6月
23
2015
Babies I Love You OK ! 大阪市天王寺動物園・その1
Author: 森由民天王寺動物園の朝、いきなりながら真打登場。2014/11/25生まれのメスのホッキョクグマ・モモと、母親のバフィンです。天王寺動物園は2015/1/1で100周年を迎えました。当園としては16年ぶりのホッキョクグマの繁殖成功となったモモ(百々)は、この100周年にちなんで命名されました。母親のバフィンは他園で過去3回出産を経験していますが、いずれも育児放棄となっており、今回はじめて安定した育児に至っています。
放飼(出場)早々、格子越しに向き合う母子と担当飼育員。飼育員がホイッスルをくわえているのが分かります。次第に夏めいた暑い日が増える中(2015/6/10取材)、バフィンは表に出たがらない傾向があります。そこで、「表に出る」「シャッターが閉まる」という節目ごとにホイッスルを鳴らして、少しのおやつを与えています。科学的トレーニング技術の応用であり、こうしてバフィンに無理強いすることなく、落ち着いた「動物園暮らし」のリズムを定着させようとしているのです。モモはひとまず「お相伴」です。
モモはすくすくと成長し、すこぶる元気です。バフィンから離れての行動も目立ってきました。
この写真の頃(2015/3/31撮影)からおよそ70日。ホッキョクグマの赤ちゃんは、見る見る変わっていくのです。
おもちゃ発見。枝をくわえている姿も、よく観察されます。
もっといいもの、見つけた!飼育員が投げ込む、さまざまな遊具にもすっかり馴染んでいます。これらの遊びは、泳ぎのきっかけとなり、ホッキョクグマらしい体をつくるのに大いに役立っています(※)。
※ダイビングは、野生のホッキョクグマがアザラシなどを狩るときにもみられる行動です。
時には、おかあさんとのとりあいも……この黄色いパイプ、元々はガス管です。
6/16、モモはまたひとつ、「おとなの階段」を昇りました。取材時には御覧の通りだった運動場右寄りのステップを、ついに自力でクリアしたのです。詳しくはこちらを御覧ください。
天王寺動物園では、ホッキョクグマのほか3種のクマ類(メガネグマ・ニホンツキノワグマ・マレーグマ)がひと並びに展示されています。モモやバフィンからの流れで、各地の環境に適応したかれらを比較する「世界のクマ・プチツアー」を試みてもよいでしょう。写真はマレーグマのマーズ(オス)。しばしば、バックヤードの飼育員の様子を窺う独特のしぐさで知られています。
次は2014/8/9生まれのジャガーの双子です。8月(葉月)生まれなので、オスは葉月旭(あさひ)・メスは葉月ココと名づけられました(※)。母親のルースと同居しています。ルースは大阪市と上海市の親善動物として2011年に上海動物園から来園しました。隣の運動場には父親のジャガオもいます。おとなのジャガーは単独生活者なのでオスもメスも一頭で暮らします。旭やココにとっても母親やきょうだいと一緒に暮らせる時間は短く、その間に必要な社会性や基本的な行動などを身に着けます。なにげなく映る旭とココのじゃれあいも、貴重な学びのひとときなのです。
※旭は「九日」、ココも「九」で、ともに「9日生まれ」を意味します。
何種類もの霊長類たちの比較展示であるサル・ヒヒ舎。ここでもフクロテナガザルの赤ちゃんが生まれています(2014/9/22生まれ)。テナガザルは「一夫一婦」のペアをつくります。父親や、年かさの兄姉なども子育てに参加します(現在はペアと赤ちゃんの「三人家族」です)。
新しいいのちの誕生は哺乳類ばかりではありません。
「鳥の楽園」は、大きなドームの中にわたしたちが歩み入り、自由に飛び交う鳥たちの姿を観察することが出来ます。写真はウミネコの飛翔です。
首をもたげ、くちばしをカタカタと鳴らすシュバシコウ(ヨーロッパコウノトリ)。クラッタリングと呼ばれる、この行動は、なわばりの主張やペア同士のコミュニケーションのために行なわれます。
別のペアの巣。ヒナの姿がありました。シュバシコウは人家の屋根で巣づくりをすることも多く、東ヨーロッパでは、それを吉兆と見なすと言います(※)。コウノトリを「赤子を運ぶ使い」とする発想も、そんなところから出てきたのでしょう。
※「鳥の楽園」の中に向かう通路にはシュバシコウの生態に関する図解が掲示されています。
コサギ、アオサギ……シュバシコウの他にも見られる数々の巣。
こちらはよく見ると、ドームのネットの外側にあります。野生のアオサギも、こんな場所を選んで営巣しているのです。
カリフォルニアアシカの池の柵にとまる、この鳥。見覚えがあるような、ないような……。
ゴイサギの幼鳥です。写真奥の成鳥と比べてみてください。
ここでも母鳥の下で守られるヒナの姿。
キジ舎の一角、ヒオドシジュケイの母子です。
こちらが父親。地上にいることも多いかれらの育児行動をじゃましないように、目隠しのシートが張られています。
楽しい園内散策で過ごすうちに、もう昼過ぎ。ホッキョクグマ舎では母子が収容され、職場体験生を率いた飼育員がリンゴなどをセッティングしています。
入れ替わりに放飼され、さっそくリンゴを賞味するのはメスのイッちゃん。2013/12/11、ロシアのノボシビルスク動物園生まれですが、豚まんなどで有名な株式会社蓬莱が天王寺動物園に寄贈し、今年(2015年)3/28に当園に到着しました。
株式会社蓬莱と天王寺動物園のホッキョクグマには深い関わりがあります。モモの父親であるゴーゴも2006年に蓬莱が当園に寄贈しています(写真は2010/2/24撮影)。ホッキョクグマも前記のジャガー同様に単独生活者であるため、子づくりの任を果たしたゴーゴは、現在、和歌山県のアドベンチャーワールドで、別のメスとのペアリング(繁殖)を試みています。そのゴーゴが帰ってきたとき、さらに別の繁殖の可能性を、ということで、今回のイッちゃんの寄贈が行なわれました。
ロックオン……それ!
巧まざるシャワーで御満悦の様子。
ホッキョクグマのプールで活用されていた黄色いガス管。園内では他にも応用例が発見できます。骨を砕いたまるごとの鶏を手にガイドを始めている飼育員……
昨年(2014年)にリニューアルされた運動場に入ります。鶏は、くだんのガス管の中へ。
登場したのはアムールトラの虎二郎(こじろう)です。虎二郎もジャガーのルース同様、上海動物園から2014/3/28に来園しました。
器用に肉を取り出して、ぺろり。
おやつが片付いても、しばらくは遊びが続きます。これも狩りの感覚につながっているのでしょうか。飼育動物たちの日常にめりはりを与え、かれらの退屈を減らす、このような試みは一見人工的な観もありますが、かれら本来の能力や習性とのつながりも感じ取れます。動物学的な観察と動物福祉の両面から見ていくことが出来るでしょう。
張り切る虎二郎の隣(以前からの運動場)では、ゆったりと堀を泳ぐ、別のオスのセンイチ。2003年に東京の多摩動物公園で生まれたセンイチは、その年のうちに当園に移動し、いまではすっかり住み慣れた様子です。
ヒツジの祖先にあたる野生種と考えられているムフロン。かれらが展示されている岩山にも、こんなひと工夫が見られます。
穴を開けたポリ容器や植木鉢、ブイなどに固形飼料を入れておくことで、ムフロンは自分たちの角などを活かし、時間をかけて食事をして一日を過ごすことになります。
ここで暮らすのはツウ・テン・カク(通天閣)のオス3頭です。
フタコブラクダのジャックも食事中。美味ですか?
ラクダのジャックなどの暮らす一角は、高い観覧通路からの見晴らしで動物たちの姿を楽しむことが出来ます。ハイイロカンガルーのユイ(メス)もそんなひとつ。ちょっと恥ずかしがり屋だとのことです。そっと見つめてあげましょう。
新しいいのちをめぐり、飼育的配慮に支えられた動物たちの日常のありさまを見つけてきた天王寺動物園散策。しかし、まだまだ御紹介するべきものは溢れています。次回は、このグラントシマウマのヒデミ(メス・2014/11/1生)も暮らす「アフリカのサバンナ」ほか、さらに個性的な展示施設を楽しんでみたいと思います。
大阪市天王寺動物園
全国で3番目に歴史が長く(1915年開園)、動物たちの「野生」を体感できる生態的展示の試みなど、いまも未来へ歩み続ける動物園。
〒543-0063
大阪市天王寺区茶臼山町1-108 大阪市天王寺動植物公園事務所
電話番号 06-6771-8401
飼育動物 約200種900点
アクセス
地下鉄「動物園前」①番出口より約5分。その他詳しくはこちらを御覧ください。