。

 

※現生の両生類には、他に「無足(アシナシイモリ)類」がいます。

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アクア・トトぎふの水槽内では、オスがメスに求愛する様子も観察されています。

アクア・トトぎふほかの観察の中で確認されている段取りとしては、まず、オスがメスの肩のあたりに後ろ足を載せて、尾を振ります。メスが受け入れの反応を示すと、オスはメスを先導するように移動しながら、精包(精子の詰まったカプセルのようなもの)を排出します。後からついてきたメスは精包を取り込み、メスの体内で受精が行なわれた後、さきほどのような産卵に至ります。

これらの行動のディテールは地域によって異なることが知られ、外観の地域差などとともに、日本産のアカハライモリのさらなる分類・系統づけに関する議論が重ねられています。アクア・トトぎふの二つの水槽での岐阜・愛知県産の個体の観察と、積極的な対外報告も、そのような議論に貢献する貴重なデータとなっていくでしょう。

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世界最大級の両生類であるオオサンショウウオも、清流近くの生きもののひとつとして展示されています。

オオサンショウウオは日本の固有種であり、その分布も中部・西南日本の一部に限られています。また、河川の改修工事(コンクリートの護岸)などによる生息環境の破壊・喪失もあり、国の特別天然記念物に指定されているとともに、その保全にも多くの取り組みがなされています。

しかし、「日本のサンショウウオ」と言うとき、そこにはオオサンショウウオのほかにも、多くの小型サンショウウオが含まれます。それらのほとんども日本固有種で、個々の種の分布範囲はかなり限られています。

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各地の動物園・水族館でも、地元産の小型サンショウウオの飼育展示が試みられています。

札幌市円山動物園では、2011年春に新設された「は虫類・両生類館」の一角で、エゾサンショウウオの小柄ながらも独特のつややかな姿が観察できます。

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こちらの2点は、いしかわ動物園(石川県)。石川県の水辺の環境を上流から河口にわたって再現した「郷土の水辺」の展示の一環として、ホクリクサンショウウオ・アベサンショウウオが展示されています。アベサンショウウオは、園の周辺の里山にも生息しますが、繁殖等に適した環境は限られます。いしかわ動物園は、ホクリクサンショウウオ(2001年)・アベサンショウウオ(2011年)の、国内の動物園・水族館初の飼育下繁殖に成功し、日本動物園水族館協会(日動水)より繁殖賞を受賞しました。

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地元・岐阜の淡水生物を重視するアクア・トトぎふでも、多くの小型サンショウウオの飼育や展示が試みられています。これはクロサンショウウオ。全長20cm弱まで成長することもある比較的大型の種で、山麓部から2000m級の高山まで生息しています。

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こちらは、ヒダサンショウウオとコガタブチサンショウウオ。同所的に生息していることもあるので、同じ水槽で展示されています。日本にはオオサンショウウオ科・サンショウウオ科を合わせたサンショウウオ類が29種類生息するとされますが、岐阜県では、そのうち7種が確認されています。アクア・トトぎふでは、オオサンショウウオと、後出のカスミサンショウウオを含め4種の小型サンショウウオを常設展示しています。

しかし、これらが当館のサンショウウオ飼育のすべてではありません。さらに大きな飼育の営みの広がりがあり、わたしたちの目に触れる展示を支える基盤となっています。動物園・水族館は「種明かし」されてこそ、さらに楽しめ、深く学べる場であると思います。ここでも、アクア・トトぎふの御厚意をうけて、少しばかり、バックヤード見学をさせていただきましょう。

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いきなりながら、暗幕で包まれた装置。開ければ、中には、こんなものが。小型サンショウウオを入れた飼育ケースです。

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さきほどと同一仕様の、別のケースを開けていただきました。コガタブチサンショウウオです。手前の木切れの下に、奥に写り込んだ一群が潜んでいました。コガタブチサンショウウオの成体(おとな)は、森の落ち葉の下や腐葉土の中で暮らしていますが、繁殖期になると、地下を流れる水(伏流水)に入り込んでいきます。オスとメスは伏流水の中で出逢います。つまり、かれらにとっては、暗い水の中こそが繁殖の場なのです。

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さきほどの暗幕の中には、さらに暗幕の掛けられる場所があり、そこに設けられた小水槽は、サンショウウオのいる飼育ケースとパイプでつながれています。このパイプには適量の水流がつくられています。この小水槽が繁殖の場であり、装置全体は、暗がりの中で伏流水を遡るという環境条件の再現となっています。コガタブチサンショウウオでは、取材時(2015/2/12)、パイプの連結は外されていましたが、さきほどの写真の、密閉したままの飼育ケースにはハコネサンショウウオが飼育されており、こちらではパイプの連結を見学することが出来ました。アクア・トトぎふでは、既に、このシステムでのコガタブチサンショウウオの繁殖に成功しています(※)。そして、さらに深くまで伏流水の中に入り込んで繁殖するというハコネサンショウウオについても、同様の手法を試しているところなのです。

 

※2012年、繁殖賞受賞。2014年には、同じ日動水から「コガタブチサンショウウオにおける飼育繁殖の試み」に対する技術研究表彰も受けています。

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これは館内展示として流されているビデオのひとこまです。暗い繁殖の場で、コガタブチサンショウウオのオスがメスの産んだ卵のう(卵の詰まった袋状の構造)に抱きついています。地下で行なわれる野生の繁殖行動の詳細を観察することは、きわめて困難ですが、飼育下で環境条件を再現することで、このような貴重な行動記録が得られるのです。

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こちらは昨年(2013年)5月に産みつけられた卵から孵った、コガタブチサンショウウオたちです。

アクア・トトぎふのバックヤードの、コガタブチサンショウウオの繁殖装置を、展示を観賞するようなまなざしで見るなら、予備知識なしでは「生息地の再現」と理解することは難しいでしょう。しかし、解説を受けたり、いささかの学びをするなら、もっぱら人工物の組み合わせでつくられた飼育装置が、見事に、サンショウウオにとって必要な生息環境の条件をピックアップし、組み込んでいることが分かるでしょう。

一般市民としての来園者を意識するなら、外見の再現を重んじた「生息地のミニチュア」の展示効果・伝える力は無視できません。そういう展示に触れることで、人はあたかも実際の生息地を訪れたように想いを抱くこともあるのです。しかし同時に、見た目とは別に、異国や、わたしたちの日常空間とは隔てられた場に生きる動物たちにとって必要な飼育条件を問い詰め、ミニマムな構造・機能の必要をクリアすることは、「生きた(野生)動物を飼育展示する」動物園・水族館において、不可欠の飼育の営みと言えるでしょう。

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常に低温に保たれたインキュベーター。この中には、ハクバサンショウウオの飼育ケースが収められています。岐阜県でも、飛騨市・高山市など県北部で生息が確認されていますが、アクア・トトぎふの外気温(特に夏場)では適切な飼育は難しいと考えられ、御覧のような対処が行なわれています(※)。どんな環境条件を整えることで、かれらの生育・生存・繁殖等を保証できるか。ここにも「ミニマム」を把握する探究があります。

 

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こちらは、2014/6生まれの、ハクバサンショウウオの幼体です。スタッフの想いと手に支えられて、ゆっくりと育っていきます。

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衣装ケースの中はコオロギ、棚の上の瓶はショウジョウバエです。サンショウウオばかりでなく、カエル類などの餌にもなります。

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前篇で御紹介したカワネズミ(No.4)。この種としては高齢と思われながらも、マイペースな健やかさが印象的ですが、他に4頭のカワネズミがバックヤードで飼育されています。ペアリング(繁殖)も試みられています。かれらについても、飼育下ならではの貴重なデータが積み上げられていくことでしょう。

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再び、小型サンショウウオ。こちらは屋外の施設です。ハクバサンショウウオなどとは対照的に、ここの外気温や四季の変化に適応できる種については、まずは自然条件そのものの助けを得ながらの飼育が行なわれます。そこから、さらに環境条件のピックアップへと、飼育のステップは進んでいくのです。

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クロサンショウウオの卵のうは、アケビのようなかたちをしています(※)。

 

※当館は、クロサンショウウオについても2009年に繁殖賞を受賞しています。

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ここまでの飼育種は、どれも岐阜県内に生息するものでしたが、こちらはツシマサンショウウオ。そして、いしかわ動物園の事例を御紹介したアベサンショウウオも飼育されています。これらと、岐阜県在来種との比較対照からも、貴重な知見が得られ、アクア・トトぎふのみならず、他園館や研究機関等との交流も含めて、それぞれの種の保全、ひいては日本全体でのサンショウウオをはじめとする生物多様性の認識も深まっていくと思われます。

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最後は、こちらです。看板にある通り、カスミサンショウウオの屋外飼育が行なわれています。かれらは、コガタブチサンショウウオ等とはちがって浅い池や水たまりなどで繁殖するので(止水性)、このような環境が生息・繁殖に適しています。

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よしずが掛けられた水中には卵のうも確認できます。

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カスミサンショウウオは岐阜市内にも生息しています。しかし、確認されているのは、わずかに一地点のみ。産卵場所に至っては、付近の排水溝の中です。明らかに、人間活動の圧迫で、かれらの生存はぎりぎりの状況にあると言えるでしょう。現在、カスミサンショウウオは、岐阜市の条例で貴重野生動植物種に指定されています。アクア・トトぎふは、岐阜高校自然科学部生物班や岐阜市役所などともに、貴重な卵のうの一部を採集し、こうして管理飼育を続けています(※)。このような営みには、いわゆる「生息域外保全」としての種の保存のみならず、簡単ながらこれまでも御紹介してきたような、飼育下ならではの知見の蓄積が期待されます。それは、野生の環境の的確な保全にも、必ずや反映されていくことでしょう。

飼育員の掌の上の、小さなサンショウウオには、日本の自然の豊かさや、ほかならぬわたしたちも含めての、この国の歴史が秘められています。現状は、さまざまな危うさも孕んでいますが、水族館の水槽や、バックヤードの飼育池での日々から、大きな力が湧き出ていく、そんな望みを感じるのです。

 

次回は、3/11(水)掲載予定です。

 

この活動には、岐阜大学も参画しています。

前篇で御紹介した参考資料『ぎふの淡水生物をまもる 増補改訂版』には、岐阜県山県市の高富中学校生物部によるヒダサンショウウオの調査など、他にもいくつもの貴重な活動のレポートが収録されています。

 

参考資料(前篇以外)

田上正隆・堀江俊介・堀江真子(2012)「コガタブチサンショウウオにおける飼育下繁殖の試み」『動物園水族館雑誌』53(3):70-75

TAGAMI, M., HORIE,C., KAWAI,T., SAKABE,A. and SHIMADA,T. (2015) The Mating Behavior of Cynops pyrrhogaster  from Gifu and Aichi Prefectures,Central Japan,in Captivity. Current Herpetology 34(1):12-18.

 

世界淡水魚園水族館アクア・トトぎふ

河川環境を学び、生きものたちと出逢いふれあう水族館

公式サイト

〒501-6021 岐阜県各務原市川島笠田町1453

Tel:0586-89-8200

飼育動植物 約260種28500点

開館時間

平日 9:30~17:00(最終入館は16:00)

土日祝日 9:30~18:00(最終入館は17:00)

休館日
年中無休

臨時休館等の最新情報について詳しくは、こちらを御覧ください。

アクセス

東海北陸自動車道・川島パーキングエリア(及びハイウエイオアシス)から高速道路を降りずに入館可能。

その他、こちらを御覧ください。

 

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